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私、自分勝手なあなたのこと嫌いなので婚約破棄します

作者: ちる

ここは王立学園の裏庭。ベンチに赤髪の青年と青いウェーブの髪をハーフアップにしたとても愛らしい少女が一緒にサンドイッチを頬張っていた。


「エド様、このサンドイッチとても美味しいわよ」


「ああ、この挟んであるローストビーフは最高だな。明日も食べたいな」


「ふふ。明日も持ってくるわ。あ、口元にソースが」


慣れた手付きでナフキンでそっと青年の口元を拭う。青年は少し赤くなった顔で少女にお礼を言う。


誰がどう見ても仲睦まじい恋人同士にしか見えない。例え青年に婚約者がいたとしても。


二人は知らない。この二人をその婚約者が見ていることを。




「ん?シルフィ?何やってるんだ?」


ガサガサ


茂みの中に頭を突っ込んでいるお尻に向かって金髪の青年が声をかけた。


ガサガサ


ちょいちょい、と手招きをして茂みに入るように促され、好奇心から青年は彼女の隣に潜り込む。




「ふふ。エド様ったら。口づけ一つで許されると思ってるの?ギュってしてくれなきゃダメ!」


「わかったよ。ほら、アリアおいで」


赤髪の青年と青髪の少女がぴったりと抱き合って濃厚な口づけを交わしていた。




「っなぁっむぐっ」


それを見せられた金髪の青年は叫び声をあげようとしたが隣にいた銀髪の美少女に口を塞がれてしまった。


「駄目よ。今録画中なの。気づかれたら台無しだわ」


「むぐむぐ」


「ん?なぁに?」


少女はそっと口元から手を離した。


「シルフィはいつから知ってたんだ?」


「んー1ヶ月前位?いつ婚約の解消してくれるのか待ってたんだけど何もなくっていつも通り。お姉様に相談したら浮気の証拠を集めてこちらから破棄しましょって」


「きっとシルフィの誕生日待ちだったんだろ」


「私もそう思ったのよ。

エドも私も契約魔法であのことは話せないでしょ?だからか中々婚約解消しないエドにしびれを切らした彼女が私にイジメられているとかエドに話をしていてね。階段から突き落とされたとかドレスを破られたとか。なんだか雲行きが怪しくなってきたからこちらから破棄しようかなって」


話をしながらも器用に魔道具で婚約者の不貞の様子を録画していると、婚約者が浮気相手のドレスの裾から手を入れ始めた。浮気相手は恥じらいつつもその行動を止めない。


「あら。こんなところでおっぱじめるのかしら?」


子首を傾げて隣の青年に語りかけた。


「はぁ。その言葉遣い令嬢として間違ってるぞ」


さすがに脱がせたりはしなかったが胸を揉みしだいたり、下着の中に手を入れたりと誰がどうみても不貞行為と断定できる位にはイチャイチャして、予鈴とともに二人は去っていった。


ガサガサ


「うーん。さすがにあの態勢は疲れたわ」


ガサガサ


「もうだいぶ証拠も集まってるんじゃないのか?ほら、葉っぱがついてる」


少女の頭に付いた葉っぱを1枚1枚丁寧に取っていく。


「ありがとう」


少し赤くなった顔で微笑んだ少女はとても可愛らしかった。


「盗撮は今日でお終いよ。お姉様が集めた物と一緒に婚約破棄の手続きをするわ」


「あー婚約破棄は役所に申請するんだったな」


「そうよ。証拠を検証して問題がなければ婚約破棄が成立。問題があった側は役所が試算した慰謝料を支払う義務が生じるの。もし払わなければ爵位を取り上げられたり、資産の凍結もあるわ」


「どのくらいの期間がかかる?」


「んーまぁ長くかかったとしても私の誕生日までには決まるわ。それにお父様やユフィのお父様も動かれているみたいだからもっと早いかも」


「は?オヤジも?」


「ええ。エドと婚約破棄できたらすぐにあなたと婚約するの」


少女は青年からそっと目をそらした。


(いっ言っちゃったわーー。ユフィに嫌がられないかしら?まだ私と婚約したいって思ってくれているかしら?怖くて顔が見れないわ)




