最終話「ドリフターズと汚れた手」5(1/2)
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スモール博士の死はすでに知らされていたようで、アレボリスの家には、彼の友だち連中が集まりはじめていた。
友だち連中というのはジュピタル・ソサエティのメンバーのことだ。
俺のような根無し草の労働者には縁のない話だが、気の合う学者連中が集まって、コミュニティを形成しているという。
法学生のアレボリス。
弁護士で法曹学院のOBであるヤスミン・マトラ。
著作家で、医学者のルイス・ルスフォード。
記者で詩人のガープ。
その他、何人かのメンバーがいるようだが、そこにいたのはその四人だった。
「やあ、レイ、マイラさん、わざわざ知らせに来てくれたみたいだね」
俺たちはコラリーに案内されて、居間に通された。四人はそれぞれ椅子についたり、ソファーに腰を落ち着けたり、あるいは落ち着かない様子で歩き回ったりしていた。
「マトラさん、この間はどうも」
俺はヤスミン・マトラさんに会釈した。
先日、カミングス一家と揉めたときに、間に入ってとりなしてくれたのがこの弁護士であるヤスミン・マトラで、俺は機会があったら、改めてお礼を言いたいと思っていた。
「アレボリス、君はこの者たちと知り合いだったのか?」
そう言って顔をしかめたのは、ルイス・ルスフォードだ。その顔を見たとき、俺は思わず声をあげそうになった。
ルスフォードは慈善家で、孤児を引き取って養父になることを申し出た人物だ。
つい、二週間ほど前、クピディアさんの子どもがこの男に引き取られそうになった。その際にひと悶着あったので、ルスフォードは露骨に狼狽えて見せた。
「そうだよ。私の純粋な遊び友だちで、とても愉快なお二人なんだ。紹介しよう。レイモンド・ホールデンとマイラ・グラントさんだ。こっちはガープ。こう見えて記者で詩人なんだ。かわった使徒だろう」
そう言ってアレボリスは椅子に座ったトカゲ男を示した。
ガープとはそれが最初の出会いだった。
「ドウモ」
「使徒が詩人や記者なんて珍しいだろう?」
アレボリスが笑う。
「使徒は寡黙で頑固なイメージがあったからな。詩人は意外だ」
「クチ、ツツシメバ、シ、ワキダス。キシャハ、イヤシイ」
「記者は卑しい?」
俺は思わず聞き返した。
「ははは、レイ、ガープは記者は生活のための仕事で、本当は詩が書きたいんだよ。だから、記者は生活のための卑しい仕事だと、自嘲して言ってるんだ。それでいて、正義感の溢れるいい記事を書くのだよ」
「ああ、そういうことか」
「それにしても驚いたわね。スモール博士が殺されるだなんて」
ヤスミンはソファーに座り、気難しそうに腕を組んでいた。
「昨日の今日だというからなおさら驚きだ」
ルスフォードは憮然として言った。
「レイ、実は私たちは前日までみんなでパーティーをしていたところなんだ。だから、殺されたと聞いたときは驚いてね、何か気が付いた点はなかったかと思って、集まって貰ったんだよ」
「前日のパーティーはどこで?」
「スモール博士の家だよ。私たちは夕食を食べて、酒を飲みながらくだらない冗談を言い合ったり、カードゲームをして遊んだ。それから紅茶を飲んでね、実に愉快な夜だったのさ」
「まったく残念だ」
ルスフォードが相槌を打った。
「だが、どうも分からない。博士は前日まで、自分が死ぬとは全く思っていないようだったし、何か心配事があるようにも見えなかった。普段通りだったよね?」
アレボリスがヤスミンに視線をやった。
「私も特に変わった様子には見えなかったけど。死因はなんなのかしら?」
「後頭部に何かがぶつかったような傷はあった。もしかしたらそれかもしれない」
「殺人と見ていいんだね」
「恐らく」
俺は頷いた。
俺たちはそれから博士の事件について、様々な推理や憶測を語り合った。しかし、これといった手掛かりはなく、分かっていること以上の洞察を加えることはできなかった。
そのうちに博士との思い出に浸ったり、博士の功績を称えたりするような話題に変わった。友人たちにとっては事件を解決することよりも、博士を悼むことの方が重要だったのだろう。
俺たちはそれを黙って聞いていた。
「そろそろお開きにさせてもらうよ。今日は静かに眠りたい気分だ」
やがてアレボリスがそう言って、俺たちは解散した。
俺とマイラはアレボリスに見送られながら新居を後にした。マイラは途中からずっと口をつぐみ、痛ましそうに眉を歪めていた。
丘を下って、商業地区に出たとき、ふいに後ろを歩く人物から手を掴まれた。
「ドロボウ」
地鳴りのような低い声に俺たちは振り返った。
そこに立っていたのは、大柄なトカゲ男だった。真っ赤な鱗は、暗闇の中、わずかな光を反射し、濡れたように輝いている。
チロチロと不気味に泳ぐ舌に反して、瞳には知性を感じさせる。アレボリスの家にいたガープとかいう使徒だった。
「ドロボウ?」
見ると、ガープは俺とマイラの手をガッシリと掴んでいる。
隣でマイラが狼狽えたように瞳を揺らしていた。
「おい、まさか、マイラ――」




