崩壊
『「俺の身体にダメージを与えて心をへし折るってか? へっ、残念だがそうはいかねぇ。憑依合体を発動してる間は無敵なんだよ!」』
「存じています。ですので貴方に危害は加えません。その代わり大いなる力を授けます。さぁ、お受け取りください」
ギューーーーーーン!
な、なんだこの感覚は? 身体が妙に軽いし、力がみなぎってくる。剣なんかなくても手刀できれそうだし、ジャンプすればどこまでも飛んで行けそうだ!
「どうでしょう? 気に入っていただけると幸いですが」
そうだった。この妙な力はカタロストフによるもので、きっと大きな代償があるに違いない。
『「何が望みだ? まさか無償提供ってわけじゃないんだろ?」』
「そうですね。無償とは言えませんが、条件として貴方の中に入り込んだ異物を取り除いていただきたいのです」
『「異物……だと?」』
「はい。貴方がもっとも親しくしている存在です。私から見たら忌々しい存在でしかありませんが、それさえ除去できれば後は貴方の思うがままです」
コイツ、俺に対してメリーを捨てろと言ってるのか?
「何を迷っているのです? 世界を意のままにできる力を得られるのですよ? そのチャンスをみすみす逃すのは愚か者のする事です。さぁ、その女を捨てるのです!」
そんなもの、考えるまでもない。メリーがいなければ、俺はとっくの昔にのたれ死んでただろう。悪霊でもあるが救世主でもあるメリーを捨てるなんて選択肢、俺にはねぇ!
『「断るぜ! 俺にはメリーが必要なんた。手離せるわけねぇだろうが! ――イッヒヒヒヒヒ! 残念だったわねカタロストフ。ヒサシにとってアンタは不要なゴミなのよ。ゴミはゴミらしく塵になりなさい」』
だぁぁぁ、俺の身体で女台詞喋んな! 癖になったらどうすんだよ!
『「もういいからメリーは喋るな。……コホン。で、どうする? おとなしく諦めてくれるんなら助かるんだけどな」』
「とても残念ですが、貴方が私のものにならないのは理解しました。懐柔するのは諦めましょう」
ん? 随分あっさりと諦めたな。
――なぁんて呑気に考えてる場合じゃなかったと、直後に後悔した。カタロストフの奴、とんでもない事を抜かしやがったんだ。
「せめてもの餞別として、イグリーシアを跡形もなく消し去るとしましょう」
グィィィィィィ……
『「おい、ふざけんな! 俺はまだまだイグリーシアを堪能しきれてないんだ。破壊なんかさせねぇぞ! それにこの鈍い音は何だ? テメェ何しやがった!?」』
不自然な笑顔で傍らに佇むカタロストフに怒号を浴びせる。すると奴は冷ややかな口調で告げてきた。
「実行するのは私ではありません」
「貴方です」
はぁ!? 俺がそんな事するわけねぇ。だが奴は自信たっぷりに……
「フフフフ、感じませんか? 沸き上がる破壊感情が。そして聴こえませんか? 全てを無に返さんとする魂の叫びが。どうせ手に入らないのなら己の手で壊してしまえ――と」
ドクン!
「くっ!?」
ドクンドクン!
「うぐぐぐ……」
ドクンドクンドクンドクン!
