92・冬は寒いのです
「お母さん、おはようございます」
「おはようなのです」
吐く息が白くなる時期になった。私たちは、ダイニングに下りていき、お母さんに挨拶をする。
「おはよう、リズ、リコ。寒くなりましたね」
「ええ、布団の中は暖かいので、起きて出るのが辛くなってきました」
「ロズ村の冬より寒いのです」
ロズ村の冬は、海から暖かい風が吹くので、ここよりも暖かかった。カカロやナーマムでは、家が小さく、朝食の準備で使う火だけ暖かくなっていた。ここの部屋は広くて寒いのだ。
「リズは、ナーマムの喫茶店の暖房をここには出来ないの」
「かなり大がかりな装置のはずです。今から、この屋敷に取り付けるのは難しいと思います」
「そうですか残念ですね。それで、ナーマムでは喫茶店を新規に建てたのですね」
お母さんも朝は寒かったようである。
「お母さん、冬と言えば温泉ですよね」
「リズ姉、温泉は山の中です」
「みんなで行かないの」
「この国の山に温泉はないのです。帝国の山にはあるのです」
「確か、王都にいた時に、王様でもお風呂は毎日入れないと言われました。公衆浴場も見たこと無いのです。みんな、何とかしようとは思わなかったのですか」
「リズ、公衆浴場なんて、聞いたことがないですよ」
お母さんも知らないようである。
「お湯を沸かして、温泉のような大きなお風呂にみんなで入るのです」
何故かリコは知っていた。
「リズは小さい時から、毎日お湯につかるんだって言ってましたね。そんなにお風呂が好きなんですか」
「好きとか嫌いではないです。毎日お風呂にはいるのは当たり前です」
「ここのお風呂にも、リコの作った石柱を立てて、毎日お風呂に入っているようですけど、水を用意するのも大変なんですよ。」
「それは大丈夫です。水を浄化する魔道具をリコに作ってもらい、循環式24時間風呂に改造してあります。」
リズのお風呂に対する情熱はすごかった。ちなみ、浄化装置の仕組みはわからない。リコの秘伝の魔法を組み込んだらしい。
お風呂の話は朝食を取りながらだった。三人の会話を、ジムは黙って聞きながら、食べているのだった。
「リズ姉、魔獣の素材で作ったマントに、魔法陣を組み込み、魔力を流すと防寒着になります。このあたりの寒さでは魔石カイロで過ごせますが、帝国では、凍えてしまうのです」
「そんなマントがあるの、でも魔石カイロで良いわ、私は魔石買わなくても大丈夫だから」
リズのマントの内側には、カイロを入れるポケットが、いくつも付けられていた。
二ヶ月と、短い冬だが、みんな春が来るのが待ち遠しかった。