10・リコ 取りあえずの魔法の杖を手に入れる
「お母様、コトブキの木って知ってます」
リコはマリサに聞いてみた。
「聞いたことはあります。マナの多い所でないと育たない希少な木ですね。でも、見たことはありません、リコはコトブキが欲しいのですか」
「はい、旅に出るならば、魔法の杖があった方が便利なので、欲しいのです」
「そうね、裏の山を2つ越えた所にマナ溜まりが有るってジムが言っていました。ジムはコトブキを知らないので、リコと一緒に行ってみてきたらどうです」
「山を越えた所は、確かにマナが多そうなので、コトブキはありそうです。でも、あそこはマナが多いのでそれなりに強い魔獣がいると思うのです」
「大丈夫ですよ、ジムにかなう魔獣はおいそれといません。それに、静かにしていれば、襲ってくることも少ないです」
走っているジムに抱えられている。以前にも同じようなことがあった気がする。
私も大魔女である、身体強化くらいは出来るのだ。それでも、ジムの異常な走力についてはいけない。
山2つくらい超えるのは、あっと言う間だ。気配をほとんど出さず、高速に移動していく。大魔女の記憶にもこんな身体強化のすごい人間はいない。
「リコ、このあたりがマナ溜まりのはずだが」
「お父様、確かにすごいマナです。これならばコトブキも育っていそうですね。」
リコは、大量のマナの中から、コトブキのマナを感じ取るために、マナ感知の力をマナ溜まり一面に広げていった。
「有りました。ここはコトブキにとって最良の場所のようです。かなりの数のコトブキが育っています。その中で杖に良さそうなのがあっちの方にあります」
リコは、山の谷の底のまた底 マナが異常に密集しているところを指さした。
「リコ、あそこは普通の人では立ち入るのは無理な場所だな。険しいし、力の強い魔獣もいるかもしれない。まあお父さんならば、どうと言うことはないけどな」
ジムは自慢するようにリコに答えた。
ジムとリコの力があれば、魔法の杖にすべく最適なコトブキを手に入れることは容易だった。
樹歴が長く、それでいて大きく育っていなくて、木目の詰まっていること。そして、長さ、太さ、形が良い物を探し出した。
杖にするのは、コトブキの何処でも良いわけではない。根と幹の境が大事なのである。
なので、切り倒すのではなく、掘り起こさないといけない。
まず、必要のない上部を切り落とすため。ジムの剣が一降りされた。
次に、リコの魔法でコトブキの周りが掘り起こされた。そして、ジムが引き抜いた。
あれよあれよという間に終わってしまったが、この二人でなければ、一日がかりであったろう。
あとは家に帰って、使いやすいように削り出すだけだ。
こうして、リコの魔法の杖が手に入った。
コトブキは、マナの多い所で育つ。厳密に言うと少し違った。魔力の含まれた土の場所で育つのだ。
マナの多い所に住む、小さな獣や虫たちにも、魔力を持つものがいる。小さすぎて魔石は確認できない。魔力も人間に感じ取れないくらい小さい。
それらが、死ねば死骸から魔力が土に流れ込む。魔獣も死ねば魔石から漏れた魔力は土に流れ込む。
その魔力を、コトブキは成長に使うのだ。
魔力を自分で作ることは出来ないが、地面から吸収して、コトブキの細胞には魔力が練り込まれているのだ。
切り倒されたコトブキは魔力が無くなるが、魔力を通しやすく、魔力を込める魔女や魔法師が握っている限り、魔力を保つことが出来るのだ。
魔法の杖になる為に生まれてきた様な木である。




