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三話「養父ルスフォード」5


     5


 俺はデイヴィットの宿屋に戻り、遅めの夕食をとった。

 気分は最悪だった。

 別れ際に言った言葉を早くも後悔し始めていた。


「クソ、なんであんなことを言ったんだ。クピディアさんを余計に悲しませるだけだろ」


 これは難しい問題だ。


 育てられない子どもをどうするべきかなんて誰が答えられる?

 もっとも苦しい選択が、正しい選択になりうる場合もあるし、もっとも美しい選択が、残酷な結末を迎えることもある。


 実際、クピディアさんはデイジーを抱きながら仕事をすることは不可能だった。


 また特別な能力のない貧しい女性が、身体を壊さずに、二人を養う稼ぎを得るのは並大抵のことではない。


 俺だって自分が一日暮らす金を稼ぐのがやっとなのだ。

 残った金をちまちま貯めて、いつかボートを買って、どこか別荘地の島で、金持ち相手に運送屋をするのを夢見ている。

 そうやって賢く稼がなきゃ、誰かと結婚して子どもを作ることもできない。


 クピディアさんは俺よりもずっと難しい生活を強いられていたんだぞ。

 それなのに俺は偉そうなことを言って、彼女を苦しめたんだ。


 俺はむしゃくしゃしながらパンを頬ばり、スープを飲み干し、自分の部屋に戻った。


 部屋に戻ると、マイラはベッドの上に座り、俯いていた。


 思い詰めた表情をしており、見覚えのないバッグを抱きしめている。


「あ、レイ、お帰り……」


 声はクピディアさんに劣らないくらい暗く沈んでいる。


 今度はなんなんだ!


 まるで俺が二人の女性を不幸にしたような気がしてくる。


「ただいま」

「レイ、話したいことがあるんだけど……」

「どうしたんだ?」

 俺は目頭を軽くもみながら、マイラの隣に腰掛けた。


「きょぉ、なんか朝からずっと調子が悪かったんだ。頭は痛いし、身体はだるいし、なんかモヤモヤぁ、モヤモヤぁってして、ちょっとヤバいかもって思ってたんだ」


「それで?」


「でも、なんとか一日働いて、帰ろうしてたときなんだけど、目の前に誰かのバッグがあったんだよね。そしたら、急にぐああああああああってなってぇ、ヤバいと思ったときにはもう意識がなくて、気が付いたら、バッグを持って部屋の前に立ってたんだ」


「そうか、そうか。つまり、お前はそのカバンを盗んできたわけだ」


 半ば予想していたことなので驚きもしなかった。周期的にもそろそろ限界が近いと分かっていたからだ。


「うん……ごめんなさい……」


「本当に懲りない女だな。カバンはこの間、痛い目にあっただろ」


「うん……」

 マイラは下唇をくっと噛んだ。


「別にいいさ。カバン一つ盗んだって、愛する赤ん坊を捨てに行くわけじゃないんだ。持ち主にカバンを返して、明日から素知らぬ顔でまた働けば万事解決さ。だろ?」


 苛立ちのせいか、自分でも口の利き方が皮肉っぽくなってるのが分かる。

 そんな自分に自己嫌悪を覚えつつも、俺はどうすることもできなかった。

「うん」


「貸してみな。中を調べれば誰のものか分かるだろう」


「ありがとぉ、レイ」


 俺はマイラからカバンを受け取ると、さっそく荷物をベッドの上に出し始めた。


 どうやら、カバンの持ち主はルスフォードという男らしい。


 カバンの中にあったいくつかの書類や契約書、手形などから、彼の名前を特定することができた。

 そして、この男はどうやら孤児院の職員ではないようだ。


 この男について知るためには、マイラが働きに行った孤児院の仕組みを理解しておく必要がある。

 マイラの孤児院は基本的に、〇歳から十二歳までの子どもを受け入れている。受け入れる子どもを選別することはしないそうだが、ここ数年で孤児院に預けられる子どもの数が増え、予算の面からも、設備、人員の面からも、受け入れる子どもを選別することになったそうだ。


 運よく受け入れられた子どもには、二つの未来が待っている。


 一つめのパターンはそのまま孤児院の中で育てられ、教育や躾を受けさせてもらえるパターン。


 そして、二つ目は孤児院が養父や養母を募り、いくらかの報奨金とともに子どもを預けるパターン。

赤ん坊たちはボランティアの視察官から定期的な調査を受けるものの、どのようにして育てられるかは養父らに一任される。


 そして、このルスフォードは、今日、孤児院を訪れ、養父として子どもを引き取るつもりだったそうだ。


 まったく、他人の荷物を改めるなんて最悪だ。


 いつもいつも、なにかしらの理由で嫌な気分になる。


 俺が気の進まない仕事をしていると、マイラが心配そうに俺の顔を覗き込んできた。


「レイ、どうしたの?」

「え?」


「だって、書類を見てたとき、すごぉく怖い顔してたから」


「ああ……いや、なんでもない」

 なんでもないわけがない。俺は見なければ良かったと思いながら書類をカバンにしまった。

 自分でもひどく頬が強張っているのが分かった。


「行くぞ、マイラ」


「うん、ありがとう」

 俺はカバンを持って立ち上がった。


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