最終話「ドリフターズと汚れた手」3
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一週間後、俺たちは約束通り、スモール博士のもとを訪れた。
女中は玄関で俺たちを迎えると、申し訳なさそうに顔を歪ませた。
「旦那さまったら、患者さんと会うお約束をしてらしたんですか?」
「出かけているんですか?」
「いえ、部屋にいらっしゃることはいらっしゃるんですけど、先ほどから誰かと話し合ってるような声がするのです。すでにお客さまがいらっしゃるみたいなんですけど……」
「でも、スモール博士は俺たちのために午前をあけてくれると言ってましたよ」
「そうですか。旦那さまに聞いてみましょう。入ってください」
俺たちは女中の後について、廊下を進んだ。
前回同様、待合室を兼ねた小さな部屋を通り、書斎の前で止まる。
女中は書斎の扉をノックした。
「旦那さま、患者さんがいらっしゃいましたよ」
中からは何の反応もなかった。
「おかしいですね……先ほどまで話し声が聞こえていたはずなんですが……」
女中はそう言って書斎の扉をゆっくりと開いた。
「旦那さま、入りますよ? お客様がいらっしゃられるようですが、患者さんはどうなさいましょう?」
ドアを開く手が止まったかと思うと、女中は弾かれたように体を震わせ、そして後ずさりを始めた。
「い、いやぁあああああああああああああ」
恐怖の叫び声をあげ、女中が尻もちをついた。
俺とマイラは顔を見合わせ、部屋の中に飛び込んだ。
その途端、宙を舞っていた羽が、俺の頬をかすめた。
スモール博士の真っ白い羽が、強引にむしり取られたように散乱していた。それは床を白く覆うほど酷く、壁やテーブルの上にまで広がっている。
俺は宙を舞う羽を払いのけるようにして部屋の中に進んだ。
棚の前で、スモール博士は倒れていた。
スモール博士の瞳は執念を宿し、明後日の方向を凝視している。開かれた口は今まさに何かを叫び出しそうで、わずかに覗いた舌は異様な形をしていた。
そんな表情を赤い鮮血が凄惨にしていた。
血の筋を辿って行くと、後頭部が大きく凹んでいるのが分かった。後ろから鈍器で殴られたみたいだった。
「レイ、どう?」
俺は博士の身体に触れ、大きく揺すり、それから彼の心臓に耳をあてた。
「死んでるよ」
マイラはうなだれた。
博士はすでに息をしていなかった。
「ほんとうに、ほんとうに死んでるのぉ? 蘇生は? 治癒魔法は?」
「手遅れだろう」
俺は首を振った。
やりきれない気分だった。