「な、なんだよこれ……。まるで心臓が鷲掴みにされてるように苦しい……」
「それは貴方が自分の感情に逆らっているからです」
「ざ、ざけんな……。俺がイグリーシアの破壊なんか望むわけねぇ!」
「フフフフ。人は誰しもが破壊願望を持っています。そこには例外はありません。大小の違いはあれど、壊してやりたいという感情は消えません。フフ、永久に……ね」
勝ち誇ったようなカタロストフを殴ってやりたいが、相変わらず拘束は解けない。ならばとメリーの能力ですり抜けてやろうとするも、なぜかスキルは発動せず。
『おい、どうしたメリー? このままじゃヤバいぞ、メリー?』
念話で必死に訴えるもメリーからの返答はない。ここで一気に恐怖が襲う。もしメリーに異常が起こっていれば、その時点で俺は詰む。
『メリー、返事をしろ、メリー!』
だが幾ら呼び掛けても反応はない。そこへカタロストフがトドメの台詞を吐いた。
「足掻いても無駄ですよ? あの女は貴方が搭乗している最終兵器によって消去されましたので」
「そ、そんなバカな! メリーが簡単に消えるわけ――」
「現に反応は無いのでしょう? 貴方が乗っている機体は私が持つ知識と技術の集大成。操縦者を護るために不要な分子を完璧に除去するサポート機能付きですもの」
チッ、余計な機能付けやがって。
「こうなりゃ外から壊してもらうしかねぇ。レンにウル、この機体をブッ壊せ!」
「さっきからやってるぞ~! でも全然壊れないんだ~!」
「レンに同意。物理、魔法、あらゆる効果を受け付けず、まさに無敵の兵器と言えるでしょう」
「だったら応援を呼んできてくれ! ウルにネージュ、縦穴の外にはアイリたちが来てるんだろう!?」
「残念ながら無理どすなぁ。あの大量に湧いたドローンもどきが蓋してますわぁ」
「それどころか退路を断たれてますわ。どうしましょ……」
八方塞がり? いや、まだだ!
「全員で協力して機体を壊せ! 一点集中で傷を負わせるんだ!」
「あ、そうそう、1つ言い忘れてましたが、この機体にはメンフィスにしか無かった高強度の物質を満遍なくコーティングしています。これによりイグリーシアのあらゆる攻撃手段は意味を持たないのです」
そんなんありかよ!
「それに貴方ではこの状況を覆す手段はありませんし、もはや成すがまま。諦めて破壊活動に勤しんでくださいませ」
「ちっきしょぉぉぉぉぉぉ!」
クソッ、ダメだ。やっぱりメリーのスキルが使えねぇ。俺が踠いてる間にも最終兵器が動き出そうとしてやがる。このまま諦めて破壊して回るしかないのか。そう諦めかけた時だ。
『なに……泣きそうな顔……してんのよ。大丈夫だから……落ち着きなさい』
『え、メリー……なのか?』
『それ……以外に誰が……いるってのよ』
念話の声は確かにメリーのものだった。けれど声がいやに弱々しい。
『お前、無事だったのか!? 呼び掛けに応じないからてっきり――』
『それよりよく……聞きなさい。私はもう長くは持たないんだから、やるべき事だけを言っておくわ』
『はぁ? 長くは持たないって、いったい何を――』
『私に集う……あらゆる霊体を使ってこの……機体の……機能を喪失……さるわ。拘束が解けるだろうから、その隙に……脱出……しなさい』
パキン!
「マジか!? 手足を固定してた金具みたいなのが急に外れやがった!」
「!?」
それを見たカタロストフはハッとした表情を見せるが、奴を突き飛ばしてドアを蹴破る。メリーがやった機能不全のためか、今まで傷1つ受けなかったドアが脆くもフッ飛んでいく。
「ヒサシ~!」
「無事でしたか、ミスター」
「ああ、メリーのお陰でな!」
脱出した俺をレンたちが出迎える。だがまだ終わっちゃいねぇ。
「くぅ! この女、どこまでも私の邪魔をする気!? 離しなさい、低能な精神体め!」
な、なんだ? 俺がいたコックピットでカタロストフが踠いてやがる。するとまたメリーからの念話が届く。
『カタロストフは……押さえてるから……今のうちに……脱出……を……』
『脱出って、お前はどうすんだ? それに長くは持たないって……まさか!?』
『……相変わらず……鈍……いわね』
メリーのやつ、カタロストフと心中する気だ!
『そ、そんな事したらメリー、お前は!』
『心配……しなくても……すぐには消えないから。ただアンタの近くには……居れ……ない……』
冗談だろおい!? こんなところで別れなきゃならねぇってのかよ!
