Radio calisthenics
「なにこれ?」
朝起きて、ラジオ体操でもするかなと、裏山の森のトンネルを抜けて空き地にやって来たわけだが、俺の横にあるのはどう見ても、どう考えてもロボットの足なんです。
「ほんとなに?」
ロボットの足なんですけど、デカいです。アレですよアレ。特撮戦隊ヒーローものの最後の方には必ず出てくる合体ロボット的なやつですよ。
見上げてもね、近すぎてロボットの膝ぐらいまでしか見えないんですけど。
「どういうこと?」
ああ、夢ですか。あっ夢じゃないですね。自慢じゃないですが、夢を見ている時に、夢だと疑った事は今まで一度もないです。明晰夢?なにそれ。
「そういうこと?」
1/1スケール、合体ロボ?観光地などに作られるヤツか。でも、ここ一応私有地なんですけど、婆ちゃん、いつの間にそんな契約したん?
「まっいいか」
気を取り直して、ラジカセの再生ボタンを押す。真ん中のカセットテープを入れるところの窓から見えるドライバーの先みたいなものがテープを回し始める。
『ラジオ体操第一~♪』
聞きなれた声が流れはじめたので。
「腕を前から上にあげて、大きく背伸びの運動と言うのだろう?」
と俺は言う。そして、ラジカセを相手に満面のドヤ顔を決め。
『腕を前から上にあげて、大きく背伸びの運動。はい 1 2』
「遅い!既にその運動は済んでいる」
と俺はマウントを取る。終始先んじて運動を済ませ、最後の決め台詞。
「貴様の敗因は何度も同じ事を繰り返し、手の内を晒してしまったことだ」
「そうだったのですね!」
「え?誰?」
俺の[ラジオ体操第一・先の先編]にリプライがついた。声のした方向にはデカいロボットの足。
「私です」
カセットのテープが終わり、カチッという音と共に自動的に戻り始める。ジィーーと巻き戻る音がして、カタッとはじめに戻った合図がする。
「よし。帰ろう」
「待って下さい」
デカいロボットの足が動いて、行く手を塞ぐ。
「こいつ...動くぞ」
あれ?俺はア○ロ・レイかな?え、違うよね。安室 玲だけど....。紛らわしくてごめんなさい!うちのパパがガン○ム大好きでごめんなさい。ほんと俺に謝ってほしい。
「実は私、この星にはリフレッシュ休暇で来ていまして。というのも最近、怪獣との闘いで連戦連敗を喫してしまったんです。それで上司から、疲れているんだろうと休みを言い渡されたんですけど...」
え?俺、何も訊いてないよね?
「こうやって休んでいても。敗けてしまったことが気になって、気が休まらなかったんです。私なりに、どうして敗けたのかは考えていたんですよ!ちょっと聞いてますか?」
「あっはい」
なに?酔っぱらってんの?
「もう。そうやって返事だけしてればいいと思ってんじゃないでしょうね?」
ヤだ、このロボ。めんどくさい。
「いえ、はい」
「やーもう、これだから男は。うちの彼ピも、何かと言えばメタルコーティングすればいいと思っててさ。ねぇ、その辺どう思う?」
JKなの?
