最終兵器
駆けつけた助っ人に地上を任せ、俺たちは意を決して穴の中へと飛び込んだ。中は不思議な淡い光により真っ暗ではなく、地下深く続く縦穴をどこまでも照らしている。
こうして考えてる最中も落下し続けてるわけだが、不思議と恐怖は感じない。ただ下へ進むに連れて次々と地層が変わっていく様は、地上に戻るにゃ時間が掛かるだろうな~という余計な心配をしてしまいがちだけどな。
「しかし、あれだけ襲ってきた敵が全く現れないってのも妙な感じだな」
「きっと無限には出し続けられないんだから節約してるのよ」
「こんなクライマックスでか? 俺としては逆に誘い込まれてるような気がしてならないんだが」
「別にいいじゃんか~。誘ってくるなら乗っちゃえばいいだろ~」
「それもそうか」
メリーとレンに言われて細かい思考を振り払った。今はカタロストフを倒すことだけを考えるとしよう。
フワッ!
「な、なんだ? 落下速度が緩やかになったぞ?」
まるで宇宙空間に投げ出された(←体験したことはないが、何となくそう感じた)みたいに身体が軽くなった感じだ。
「下を見なさい。深層部がすぐそこだから、自動的に速度を落とされたのよ――ていうかスカート覗くなバカァ!」ゲシゲシッ!
「イテテテテテ! 別に好きで覗いてるわけじゃねぇよ! お前が上から覆い被さってくるのが悪いんだろ! さっさとどけよ!」
「うるさい! アンタがよけなさいよ変態! 変質者! ロリコン! 遺伝ハゲ!」
「おいコラ、遺伝ハゲは余計だし、そもそも俺はハゲちゃいねぇ!」
敵地でありながらも喧嘩しながら着地する俺とメリー。他のみんなも呆れていると、少しだけ聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「オッホホホホホ! 二人とも、こんな時まで賑やかですわねぇ。もう少し気を引き締めた方がよろしいのではなくて?」
「誰? ――っつ~かその声は……」
俺たちを追うように上から現れたのは、懐かしさすら感じる金髪の幼女エルフ……
「ごきげんよう皆さま。伝説の勇者アレクシスの子孫――ネージュの参上ですわよ~!」
俺たちが底に着地すると、ネージュとその母親のムーシェも華麗に着地してみせた。更によく見るとネージュの格好も以前より派手にコーディネートされていて、まるで地味女子が高校デビューしたかのようにも見えてくる。
というかスカート短っ!
「いやいや、キャラ変わりすぎ! 俺の知ってるネージュはもっと質素でおとなしかったって!」
「フフ♪ ヒサシさん、女性というのは置かれた環境により変わるものなのですよ? ええ、それはもう劇的に……」
どこか遠い目をするネージュ。いったい彼女に何があったのか。その真相を知ってるであろうムーシェは、俺と目が合うと透かさず逸らしてしまった。
「あの……ムーシェさん? 確か厳しい修行をさせてたはずだけど、ネージュの身に何が?」
「……ちょっとやり過ぎた」
「……テヘッ」
「可愛く言ってもダメですからね?」
「……チッ。だってなかなか成果が上がらなくてムカついたんだもん」
「いやいや! キミ母親。ネージュ娘。娘は大事。俺たちの仲間だし、俺たちにとっても大事。OK?」
「……じゃあ娘の面倒は頼んだ。何だったら嫁にしてくれても構わない。んじゃ」
「あ、こらぁ!」
ムーシェは逃げるように飛び去った。
「さぁ皆さま、敵を前にして戯れは無粋ですわ。いざ、わたくしに続いてくださいませ!」
ネージュはネージュでなぜか先頭に立って進んでくし。いったい何なんだこの親子は……。
「ちょっと待ちなさいよネージュ、私に命令するなんて100年早いわよ!」
「そうだそうだ~、ボクより弱いくせに~!」
「…………」ピクッ!
メリーとレンに挑発されてピタリと立ち止まるネージュ。すると彼女はゆっくりとこちらに振り向き、満面の笑みで告げてきた。
「何を仰るかと思えば。いいですか? わたくしは以前とは比較にならないほど強くなったのです。今の貴女たちではまるで相手になりませんわ」
「へ~ぇ。つまりやる気ってこと?」
「この戦いが終わったら、すぐにでも」
「分かったぞネージュ~、忘れんなよな~」
「もちろんですわ」
よかった。今は油断できる状況じゃないって事は理解してるようだ。
「ところで皆様、あそこに鉄製の扉が見えますが、いかが致します?」
「そのまま入るに決まってるでしょ」
「いえ、扉には【ヒサシ様以外は立ち入り禁止】と書かれてますが」
「は?」
まさかと思ったがマジで書いてやがった。
「こんな手に引っ掛かるとか本気で思ってやがんのか?」
「思ってるから試してるんでしょ。でも念のためにヒサシは入らない方がいいかもね」
「いや、裏の裏をかいて――とかもあるかもしれんし、ここはアレで行こうと思う」
「アレって?」
「そんなん、憑依合体に決まってるだろ」
「なるほどね!」
――って事で手早く憑依合体を発動させ、俺にメリーを憑依させた。
『「よっしゃ、行くぜぇ!」』
プシューーーッ!