ゴゴゴゴゴ……
「地震? 今度はなんだよ!?」
「ミスターヒサシ、最終兵器が暴走しています。このままでは自爆に巻き込まれるでしょう」
「自爆だと!? だったら尚の事メリーを助けて――」
「無茶だぞヒサシ~! それだとボクらも粉々だぞ~!」
「んなこたぁ分かってる! でも――」
「いいから脱出しますわよヒサシさん!」
「はよ脱出どす」
「バカ、離せお前ら、メリーを見捨てる気か!?」
暴れる俺を四人がかりで抱え、縦穴からの脱出を図る。上にいたドローンもどきはなぜか機能を停止しており、楽に突破する事ができた。
しかし、地上まであと半分という地点まで来たところで……
ドゴォォォン……
「地下深くで爆発を確認。最終兵器の自爆であると推測します。威力は――」
「…………」
ユラの説明を聞く気にはなれなかった。何より俺は、一生涯の付き合いになると思っていたメリーをたった今失ったんだ。それによる脱力感で口を開くのすら億劫だ。
しかし、そんな俺に追い打ちをかけるように、地下から魔の手が迫っていた。
ゴーーーーーーーーーーーーッ!
「大変です、下から爆炎が迫っています!」
「凄い勢いだぞ~! 間に合うか~!?」
「わたくしたちでは限界です! せめてヒサシさんに力を発揮していただかなければ!」
「御主人、はよぅ気張っとくれやすぅ!」
そうだよ、ここで死んだらメリーのやった事が無駄になるじゃねぇか!
「うぉぉぉぉぉぉ、間に合えぇぇぇぇぇぇ!」
★★★★★
「あら、もうこんな時間なのね。じゃあ今日のお話はここまでにしましょうか」
「えぇ~~~え!? もっと読んでよ~!」
「続きが気になる~!」
見ていた本を閉じると、子供たちから一斉にブーイングが起こります。
「ダメよ。夜なんだからキチンと寝ないと」
「え~~? でもメイドのハルミは夜更かし楽し~って言ってたよ~?」
またハルミさんは余計な事を……。
「いいから寝なさい。いつも言ってるでしょ? 良い子にしてないとカタロストフに連れ去られるって」
「でもでも~、カタロストフって死んだんでしょ~? なのに連れ去られるわけないじゃん」
「そうだそうだ~。ヒサシ兄ちゃんが倒してくれたんだもんね~」
「本当にそう思う?」
「「「……え?」」」
敢えて暗い表情で子供たちに告げると、まさかという顔で今にも泣きそうな様子。でも不安を煽るのが目的ではないので、すぐに否定してあげます。
「冗談ですよ。カタロストフはもういません」
そう告げると子供たちは一斉に安堵の表情に。代わりに話の続きを催促してきます。
「それでそれで、メリーちゃんはどうなったの!?」
「そこそこ、ボクもそこが知りた~い!」
「俺も俺も!」
「あら、ヒサシさんの事は気にならないの?」
「だって、今朝ダルそうに帰って来たじゃん」
そういえばそうでしたね。まるで酔っ払って朝帰りする冒険者みたいでしたが。そうなると姿の見えないメリーさんが気になるのは仕方ないとも言えるのでしょう。
「そんなに気になるのでしたら、本人に直接聞いてみましょうか。ね、メリーさん?」
「「「えっ!?」」」
子供たちの背後に向かって呼び掛けると、ギョっとして一斉に振り向きます。そこへ……
「イヒヒヒヒ♪ 夜更かししてる悪い子はどこ~~~?」
「「「ギャーーーーーーッ!」」」
「アッハハハハハハ! これこれ、やっぱこれよねぇ。こういう反応を見るのが悪霊の楽しみってもんよ! さぁ、ついでに夜の散歩でも行くぅ? 墓地の周りをグ~ルグル回るのも楽しいわよ――」
ゴツン!
「イダッ!?」
「だから子供たちを怖がらせるなっつぅの」
「「「ヒサシ兄ちゃ~ん、メリーちゃんがいじめる~!」」」
「お~よしよし。俺が叱っとくからみんなは寝ような~」
「「「は~い!」」」
「――ってコラァ、私を無視するんじゃな~~~い!」
フフ、結局メリーさんも無事だったみたいで、ヒサシさんたちに遅れて戻って来たのです。いったいどうやって戻って来たのか、それは後日聞いてみる事にしましょう。
END
後日談に続きます。




