5・私たち 3歳になりました
「おはようございます。お父さん、今日は森へ行くの」
私はジムに声をかけた。お母さんとリコと一緒にしていた朝食の準備も終わりかけところに、ジムが水くみから帰ってきた。身体強化できるジムは、一回で一日に必要な水を小川から汲んでくる。この世界、電気はないので、当然ポンプなど有るわけ無い。水道も山の中腹では無理である。樽を持って汲みに行くのだ。
電気がない割に生活水準は高く、快適に過ごしている。これは魔獣から取れる魔石に魔力が込められており、魔道具を使うことが出来るからである。
ようは魔法のある世界なのだ。魔法使いは少ないけどね。
「そうだよリズ、魔獣のうさぎを取ってこないと、魔石の在庫が少なくなっているからな。それに、娘たちの3歳の誕生日に、美味しい肉も用意するぞ」
そう今日は、私とリコの誕生日、元気いっぱいに育ってきました。
朝食を食べ終えると、ジムは森へ狩りに出かけていった。
「お母さん、片づけが終わったら、何か手伝いましょうか」
「そうね、今日は二人の誕生日だし、村まで夕食の買い物にでも出かけましょうか。」
「リズ姉、ここの村ではたいしたものを売っていないです、隣の町まで行かないと買うものが無いのです」
ロズと呼ばれるこの村は、人口が500人くらいの小さな村である。
村の有る所は、温暖で、豊かな山があり狩りが出来る、川も流れており魚も捕れる、平野が広がり、畑も有って、小麦や野菜が取れる。村民の食生活は悪くない。
ただ、三方が山に囲まれ、あとは海である。海岸はほとんどが岩場であり、大きな港も作れないので船便もない。隣町には山を越えていくしかない。山越えは女性の足でも半日の距離である。ただし馬車が通れないので、物流が悪いのである。
山を越え街道に出た所に宿場町があるが、ここは宿だけの街で、本当の街には、そこから馬車で二日かかる。なので、村には他から人々が訪れることもない。リコが隣町と言っているが、そう簡単にいけるわけではないのだ。
私とリコは、この村からまだ出たことはない。父のジムが身体強化して走ると、日帰りで、隣町まで行ってこれる。母のマリサが作った薬を売りに行ったり、買い物をしてくる。なので、リコは隣町が割と近くにあると思っていた。
「リコ、確かにそうだけれど、街は今度家族4人で行きましょう。今日は村のお店で買い物ですね」
今日の夕食が少し豪華になるものと、お母さんの知り合いに頼んでおいたケーキを買ってきた。
私は、生まれてから自分がなになのか考えてきた。何処にも行けないのだから、考える時間はたっぷりとあった。
この世界には夢見人と言って、教えてもらっていないこと、誰も知らないことを、生まれながらに知っている人がたまにいるらしい。
私が夢見人ならば、知識はどこかの世界で生きてきた誰かのものかもしれない。
その知識を元に、この世界で自分が出来ることを考えてみた。
ただ、自分の周りにいる人は、お父さんとお母さんと妹だけである。これではこの世界の情報を得るには心もと無い。しかし、お父さんとお母さんの会話から、出来るだけのことを知ろうとした。
まず、自分の知っている世界とこの世界の違いである。
ここには、電気がない、要するに、前の世界のような生活は出来ないと言うことである。
なのに、割と快適に過ごしているのは、マナの存在と、魔力による魔法があることだと思う。
マナに関しては、お母さんが詳しかった。薬師としてマナのことは重要なのだ。
マナは生命の存続に大きく関わっている存在と言うことだ。生きていくのに空気や水が必要なのと同じような感じである。
マナは大気や水に含まれている。マナの元は魔素である。魔素がなんだかわからない、魔素は魔素である。魔素は植物の光合成と一緒にマナとして植物に蓄えられる。葉や根や種など全てに行き渡る。光合成により酸素がでる。植物も呼吸するので二酸化炭素もだす、それらにもマナは混じっていく。水生植物や、植物プランクトンも同様なので、水にもマナが含まれるのだ。
こっちの世界に光合成や、酸素、二酸化炭素の知識はない。私の知識とマリサの話から推測してみたことだ。
そしてマナには、大地と太陽の力が思いっきり入っているので、お父さんのように、体内のマナを使い、肉体強化をすることができる。これには、体内にあるマナを感じ取り、使いこなさなければいけない。
マリサの薬作りも、ただ薬草を、すり潰したり、煮たりするのではなく、薬草の持つマナをコントロールしながら、薬を使った人の怪我や病気が治るように、マナを整える作業をするのだ。これも体内のマナを使いこなすことになる。
ジムもマリサもマナの達人なのである。それならば私もマナを使いこなせる可能性が高いはずだ。
私は生まれた時から体内のマナに気付いていた。体内のマナの巡りを感じ、感じるだけでなく、マナをこねたりして、自分で自在に扱えないか試していた。
3歳の時には、マナによる身体強化の仕方もわかった。筋肉だけを強化すると、骨や腱が壊れてしまう。身体全体に満遍なくマナを馴染ませて、身体と会話するように強化するのだ。
身体の仕組みを理解している私ならではの、マナのコントロールであった。
ジムは、身体強化の才能は天性的なものであり、よほど無理な強化をしない限り、骨が折れたり、腱が切れるようなことはなかった。
ジムの身体強化の発動は、ウーンとマナを感じてウォーって力を入れるといいらしい。ほかの人には教えられない発動の仕方である。
リコは私がいつももぞもぞと身体を動かしているのに気付いていた。リコは生まれながらに魔法のことが詳しかった。マナや魔力の知識もすでにあり、マナや魔力の扱いも出来ていた。なので、私がもぞもぞしているのは、体内のマナを制御しようとしているのだとわかっていた。わかっているが、起きている時は、たいていもぞもぞしているので、かなり鬱陶しかったろう。