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最終話「ドリフターズと汚れた手」2(2/2)

 確かにマイラの発言に、そこまで推理できるような情報はなかったはずだ。

「やはり……」


 スモール博士はそこで言葉を切った。


 思案にふけるように、視線を沈ませている。


「あなたのお母さんがあなたにしたことを、もっと詳しく聞かせてもらえませんか?」

 スモール博士は言った。


「はい……分かりましたぁ……」

 マイラは幼少期に山の中で、どんなふうに過ごしていたかを語ろうとした。

 しかし、それはうまくはいかなかった。


 彼女は話が詳細になるほど頬をこわばらせ、ときおり何かを追い払うようにぎゅっと目をつむった。 そして再び話を始めようとするが、次第に言葉が続かなくなっていった。


「今日はこのあたりにしておきましょうか」

 スモール博士がふいに羽ペンを置いた。


「え?」

「マイラさんも限界でしょう。かなり消耗しておられる」


「でも、まだ……」

 スモール博士はマイラの言葉を遮った。


「正直に申し上げて、マイラさんの病気は今日治療が完了して明日から不自由なく暮らせるというものではないんです。何度かこちらに足を運んでいただいて根気強く治療をすることになるでしょう。だから、詳しい話はまたそのときにでも聞かせていただきます」


「そうですか……」


「にしても、大変なことになってきましたね……」

 スモール博士はファイルに目を落としていった。


「わたし、そんなに悪いんですか?」


「ああ、いえ、マイラさんの症状が悪い、ということではありません。私が懸念しているのは、もっと漠然としたことなのです。国民に悪い影響をもたらす存在が、この国に蔓延っているのではないかと思ったもので」


「はあ……」


「そう深刻な表情をしなくてもいいですよ。私が絶対に治してあげます」


「本当ですか?」

 マイラは顔をあげ、スモール博士を見据えた。


「はい、治るまで治療にお付き合いしましょう」


「あ、ありがとうございます」

 マイラは安心したように笑った。


「では、申し訳ないですが、今日はここまでにさせてください」

 スモール博士は言いながら、外出の支度を始めた。

 女中を呼びつけると馬を呼びにやらせ、自身は鞄に荷物を詰めて、ハットをかぶる。


「どこかにお出かけを?」

「ええ、行くところができましたので」


「それなら俺たちはこの辺で失礼します」

 俺は立ち上がった。


「ああ、レイモンドさん」

 部屋を出ようとしたところで、スモール博士は言った。


「はい?」


「次回までに、病的窃盗に関する仮説と、根本的な治療を探しておきましょう」


「そんなことができるんですか?」


「まあ、確信があるわけではありませんが、医者は思わせぶりなことを言って気を持たせるものなんですよ。そうしないと、来なくなる患者さんもいらっしゃるので」

 スモール博士な苦笑したが、その顔は険しかった。


「分かりました。数日後、再びマイラを連れてきます」


「それと、マイラさんをよく見ておくことですね。彼女を一人にするのは危険です」

「ええ、それは分かってます」

 馬車が到着したと、女中が告げ、俺は一足先に書斎を出た。

 ふいに嫌な予感を覚え、俺は後ろを振り返っていた。


 女中がいつ頃帰るか、晩ご飯は何時にしましょうと話しかけている。博士はそれに気のない返事をして、外套を羽織り始める。


 スモール博士はハットの中に憂鬱な視線を隠していた。



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