1・娘たちのためにジムは走る
ジムは森の中を走っている。身体強化をしフルスロットル状態だ。
4ヶ月もの長い春も終わりに近づき、森の中は、かなり蒸し暑かった。
その中を、うっすらと汗をかきながら、ジムは、少しでも早く家に着く為に走っていた。
妻の出産が間近なのに、無理矢理仕事を入れられたのだ。冒険ギルドからの指名依頼だ。ジムならば、簡単な仕事ですぐ終わるよと言われたが、それはちょっと嘘だった。確かにジムならば何とかなる。だが、ジムにとっても簡単な仕事ではなかった。仕事を終わらせるには時間がかかってしまった。
妻の出産予定は今日か明日のはずだ。もしかするともう生まれているかもしれない。なので、近道をしている。この森は、強力な魔獣が住んでいる。彼らのテリトリーに入らなければ襲ってくることはない。しかし急いでいる今はそんなことを言ってられない、魔獣のテリトリーのなかを突っ切っている。追いつかれなけば良いのだ。襲われたり捕まったりすることもない。
ジム以外この森に好きこのんで入る者はいない。はずなのに、森の外に向かう、数人の男たちとすれ違った。気配を消し高速で走っているジムを感知することは出来なかったようだ。ジムに気付くことなく去っていった。
危険を冒してまで、何しに来たのか、気にはなるが、妻のことの方が大事だ。
ジムはスピードを落とすことなく走り去るはずだったのだが、彼らが来た方、森の奥に、とても小さいが人の気配がする。このままにしておけば、魔獣に気が付かれてしまう。そうすれば命がない。さすがに放っておけないので、気配のある方へ向かった。
そこには赤子がいた。生まれてから数日くらいか。泣くこともなくかごの中にいる。のぞき込むと目と目があう。驚かない、静かにしている。真っ白な肌に真っ白な髪、瞳は薄く赤みがかかっている。よく言われている悪魔のようだ。
ジムは、その子が呪われた子として捨てられたのではないかと思った。とにかくそのままには出来ない、脇に抱えて、家に急ぐことにした。