シルファリアーナ・ユリアス男爵令嬢とその婚約者であるエドワルド・カナルド公爵令息、そしてユフィアルド・セレッセ伯爵令息は幼馴染だった。


幼い頃は3人仲良く木に登ったり、棒切れを振り回して遊んだりしていた。シルファリアーナは輝く金髪にぱっちりとした目、すっとした鼻にちょこんと小さい口をしたそれはそれは愛らしい容姿をしていた。二人の男の子がシルファリアーナに恋をするのに時間はかからなかった。


シルファリアーナは自分のことばっかり話し、彼女の話を聞いてくれないエドワルドは苦手だった。そして、どんなときも彼女を守ってくれ、話をよく聞いてくれるユフィアルドのことが大好きだった。


シルファリアーナの母とユフィアルドの母は二人の婚約を進めていた時に事件が起きた。


棒切れで騎士ごっこをしていたエドワルドがシルファリアーナの顔を傷つけてしまったのだ。

すぐに光魔法を使える侍女が治療したため痕が残ることはなかったが、エドワルドは責任を取ると言って無理矢理シルファリアーナとの婚約を結んでしまった。エドワルドは現国王の甥という立場を利用して王命で婚約を結ばせたのだ。

ただ、二人がまだ幼いことも加味され、シルファリアーナの15歳の誕生日に婚約を続けるか話し合いをし、話し合いが決裂もしくはお互いに婚約を解消することを選んだ場合、婚約が白紙になる。逆に婚約を続ける場合は正式に婚約発表を行う。


このことは異例づくしで権力に物言わせたものであったため、婚約したこと以外は契約魔法によって話せないようにされた。しかしその魔法は当事者のみ有効だったため、その場にたまたまいたユフィアルドとその両親には効かなかった。


ユフィアルドの両親は国王の対応に憤慨し、国王を退位させ、王弟を即位させようと暗躍した。国王は公金に手を出したり、若い侍女に手を出して孕ませたりと評判も良くなかったため、あっという間に退位させることに成功した。残念なことに処刑させることは出来なかったためまだ存命である。北の塔に幽閉されている。


しかし、あの婚約は正式な書類であり、書類自体には不備もなく、王命での婚約は当時よくある事でもあったため無効にすることは出来なかった。そして前国王が生きているため契約魔法も解けていない。




「そっそっか・・・」


「えっ?それだけ?」


シルファリアーナはユフィアルドを睨んだ。緊張でちょっと潤んだ目で睨まれても何も怖くはなく、愛らしさしかない。


「あーやっとだな」


ユフィアルドは破顔した。それはそれは美しい顔で。直視してしまったシルファリアーナは赤面しながらコクコクと頷いた。


さすがに婚約者がいる身で長い時間二人で話すのはマズイと感じ早々に教室へ向かった。




「さて、シルフィ、録画したのはこれで全部?」


「はい、お母様」


シルファリアーナとその母と姉の三人は不定の証拠を整理していた。


「これが今日の分ね。ほうほう。・・・・うわぁ。真っ昼間からお盛んですね」


姉は録画したものがきちんと撮れているか確認していた。


『あら。こんなところでおっぱじめるのかしら?』


『はぁ。その言葉遣い令嬢として間違ってるぞ』


「あ、音消すの忘れてたわ」


シルファリアーナは何もなかったかのように魔道具の音を削除するボタンを押す。


「はぁ。うちの娘たちは・・・」


白い目をした母が二人の娘をじとりと睨む。


「さ、さぁ、お母様、この書類を片付けましょう。後はサインするだけですよね?」


「はぁ。そうよ。婚約破棄の申込書、婚約に至った経緯、破棄を申請する事情、提出する証拠の一覧表、婚約証明書に婚約契約の写し、代理弁護人の書類。全部にサインが必要なの。婚約に至った経緯は流石に契約魔法に引っかかるからセレッセ伯爵夫人に頼んだわ」