「どうと言われてもボクにはちょっと、わかんないですかねぇ」
「そこは、いい彼氏さんですねって言いなさいよ!この鈍感。メタルコーティングってすっごくお金かかるのよ!」
え~、気付かんて、それ。もうノロケじゃん。
《ドン》「なに?」
...鈍感ですいません。足をドンは堪忍して下さい。
「すいません。無知でして」
「まぁいいわ。で、話を戻すけど。さっきあなたの言った事が、私が敗けた原因だと気付いたのよ。『手の内を晒してしまった』ってね。その通りよ」
よし、3分前の俺。覚えてろよ。
「それで思い出したんだけど、敗けた時に何度も私の攻撃が読まれている気がしたの。大体こっちは一体なのに怪獣は何体も種類を変えて出てきて、ズルくない?私の攻撃のバリエーションだって限りがあるわよ。ねぇ、そうでしょ?」
考えろ俺。慎重に答えを選ばなくては、いつまでもこの状況に付き合わされてしまうぞ。
「そうですね」
安直!! 聞き上手でもない、安直!!Unshocked!!衝撃はなかった。意味フ。
「ね、そう思うでしょ。だったら、何かいい案考えてくれるわよね?」
はーい、3秒前の俺。あとでちょっと来い。
「あの...新技を開発してみるとかは?」
「あ?」
ヤバい。お気に召さないようだ。足だけしか見えないのに、威圧感がすごい。何かないのか?とりあえず時間を稼ぐんだ。
「ところで、日本語がお上手ですね」
「あっわかる?私、前々から、この星へ旅行に来たかったの。それでさ、やっぱ旅っていったら現地人との交流が醍醐味みたいな所あるでしょ?だから~たっくさん勉強していたの」
「さすがですね」
足のメタルコーティングが眩しくきらめく。なんだマズローの信者か?4段階目の亡者なの?
「彼ピも一緒に来れれば良かったんだけどさぁ。私の代わりにスタンバイしなきゃいけなかったし。まぁでも、ひとりはひとりで新たな出会いも」
ねーよ。ロボットじゃん、地球に巨大ロボット型知的生命体なんていねーよ。スタンバイしてる彼ピかわいそす。ん?スタンバイ?
「スタンバイ...準備です!」
「え?」
「その、怪獣対策として準備することが重要なんです。相手があなたの攻撃を読んでくるなら、それを利用して攻撃をする事も考えたのですが、結局、同じ応酬の繰り返しになってしまいます」
「続けて」
好感触。プレゼンかな?
「ですので、如何なる事態にも対応できるように、準備しておくことが重要。そこで役に立つのがコチラ」
通販番組のMCだった。ラジカセの再生ボタンを押すと、ドライバーの先みたいなものが、テープを回しはじめる。
『ラジオ体操第一~♪』
聞きなれた声に従い、運動して見せる。俺の最終美技[ラジオ体操第一その本流]だ。指の先まで神経を研ぎ澄まし、腕の返すタイミングから、跳躍の高さに至るまで全て計算された、この美しき流れ。見るもの全てを魅了する俺の最終美技にロボットの足も後ずさりする。
『5、6、7、8』
深呼吸のブレスさえ、1パスカルの狂いもなく決まった。
「この運動をすることで如何なる事態にも対応できるようになります!」
「え?」
上手く伝わっていないようだ。
「かぁー、わかんない?これだから素人は困るんだよねぇ。この美しさはさぁ、伝わってると思うんだけど、ラジオ体操だよ?ラジオ体操。この国で一番売れてる音楽なんだけど。君さぁ、この国に旅行に来ているんでしょ?それだったらさぁ、この国の文化ぐらい前もって調べてきなよ」
ラジオ体操の良さが分からないなんて、シ○ア・アズナ○ルなら「坊やだからさ」って言うよ?
「あの、はい。すいません」
「あのさぁ、すいません、すいませんて。そうじゃないの。ラジオ体操するの?するの?どっち?」
「するしか選択肢がな」
《ガリ》「何?」
「し、します。しますから、メタルコーティングを剥がそうとしないで下さい」
「うん。良かった、信じてた。じゃあ、これあげるから。闘う前に、よくテープの声を聞いて運動するんだよ」
ラジカセごとカセットを、ロボットの足の上によじ登って置く。おまけでラジオ体操第二のカセットも、付けてあげよう。
「これで解決だね?」
「え?」
「だね?」
「は、はい。あ、ありがとうございました」
酔いが覚めたように、礼儀正しくなったロボットはラジカセを収納し、そのままどこかへ飛び立っていった。
「さすがラジオ体操」
なんだか、よく分からない事態に巻き込まれてしまったが、ラジオ体操のおかげで乗り切ることが出来た。
やっぱり、準備は重要ってはっきりわかんだね。
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さぁ、君も、レッツラジオ体操!!