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勝利のジングルが鳴った  作者: 秋月流弥
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12月24日【お疲れ様会】

「全部配り終えた~……!」

「お疲れ様。星茄さんの助けもあって無事今夜中にプレゼント配りが間に合ったよ!」


 お互い空になった袋を引っ提げ再びトナカイバイクに乗り空を飛ぶ。

 仕事を終えたノエルはこのままサンタの国に帰るらしい。


 その前に最初に出会った山道に戻る。

 故障バイクが置きっぱなしだ。


「お、発見無事だ」

 雪の積もるバイクを持ち上げサイドカーに乗せる。

「家の前まで送ってもらうのもありだったな」

「なしだよ。本当に図々しいなぁ。私だって忙しいの。家帰ったらすぐ大掃除しなきゃだし」

「サンタの国も年末年始ってあるのか」

「いや。クリスマスシーズンは繁忙期だからろくに掃除できないんだよ。掃除が終わってやっと一段落。のんびりした過ごし方は日本のお正月と変わらないけどね」

「へーご苦労なこって」

「それより、あーお腹減った!」

「食う?」

 さっ、とビニール袋をちらつかせる。

 意外にもノエルは「じゃあ貰おっかな」とチキンに手を伸ばした。

「え、食うの」

「星茄さんも食べなよ。帰る前に二人で食べよ。今なら星茄さんも清らかだしチキンの怨念成分も消えてそう」

「なんだよ怨念成分って」

「これだよ」

 ノエルが星茄の眉間に指をちょんちょんと触れる。

「! なにっ」

「ここ、会った時すっごい溝だった。今の星茄さんは穏やか。会った時の邪悪な面影がない」

「邪悪だったか俺」

「勇者一行に城の玉座まで追い詰められて、頼れる部下ももういない、こつなったら地球ごと抱えて自爆してやるーッ! ……っていう魔王の顔だったよ」

「……こと細かな説明どうも」


 要するに追い詰められた表情ってことか。


「んーうま」

「ん……冷めてもいけるな。若干温かいし」

「怨念で保温してたんじゃない」

「お前……」


 二人してチキンを黙々とかじる。

 無言で肉を咀嚼する音だけが聞こえるなか、ふと、俺から口を開いてしまう。


「俺さ、クリスマスとか、人が幸せになる日って苦手なんだ」


 こいつになら話してもいいかな、そう思った。

「イベント自体が嫌っていうより幸せそうな人間が嫌なんだ。周囲の幸せが眩しすぎて……俺に刺さるっていうか、幸せが痛い」

「幸せと辛いならわかるけど、痛いとかウケる」

「ウケねーよ」


 ケラケラ笑うノエルに対し星茄はため息を吐く。


「……俺の親父、俺が高校二年の時に死んでさ。片親になった母親に学費とか無理させねぇって無駄にはりきって国公立落ちたんだ。その後の就職面接も落ちるし、いつの間にかフリーター生活に突入しちゃって。周りの同級生や友達とも話合わなくなるし、距離おかれて……」


 ヤバいな。

 どんどん溢れてくる。


「妹はちゃんと大学行ってんだ。大学で恋人もできて今日も彼氏と過ごしてる。環境なんて関係ない。俺が選択肢とか未来設計とか諸々間違えた。意見とか全然尊重してくれる母親なんだ。俺が私大行きたいって言えば反対しない。俺が勝手にはりきって勝手に自滅したんだ。突っ走って失敗して……母も妹も自分自身も周りの幸せそうな奴らも皆憎くなって……」


「もっと話し合えばよかったね」


 話を聞いていたノエルが言った。


「そう思うよ。もっと自分の気持ちを言えばよかったなって。ただそれだけの話だ。まあ……だから、ノエルとプレゼント配りやって自分でも驚いたよ。あれはやってて楽しかった」

「きっと星茄さんに喜ばせたいって気持ちがあったからだよ」

「俺に?」

「そう。お母さんのことだって、星茄さんが家族のことを思いやってした行動でしょ。ただうまくいかなかっただけで、星茄さんの行動理念は人を思いやる善意なんだよ」


 人を思いやる、か。


 その善意は幸せを恨む悪意に変わってしまったけどな。


「幸せな人が憎く思えるのは当然だよ。自分が幸せじゃないんだもん。だってそんなの悔しいじゃん」


 ノエルの言葉にはっとさせられた。

 こんな話をしたら、自分も幸せになるように頑張れとか、嫌なものから目をそらさず立ち向かえとか言われるのが世の答えだと思ってた。

 でも彼女は違った。

 自分の負の気持ちを肯定してくれた。


「ノエルに話してよかった。なんかすっきりした」

「星茄さんさ横も見た方がいいよ。自分より上とか前ばかり見てたら事故るよ」

 サイドカーに乗るパンクしたバイクを指差しノエルは笑う。

「視界広く持ちなよ。運転も人生も自分の持ち味次第だよ」


たしかにそりゃそうだ。


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