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三話「養父ルスフォード」2(3/3)

「別にぃ。体調は悪くないけど」

「疲れたのか? それとも用事でもあるのか?」

「別にぃ。用事なんかないけど」

「なんだよ。なんで仕事に行かないんだ?」


「だって、港で働く女の子は魅力的じゃないんでしょ。倉庫係に怒鳴られながら、木箱を担いで走り回ったりして……」


 どうやらマイラは昨日のことを根に持っているらしい。


「そんなことで仕事を休むことないだろ。お前は人の倍稼ぐんだし、俺たちは、恋人を見つけるために働いてるわけじゃない」


「とにかく、今日は仕事に行かないもん」


「仕事に行かずにどうするんだ」

「なんでもいいでしょ」

 マイラの態度に段々腹が立ってきた。こいつは昨日の夜は何も言わなかったくせに、仕事に行く直前になってこんなことを言い始めるわけだ。


「おい、いい加減にしろよ。宿屋の金は誰が払うんだ」


「ふん、わたしはレイの二倍は稼いでるしー、一日休んだってどうってことないですから」


 マイラのとろそうなまぶたが、下膨れの頬が、これほど憎たらしく見えたことはない。

 こいつは俺が癇に障ることを知りながら、まるで使用人をあしらうように、澄ましきった表情をして見せた。


「お前が人の二倍は稼げるようにしてやったのは誰だと思ってるんだ」

「別にレイに頼んだ覚えはないし」

「一日中宿屋にいるつもりか?」


「悪い?」

 マイラは本当に仕事に行くつもりがないようで、ベッドに腰掛けたまま靴を履こうともしない。

 俺は時計を見ながら、まだトイレにも行けていないことを思い出した。

「クソ、こっちはもう出なくちゃいけないってのに……」

 俺は歯噛みした。


「行けばいいでしょ。わたしが今日休んだって。レイが困ることもないじゃん」


「ああ、そうだな。お前が例の窃盗癖を起こしたとしても、俺は何も困らない。ボートを買う金が溜まり次第、こんな暮らしは終わりにさせてもらうからな」


「ふぅんだ。そんなこと言うなら、レイのボートには一生乗ってあげないから」


「誰が乗せるか。お前が乗ったら、貨物船だって沈んじまうよ!!」


「なぁ……もう良い。寝る!!」

 マイラは顔を赤くした後、目を潤ませた。


 そして、そのまま布団に潜り込んでしまう。


「ああ、一生寝てろ!! こっちは馬鹿力の女と違って、稼ぎが細いもんでね。仕事に行かせていただくさ」


 俺は部屋を出ると、勢いよく扉を閉めた。


 マイラがここまで反抗したのは初めてのことで、俺は裏切られたように感じていた。


 クソ、あいつは俺がいなけりゃ、今頃窃盗で流刑にされていたっていうのに。


 その日は、何もかもがうまくいかなかった。


 仕事に間に合うよう港まで全力疾走したせいで、昼前には早くもへばりかけていたし、日中ずっとマイラのことが頭から離れなかった。


 あいつは一日、大人しく家にいるんだろうか。

 ふらりと出かけたところで、あいつの発作が起きてしまったらどうするんだろう。

 あいつが誰かのモノを盗もうとして、治安部隊に引っ張られていく光景が頭から離れなかった。

そんな状態だから、俺は二度も荷物を落とし、危うく自分の足をぺちゃんこにするところだった。

俺がイライラしていたのはそれだけじゃない。


 クピディアさんのことも悩みの種になっていた。彼女はどうやって生活をしていくつもりだろう。どうやって、あの赤ん坊を育てていくんだろう。


 クピディアさんの薄幸の眼差しが頭に浮かんでくる。


 クピディアさんは働きたくても働けない。飢えて、すっかりやせ細っているのに、子どもの面倒を見なくてはいけない。


 その点、マイラはあんなに丈夫な体をしていて、人の二倍は金を貰っている。それなのに、俺に逆らうために、一日中家にいるというのだ。


 俺は悶々としながら仕事をした。

 夕方になり、ダニエルからその日の給料を受け取ると、マイラが何をしているのか気になって、飛んで帰りそうになった。


「クソ、これじゃバカ丸出しだ!!」

 俺は舌打ちをした。


 仕事が終わると同時に飛んで帰ったら、マイラに一日気にかけていたことを白状するようなものだ。あいつは宿屋のベッドで能天気に寝ていたというのに。


「昨日の今日だが、クピディアさんの家に寄ろう。あんなやつより、クピディアさんの方がよっぽど心配だ」


 毎日のように行くと、彼女に煩わしい思いをさせてしまうかもしれない。まだ食料も残っているだろうから、それほど困ってはいないはずだ。

 だが、もし彼女にしてあげられることがあるのなら、早くしてあげた方がいい。

 俺はクピディアさんの家に向かった。

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