「はぁ。婚約破棄って大変ですね。婚約する時はいつの間にかしていたのにー」


ブツブツと文句を言いつつサインをしていく。


「お母様、映像の確認終わりましたわー」


「じゃぁ、音を削除して複製したものを日付ラベルを貼ってこの袋に入れて頂戴」


「分かりましたわ」


「お母様、王命の婚約を本当に破棄できるの?」


「今の国王の許可書は貰ってきたから大丈夫じゃないかしら?まぁ前例がないから絶対とは言えないわね」


「シルフィ、いざとなったら国を出ればいいのよ。あなたなら平民でも大丈夫でしょ!」


「お姉様!それ、いいですねー。国外なんて行ったことないわー」


「まぁ今は書類を纏めましょう」


「「はーい」」



翌日、シルファリアーナ達の努力の結晶は母によって提出された。



ーカナルド公爵家ー


「だ、旦那様、貴族籍管轄科から手紙が届いておりまして・・・」


執事が慌てた様子で執務室に入ってきたのを横目で確認した公爵はあまり聞き慣れない部署からの手紙に眉を顰めた。


「何の手紙だ?」


「あ、あの、エドワルド様のご婚約についてでして」


執事はとても言いにくそうにしていたため、公爵は手紙を奪い取り中身を確認した。


「はぁ?婚約破棄?」


それは婚約破棄の申請を受付けたという内容であり、呼び出しがあるまで当事者同士の話し合いの禁止や訴えた側に連絡を取りたい場合は代理弁護人を通すなどの注意事項が書かれていた。


「これだけでは破棄の理由が分からんな。エドはいるか?」


「お部屋でお休みでしたのでこちらにいらっしゃる様伝えてあります」


「そうか。もう下がっていい」


「はい、失礼いたします」


執事と入れ替わりにエドワルドが入室してきた。


「父上、何か重要な手紙が役所から来たと聞きましたが?」


「あぁ。お前の婚約についてだ。ユリアス男爵令嬢から婚約破棄の申請がされたそうだが何か心当たりはあるか?」


「はぁ?婚約破棄?なぜ?シルフィが?」


「婚約破棄は何かお前に原因があって申請されたようだが?」


「えっ?・・・・あ、もしかすると・・・」


「何か心当たりがあるようだな」


「最近、仲良くなった御令嬢がいまして、その方といるところをシルフィに見られて誤解されたのかと思います。すぐにユリアス家に向かい誤解を説いてきます」


「あぁ待て待て。直接話し合うことは出来ない。お前が誤解だと言うのなら提出された証拠も大したものでないのだろう。2週間以内に結果が分かるようだ。それを待てば良いだろう。王命での婚約が破棄されることはないと思うがな。万一破棄になっても従姉妹のマリーナと結婚すればいいだろう」


「それもそうですね」


エドワルドは内心焦っていた。なるべく人のいない所で彼女と会っていたが、全くいないというわけでもなかった。さすがに密室に二人っきりはまずいので裏庭でよく会っていたのだが、もしそれが誰かに見られていたら・・・・。


「あぁ。確認したいことはそれだけだ。もう部屋に戻っていい」


「分かりました」


エドワルドは父には止められたがユリアス家へ行っシルファリアーナと話すことを決めた。


(マリーナと結婚なんて死んでも嫌だね。俺はシルフィと結婚するんだ。あのお転婆を組み敷くのを楽しみにしていたのにただのお遊びでそれがなくなるなんて許せん)




