三話「養父ルスフォード」2(2/3)
「いや、そもそも俺たち、恋人じゃないんですよ。いわゆる腐れ縁ってやつで、ただ組んで歩いてるだけです」
「そうなんですね」
夕食がまだだったので、俺たちはそのあたりで話を切り上げて帰ることにした。
俺が買ってきた肉、フルーツ、パンがかなり残っていたので、しばらくは危ないことをせずとも暮らしていけるだろう。
その後のことはあまり考えないようにした。
「では、本当にすみませんでした」
デイジーを抱いて、クピディアさんは俺たちを玄関まで見送りに立ってくれた。
「いえ、気にしないでください。でも、ああいうことはあまりお勧めできませんよ。理由はもう分かってると思いますけど」
「ええ、そうですね……」
「じゃあまた」
クピディアさんは俺たちが見えなくなるまで手を振ってくれた。
俺が何度振り返ってもクピディアさんが立って手を振っている。
俺は彼女のことが気の毒に思えた。
「やっぱり、レイはクピディアさんみたいな人が良いんだぁ」
マイラがとろそうな一重まぶたを吊り上げて言った。
「な、なんでだよ」
「だって、さっきから何度も振り返って見てるぅ」
「それは彼女が心配なだけだ」
「それにわたしと結婚してるかって聞かれたとき、慌てて否定してたもんね」
「実際にしてないんだから、否定するのは当たり前だろ。大体なあ、お前は誰かと結婚できると思ってるのか? 人の物を盗んでは町から町へと追い出されるような女が」
「そこまで言わなくてよくない?」
マイラは唇を尖らせた。
「まったく、今日はどうしたって言うんだ?」
「レイはかわいい子と話すときだけ目が優しくなる。いつもはこんなにつり目なのに、にやーって」
マイラは俺の目尻に指をあてると、無理やり俺の目を垂れさせた。確かに俺は悪魔と人間のハーフで、感情や身体の状態によって形質が変化することがある。
それを悟られたくなくて、俺は慌ててマイラの主張を認めた。
「ああ、分かったよ。確かにちょっといいなと思った」
「やっぱり」
「だが、それは惚れたって言うんじゃないぞ。クピディアさんは赤ちゃんを抱いてただろ」
「それがどうしたの?」
「子どもをあやしてる女ってのは、どうしてもよく見えるんだよ。優しそうというか、母性溢れるというか、とにかく子どもが女を魅力的にさせるんだ」
「そんな理屈ってある?」
マイラは不服そうに首を傾げた。
「それに比べてマイラはどうだ。お前は男に交じって港で木箱を担いで、倉庫係に怒鳴られながら走り回ってるんだぞ」
「なっ……」
マイラの顔が赤くなる。
「分かるだろ? 俺たちは生きるためには、なりふり構っちゃいられないんだ。恋だの、良い女だのとは無縁の生活で、それが嫌ならもう少しマシな生き方ができるようになるしかない」
「そうですか」
「お前もだぞ、マイラ。とにかく病気をなんとかしない限り、結婚相手なんて見つからないんだから」
「分かった、分かったよぉ。なんかいも言わなくたっていいじゃん!」
マイラは強引に話を切り上げると、ずんずんと俺の前を歩いて行く。
彼女が不愉快な思いをするのは分かっていたが、こればかりはハッキリさせておかなくてはいけなかった。
彼女の病気は普通の病気ではない。
腕が一本しかない女性でも、性格がよければ周りからの支援が得られるだろう。良い人に出会えれば結婚もできるはずだ。
生まれつき身体が弱くても、結婚して大切にされながら生きた例はいくらでもある。
だが、泥棒をしてしまう病気となると、それが病気だとも思われないだろう。俺だってこの目で見るまでは信じられなかったくらいだ。
そのうえ抑えようがなく、かわいげがない。マイラは手に負えないのだ。だから、あいつが誰かと結婚したいと望めば、まずは窃盗症を治さなければいけない。
だが、どうやって?
俺にもその方法は分からない。
俺は速足で歩くマイラを見ながら、あいつもかわいそうな女だと思った。
翌日、俺はいつものように宿屋で朝食を取り、港へと向かう準備を整えていた。
ジーンズを履き、靴に足を入れたところで、マイラは宣言した。
「今日は仕事に行かないから」
「どうした? 調子でも悪いのか」
マイラは口を一文字に結び、俺と目を合わせようとしなかった。




