30・封印場所に着きました
リコは森の木の上を飛んだ。魔力の板であるマギボードは見えないが、杖をハンドルにしているのでハンドルだけのキックボードに乗っているようだ。
ボードが見えないので、リコのスタイルは変である。だが、速い。ジムの全速力と互角である。時速100キロは出ていそうだ。
ジムは森の木や岩を避けながら走る。まっすぐで平坦な所ならば、飛んでいるリコよりも速く走れそうだ。だが、森の中では、ついていくだけで、やっとだ。もしかするとリコが手加減しているかもしれない。
リコも、ドラゴンの魔力を感知しながらである。今の速さが限界であった。
リコは森に入ってすぐにドラゴン封印の場所を特定した。前の時は、あと少し魔力が届かなかったようである。
リコとジムはとばす。森の魔獣は、二人に気づくが、何かする前に遠ざかっていく。何事もなく封印場所に着いた。
「お父様、ここがドラゴン封印の場所なのです」
リコが降り立ったのは、村から全速で3時間、はげ山の麓であった」
「リコ、このはげ山が封印場所か」
「はい、山自体が、何重にも魔法陣を組み込んだ魔道具になっています。魔道具の魔力供給元はドラゴンなので、ドラゴンが活性化しようとすると封印の力も強くなるのです」
リコは自慢げに、あたかも自分が封印したかのジムに説明する。
「そして、漏れるドラゴンの魔力と魔道具動作の力で、周辺に生き物がいないのです」
「それではげ山か。山と岩しか見あたらないが、その魔法の杖という二本の片手剣は、何処にあるのかわかるのか」
「はい、すでに見つけてあるのです。目の前にある、この岩の中です。」
リコは、空中で杖を見つけており、目の前に降りたのだった。
リコは大きな岩に向かい合った。
「お父様、これから岩を砕いて、中から剣を取り出すのです。集中するので、護りをお願いするのです」
リコがジムと一緒に来たのは、規則だけが理由ではなかった。岩を砕くのに、かなりの集中力がいるのである。ただの岩ならば、ジムの剣の一降りで済むが、この岩は、大魔女が大事な剣を埋め込んだ物だ、簡単に砕けることはない。リコが岩に魔力を注ぎ込む。このとき、リコは無防備になる。そこで、ジムに護って欲しかったのだ。
リコが岩に魔力を注ぎ始ると、岩に光のスジが幾重にも出来てきた。鍵をヘアピンで開けるように、リコは岩の中で魔力を巡らしていた。
10分もたった頃であろう。『ピシッ』軽い音とともに、岩は粉々に砕け散っていった。
砕けた岩の中に、2本の片手剣があった。
「お父様、終わりました」
リコは警戒を続けるジムに声をかけた。
「おっ 終わったか。それではこれからどうする」
「せっかくお母様にお弁当を作ってもらったのです。食べてから帰るのです」
ジムとリコは、はげ山と森の境まで戻り、お弁当を食べるた。
はげ山とその周辺は、ドラゴンの魔力と、封印の魔法陣の影響で草木が生えていない。リコ達も、はげ山に長くいると気分が悪くなってくるので、森のきわに移ったのだ。
お弁当が終われば、後は帰るだけである。来た時と同じく、全速力で森の中を走り抜けた。
リコとジムのコンビは、ロズ村でコトブキを取りに行った時もそうだが、並の冒険者では、数日かかるのを、一日かからず済ませてしまう、何かズルイ二人組である。
ひもまだ高いうちにカカロ村に帰るのだった。