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三話「養父ルスフォード」1(3/3)

 悪魔化するつもりはなかった。マイラにあの姿は見せたくなかったし、あの姿になると俺は性格までも変わってしまう。暴力への飢えが収まったとき、目の前には死体が転がっていたなんてことになりかねなかった。


 悪魔化しないのであれば、俺はある程度力加減をすることができた。

 そして、こういうとき相手を徹底的に痛めつけるのは得策ではないことを知っていた。

「クソガ」

 使徒の蹴りをかわし、次いで繰り出された拳を避けるために一歩前に出た。

 使徒の拳が、顔の真横を通過していく。


 身体の中で血が滾り始めるのを感じる。


 さっさと終わらせなければ。


 俺は路地裏に打ち捨てられていた木箱を掴むと、使徒の頭に打ちおろした。


 その瞬間、木箱の底が抜けて、トカゲ男の顔がすっぽりと埋もれてしまう。


 俺はその胴体に二、三発、拳を撃ち込むと、彼のポケットから俺の札束を奪い返した。


「ふざけるな、このガキ!!」

 男の方が掴みかかってくる。男の攻撃を見切りつつ、反撃に出ようと半身に構えたときだった。


「うわあああああああああああ」

 どこか間の抜けた雄叫びとともに、マイラが男の横腹に突進を食らわせた。

「ぐふっ」

 マイラの巨体が直撃し、男は路地の突き当りまで吹っ飛ばされた。

「おい、大丈夫かよ」

 俺はマイラに言った。


「う、うん。大丈夫」


「お前は喧嘩が弱いんだから、手を出さなくていいんだよ」


「でもぉ、いけそうだったから。ふふふ」

「笑い事じゃないんだ。二度と手を出すんじゃないぞ」

 俺は厳しい口調で言った。

「なにぃ、レイ、心配してくれてるの?」

「心配に決まってるだろ。お前が仕事に行けないと、宿賃の半分は誰が稼ぐんだ?」

「もぉ! 最後の一言が余計だよ」


 今の突進が万事を物語っている。


 マイラは力は強いが、喧嘩はそれほど強くはない。まず、マイラはトロく、頭の回転が遅い。そのため攻撃を避けるにしろ、受けるにしろ、攻めあうにしろ、反応がどうしても遅れてしまう。

 それに彼女はアザができやすい体質で、少し体をぶつけただけで、彼女の真っ白い肌は青黒く変色し始める。


 マイラは馬鹿力なだけで、脆くて弱い。俺は彼女を喧嘩に巻き込ませたくはない。


 俺たちは気絶した男のポケットから、残りの金を抜き取ると、地面に座り込んだ天使のもとに歩み寄った。


「とにかくこの場を離れた方がよさそうだが……あんた、帰る家はあるのか?」


 天使は驚いたように俺を見ていた。

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