16・そのころ王都では
「また魔獣に襲われた人が出たぞ」
「魔獣のいる森にでも迷い込んだじゃないのか」
「いや、普通にみんなが通る街道での話だ。街中で襲われた話はまだ無いようだがな。襲ってきた魔獣も、それほど強いものでもなかったらしく、重傷や死んだものはいないらしい」
魔獣は、自分のテリトリーから出ることは少なく、そこに入らなければ襲ってくることもない。そこ以外で魔獣が人を襲うことは考え辛かった。
襲ってきた魔獣が強くなかったので、一般の人たちは、あまり気にとめていなかった。
「森から出てきて、魔獣が人を襲ったのか」
王都にある冒険ギルドの受付で冒険家が話し掛ける。
「そのようです。最近で数件の報告が入っています。そのせいか、冒険ギルドにも、今まで以上に護衛の依頼が増えています」
「そうなのか、あまり強い魔獣は出てきて欲しくないな。最近は強い冒険家が少なくなっているからな。ランクC以上の冒険者は人手不足だし、かと言って俺みたいなランクDでは、役に立つかわからないからな」
「今ところ、話に出てきた魔獣は、魔ウサギと魔猪だそうです。」
「それならば、俺でも倒せるが、魔熊は、一人では無理だな。魔ウサギでも数が多いと大変だしな」
冒険者は、浮かぬ顔のまま、依頼書が貼ってある壁へと向かった。
街はずれの一角、広い庭のある古い家の中で。
「ジョンの馬鹿やろー くたばってしまえ」
「あの野郎がいなければ、俺が選ばれたのに。こんちくしょう」
「儲けの全てをあの野郎がもって逃げやがった、今度有ったらだだではすまさんぞ。」
人々は順番に、大きな壺のある部屋にはいると、不平不満、恨み辛みを、大きな壺の中に向かって叫んでいた。部屋は叫び声が外に漏れないようになっており、思いっきり叫ぶことが出来た。
「しかし、ここは気分が良くなるな」
叫び終わった男が、一緒に来た仲間に話し掛ける。
「おお、恨み言や愚痴をここで叫ぶと、胸の中のもやもやが無くなりすっきりとする。」
仲間は答える」
「それにここには、無料でパンとスープがもらえる、心がすっきりとし、腹も満たされる、よいところだな」
「だた、何のために誰が、こんなことをしているのかな。」
「そんなこと気にするな。パンがもらえなく。とにかく、大声で叫んでパンがもらえればそれでいいのだ」
ほとんどの人が何かしらの慈善事業だと思っていた。
順序よく部屋に人々を案内したり、パンやスープを配る人も、小綺麗な服を着て、物腰も優しい人たちであった。
ここに来ると、気分がすっきりする。気分すっきり略してキキリと呼ばれるようになった。
キキリは、問題を起こしたり、混乱が起きたりすることもないので、役人も口出しすることはなかった。




