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二話「グリーンメスカル」5(2/2)

「そうなのか?」


「バルで話しかけてきた人……。わたしがバッグを盗んじゃった人だよ……」


「おい、それ、本当なんだな? 冗談でしたなんて言ったら、ぶっ飛ばすぞ」


 俺の頭は状況を把握しようと急速に動き始めた。


「本当だもん!! 冗談じゃない」


 まずいことになった。


 馬車はたまたまこの男を落っことしたわけではないだろう。


 わざと、馬車の中から放り出したのだ。《このイタズラはタカクツイナタ……》なんて文字まで書いて。


「誰がこんなことをしたんだろう……」


「決まってるだろ。こんなことをやるのはカミングス一家だけだ!」


 カミングス一家は恐らく相当怒っていたのだ。自分の商売道具を盗まれて、一銭ももうけを出さなかったどころか、顧客名簿まで失くしてしまったこの男に。


 そして、この男からバッグを盗んだ俺たちにもだ。


 このメッセージは警告だ。


 自分がバッグを盗んだ男がこんな死に方をすれば、誰だって自分宛のメッセージだと受け取る。


 カミングス一家は俺たちにこの件の落とし前をつけさせるつもりだ。


「マイラ、お前はこの町のボスを怒らせたんだ」

 次第に野次馬が増え始めていた。


 最初は何人かが、遠巻きに馬車から落ちた男を心配そうに眺めていたのだが、次第にその数は増え、今では人が集まり、男の凄惨な仕打ちを見ようと、首を伸ばしている。


 表の騒ぎを聞きつけた記者が、新聞社から飛び出してきた。


 俺たちは黙って立ち去ることにした。


「あの人たちはわたしたちに向かって死体を投げてきたのかな」

 道を歩きながらマイラが言った。


「恐らく違うはずだ。俺たちの素性が割れているなら、こんな回りくどいやり方はしないはずだろ。俺たちが宿から出てきたところをナイフでザクリとすればいいだけだ」


 俺は確信していた。


 恐らく、まだカミングス一家は俺たちがどこの誰であるかを正確につかんでいるわけではない。それが唯一の救いだった。

「じゃあ、どうしてあんなことをしたんだろう」

「それは俺たちがバッグの男を探そうとしたのと同じ理由から、そうしたんだろう」

「どういうこと?」


「つまり、新聞に載せようとしたんだよ。俺たちはバッグの男と連絡を取るために、新聞に載せようと思って新聞社に行っただろ? 向こうも同じさ。新聞社の前に、あんな死体が投げこまれたのなら、新聞社は喜んで記事にするだろ。すると、俺たちがビビッてなんらかのアクションを起こすと思ってるのさ」


「なんらかのアクションって?」


「治安部隊にバッグを届け出るとか、バッグをバルに戻しに行くとか」


「治安部隊に届け出たりなんかしたら、余計に手出しがしにくいと思うけどなぁ」


「治安部隊の中にも仲間がいるんだろ」


「そっか。じゃあ、まだカミングス一家はわたしたちのことを疑ってないんだね」


「今のところはな」


「もしかしたら、わたしたちの足がつくことってないんじゃないかな」


「なに?」


「だって、そうでしょ? わたしたちって別に友だちがいるわけでも、住所があるわけでもないでしょぉ? わたしたちが、デイヴィットさんの宿に泊まってることを知ってる人さえほとんどいないんだから、足がつくことなんてないんじゃないかなぁと思って」

 マイラの見通しはかなり甘いものだった。


 まったくもって能天気だ。だが、おかげで俺は重要なことに気づかされた。


「むしろ、逆だ!! 俺たちはすでに喋りすぎているくらいだ!!」

 俺はマイラの手を引くと慌てて走り出した。


 俺たちはバルのおばさんに、バッグの男が来たら、デイヴィットの宿屋に泊まっているから連絡をくれと言っていた。


 カミングス一家の手下がバルを訪れれば、恐らくおばさんは俺たちがデイヴィットの宿屋に泊まっていることをみんな話してしまうのではないか。


 そうなればカミングス一家は簡単に俺たちにたどり着くことができる。


 俺は例のバルに引き返して、夜の営業で忙しそうにしているおばさんを店の裏まで引っ張って行った。


「あら、また来たのね。申し訳ないけど、今忙しいんだけど……」

 おばさんはエプロンで手を拭きながら言った。

「すみません、ですけど、どうしても今、聞いてほしいんです。俺たち、『バッグの男が荷物を探しに来たら、デイヴィットの宿屋に連絡をくれ』って言いましたよね? あれ、忘れてほしいんです」


「忘れてほしい?」


「正確には、誰がバッグを探しにきても、『デイヴィットの宿屋の客がバッグを返したがってる』とは言わないでほしいんです」


「まあ、そうなの? それは悪いことをしたわねえ……」

 バルのおばさんは店の中が気になるようで、厨房をチラチラと見やりながら言った。


「実はさっき、カバンを失くしたお客さんのお友達って言う人が現れてね、カバンを失くしたお客さんを手伝って一緒に探してるって言うのよ。それで、こっちもお店で手が離せなかったから、デイヴィットの宿のお客さんがカバンを持ってるって言っちゃったのよねえ……」


 隣でマイラが俯くのが分かった。

「それはどんな男でしたか?」


「一人は悪魔で、一人は使徒だったかしら。とにかく、真っ黒いコートに真っ黒い眼鏡をかけたとっつきにくい感じの人だったわ。そういうことだから、もしその人たちに会ったら、状況をよく説明してあげて。あなたたち、カバンを盗んだってわけじゃないんでしょう?」


「ええ、まあ……」


「もういいかしら。今、忙しくってね……お父さん一人だととても回らないから」

 そういっておばさんは店に戻って行った。



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