扉に触れた瞬間に左右にスライドしたが、その先は僅か1畳くらいの狭っ苦しい小部屋だった。
『「何なんだこの部屋? それにカタロストフの奴はどこに居やが――」』
プシューーーッ!
『「しまった、罠か!?」』
背後の扉が閉まってしまい、レンたちと分断されちまった!
ガンッ! ガンッ! ガンガンガンガン!
「くそっ、硬くてビクともしねぇ。お~い、そっちから破壊してくれ~!」
「分かったぞ~!」
扉の向こうからレンやユラが攻撃を加えるものの、一向に壊れる様子がない。ネージュやウルも加わっての攻撃にも傷一つ付けられない。
「くっ、進化したわたくしの魔法でもダメだというんですの!?」
「あきまへんなぁ。文字通り歯が立たない感じどす」
「この扉はおかしい。ここまで変化しないのには何か理由があるはず」
そう言われても理由とやらに検討も付かない。こりゃいよいよピンチかと思ったいたところに、クソ忌々しい声が響き渡る。
『ようこそお越しくださいましたヒサシ様。私が用意したヒサシ様専用の機体は気に入っていただけましたか?』
『「ああ? 俺専用の機体だぁ!?」』
『はい。その個室はコックピットになってますの。脳裏で命じるだけで操縦席が出てきますのよ』
それは凄い。素直にそう思ったが、当然それだけじゃなかった。
ブゥン!
『「なっ!? 急に背後に!」』
声だけだったカタロストフが、突然背後に現れた。まさかの不意打ちに冷や汗が飛び出るも……
「ご安心を。別に貴方を殺そう等とは思っておりません」
『「殺そうとは思ってなくても何かしら利用しようとはしてるだろ?」』
「それは違います。私は貴方が欲しいのです」
『「へっ、飾り気のねぇ告白だ。そんな嘘はどうでもいいから何が目的なのかハッキリ言えよ」』
「嘘ではありません。私は本気で貴方が欲しい。何故ならイグリーシアにおいて唯一の適合者なのですから」
『「適合者だと?」』
何を言ってるのかさっぱり分からない。
「適合したらどうなるってんだ?」
「私と貴方の配合遺伝子を残せます」
「は? 遺伝子?」
「私に貴方の遺伝子が組合わさり、より高性能の強化ヒューマノイドが出来上がります。それを用いり世界を統一するのです。より精度の高い遺伝子を持つヒューマノイドが上に立つのは当たり前の事でしょう? ほら、もっと喜んでください。貴方は選ばれたのですから」
選ばれたって台詞だけなら嬉しく思うけどな、世界を支配だとか人の上に立つとかは考えたくねぇ。だいいち……
『「なんで俺なんだ? この世界には俺より強い奴がわんさか居るだろう。アイリやその眷族だってそうだ。なのに何だって俺が選ばれなきゃならない?」』
「それは生命体が生まれながらにして持つ波長。貴方の波長は私にとってはとても甘美。だからこうして招き入れた」
『「もし波長とやらが合わなかったら?」』
「最初から見向きもしない。仮に言い寄ってきたのなら、実力で排除してましたね。寧ろ当たり前の事では?」
『「はいはい、お気持ち表明ど~も」』
つまり好みじゃなかったら遠慮なく殺していたと。これじゃジャニーズに群がる女と何ら変わらないな。いや、殺しに来るだけコイツのが何倍も悪質だが。
「つまらない話はここまでにしましょう。いずれ貴方はイグリーシア・メンフィス帝国の初代皇帝になるのです。そのためにもしっかりと専用機に馴染んでいただきます」
シャシャ――――ガチガチガチン!
『「なっ!? ワイヤーで椅子に固定された!?」』
「恐らく貴方は抵抗するでしょうからね。まずはその反抗心を取り除いて差し上げます」
くそっ、ぜんっぜん身動きがとれねぇ! 何とか拘束を解かねぇと!