コンコン


「どうぞ」


「シルフィ、エドワルド様がいらっしゃったわ」


「あら、お母様。やっぱりいらっしゃったのね。役所からの注意事項読んでないのかしら?」


「とても焦っているようだって門番が言ってたからよく読んでいないのかもね。一応追い返すよう言ったけど、学園もしばらく休んだら?」


「そうしたほうが安全かなー」



ー二週間後ー


「シルフィ!役所から書類が届いたわよ!」


ドタバタと淑女らしからぬ音を立てて母がシルファリアーナの部屋へ入ってきた。


「お母様!中は見ました?」


「まだよ。封筒は執事に開けてもらったわ」


二人はどきどきわくわくしながら封筒の中の書類を取り出した。


「やっやっやったわーーー!!」


婚約破棄成立書と書かれた紙を両手で高々と上げて母と喜びを分かち合っていると姉がひょっこり顔を出した。


「あら?成立したの?ほんと?やだー。おめでとう!」


姉は入っていた他の書類をじっくりと読み始め、徐々に眉間にシワを寄せていった。


「はぁ。王命だからなの?何なのコレ」


1枚の書類がグシャッと音を立てて姉の手によって握りつぶされた。


「お姉様?」


「いくら元といっても国王だからその命に背いたので爵位の返上を要求されたわ。きっとあの浮気野郎が手を回したのね」


「王命に背いたのはあちらも同じでしょう?」


「あっちは婚約破棄をしたいと思っていないから背いていないんですって。あげあしとりね」


「やっぱりそうなったのね」


「お母様?」


「役所に元国王の子飼がいたみたいなの。そいつが手を回したのね」


「ん?爵位なんていらんし、別にいいぞ?」


なぜかひょっこり父も出てきて何でもないことのようにとんでもないことを言う。


「「「はぁー??」」」


さすが母娘。ほぼ同じ驚き顔で発言者を凝視した。


「もともと次男だったし、貴族になるつもりなかったんだ。たまたまちょっと参加した戦争でちょっと敵の大将打ち負かしちゃって爵位やら領地貰っちゃっただけだし。家族皆が良ければ爵位なんていらないが?」


「そうなのね。うーん。私もお茶会だなんだって腹の探り合いは性に合わないのよねー」


いち早く正気に戻った母が頬に手を当て呟いた。


「わ、私も!令嬢とか無理。友達も平民だし。でもシルフィはユフィと結婚したいのよね?」


「はっ。そうですね。私も平民になることは構わないのだけど・・・」


「ん?それは大丈夫だぞ?元々父さんは爵位と領地を返上したいと思ってて、セレッセ伯爵にも相談してたんだ。セレッセ伯爵の領地で宿屋か料理屋をやらないかって話になっていてなー。平民になってもシルフィには嫁に来てもらいたいと言ってたぞ」


「えっ!?ほんと?」


そんなこんなでユリアス一家は爵位と領地を王家に返上した。現国王は立派な方で役所に抗議し、再調査の結果、爵位返上は不当としユリアス一家を止めたが、時すでに遅し。すでに宿屋を営んでいた為、爵位と領地は遠い親戚に明け渡した。



手入れの行き届いた庭園の四阿で二人の男女が寄り添い合ってお茶をしている。


「シルフィ。やっとやっと君を手に入れられた」


「ふふ。ユフィ、お慕いしておりますわ」


ユフィアルドはそっとシルファリアーナの顎に手を当て口づけた。チュッというリップ音とともに歓迎されていない者の足音が聞こえてきた。


「シルフィ!!ここにいたのか」


「はぁ。何なんです?」


「シルフィ。浮気なんかして、そんなに俺にヤキモチ焼かせたいのか?かわいい奴め」


「は?」


淑女らしからぬ重低音に周りの侍女は驚いた。


「あんな書類を役所に出したのだって拗ねていただけだろ。あの女はただの遊びだ。俺が愛しているのはシルフィだけだ」


「んぁ?」


どこぞの盗賊かと思われる声が庭園に木霊した。隣のユフィアルドは耐えきれず腹を抱えて笑っていた。


「ほら、早く俺とシルフィの愛の巣に帰ろう」


そっと出された手を振り払い、シルファリアーナはエドワルドに綺麗な回し蹴りをかました。


「おととい来やがれ!私はユフィ一筋だ!邪魔すんなクソ浮気野郎。顔みせんな」


泡を吹いて倒れたエドワルドは護衛によって家に帰された。その後エドワルドは廃嫡され、どこかで騎士見習いをしているらしい。


シルファリアーナとユフィアルドは晩年になっても仲睦まじく、5人の子宝にも恵まれた。淑女らしからぬ性格はユフィアルドと子どもたちを笑わせ、とても温かな家庭を築いた。

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