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最終話「ドリフターズと汚れた手」4(2/2)

「まあ、そう考えるのが自然だろう。あの部屋に誰かがいたとしての話だがな」

「いたんじゃないの?」


「女中の言ってることが正しければな。女中以外、誰もスモール博士が誰かと話をしている声を聞いていないんだぞ」


「じゃあ、女中さんが嘘をついていたってこと? なんのために?」

「女中が犯人なら、それもあり得るかもな」


「レイ、本気でそう思ってるの?」

「分からん。ただ、可能性の話をしているだけだ」


 俺たちはバルを訪れていた。昼食の時間にはまだ早かったが、午前の予定がなくなって、それ以外にするべきことも思い浮かばなかった。


「アレボリスさんにも知らせたほうがいいよね?」

「そうだな」

「ご飯を食べたらすぐにアレボリスさんの家に行く?」

「ん……ああ」

 気のない返事をしていると、マイラが俺の顔をじっと覗き込んだ。


「何考えてるの? レイ」

「いや、スモール博士が考えた病的窃盗の原因ってなんだったんだろうって思ってな」

「原因?」

「博士は次回までに仮説を考えておくと言っていた。一体、あの日、どこに出かけたんだろう? なんか俺たちの話を聞いて、急に行くべきところができたって感じじゃなかったか?」


「そうだね。わたしが子どもの頃の出来事を話しただけで、博士、急に目つきが変わったもんね」

「ああ、博士は何か思い当たる節があったんだよ。それを確かめようと思って、出かけることにした。ってことはやっぱり、何か治療法に関してもアテがあったんじゃないかと思ってな」


「でも、書斎には何もなかったよ?」

「それが怪しいんじゃないか?」

 俺は先ほどから考えていたことを口にした。


「どういうこと?」

「あれだけ熱心に話を聞いてくれたんだ。博士は何事かに確信を持っていた。それなら何かメモや、治療の準備、俺たちに説明するための資料なんかを用意するはずじゃないか?」


「うーん、そうかも」


「しかし、何一つなかった。何一つだぞ? 前回の診断の際に熱心に何かを書きとっていたようだけど、博士が使っていたファイルには、マイラの名前と年齢、体重、身長なんかの基本的なメモしか残ってなかった」


「博士、この前はもっといろいろ書いていたよね。どうしたんだろう?」


「犯人が持ち去ったんだよ。資料が不都合な存在になってしまったんだ」

 俺は犯行時の光景をたやすく想像することができた。書斎に座って書物を広げているスモール博士、その前に立って博士を見下ろす人物。


「どういうこと?」

「例えば、犯人は使徒だったとする。使徒はスモール博士を殺すために、奴らお得意の三又の責め道具で博士をぶすりと刺した」


「でも、博士にはそんな傷はなかったよ?」


「それを博士は手元にあった資料やメモ、本の類で防いだんだよ。例えばの話な? すると、手元の本には、三つの穴が空く。それを見て犯人は気が付いた。三又の責め道具でスモール博士を殺せば、使徒が犯人であると言っているようなものだと。そこで、殺し方を変えて、スモール博士を殺害した。その後、穴の開いた資料を持ち去った。どうだ?」


「な、なるほど……筋は通ってるね」

 俺は頷いた。

 スモール博士は俺たちの診断に向けて準備をしていた可能性は高い。そうすると、資料やメモがテーブルの上に広がっていたはずだ。そこに犯人は手掛かりになるようなものを付着させてしまった。凶器の跡を残してしまったのか、それとも何か特徴的な液体をこぼしたのかもしれない。


 どっちにしても犯人が資料を持ち去ったのではないだろうか。


「もしかして、レイ、その資料を取り返そうだなんて思ってないよね?」


「当然だろ? そこに治療法が書かれていたら、お前の病気を治すことができるんだ」


「やめようよぉ。犯人に近づくなんて危険だよ」

 マイラは泣きそうな顔をする。


「マイラは宿屋でゆっくりしてればいいんだよ。資料は俺が必ず取り返してやる」


「それならわたしも行くよぉ」

 とにかくまずはアレボリスに話をしなくてはいけない。スモール博士を紹介してくれたのは彼なのだから。

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