対面、偽皇帝
『緊急事態発生、緊急事態発生、速やかに侵入者を排除せよ。繰り返す、緊急事態――』
けたたましいアラートと共に城内に響き渡る侵入者排除の警告。ライフルを持ったサイボーグ部隊のみならず、給士や貴族の格好をした連中までもが近接武器を持って出動してきた。
「予想通りだな。ユラ、生身の生命体は混ざってそうか?」
「いいえ、この辺りには生命反応がありません。ですが上の方から生身とは別の反応がみられます」
「別の?」
「はい。反応が薄いため確証はありませんが、恐らくはオートマタかと」
この状況でオートマタといえばレボルたちに他ならないだろう。
「なら案内を頼む。そこに偽皇帝もいるはずだ」
「了解です――チャージバーナー!」
ゴォォォォォォ!
「これ以上侵にゅうううはaaa……」
「ここから先へはaaa……」
ユラが放つ高熱ガスが一直線に延び、正面の敵を溶かしていく。さぞグロテクスなのを想像していたが中から出てきたのは金属類で、それらも溶けると黄色く濁った液体だけがその場に残されていった。
「なんだよコイツら、全員生身じゃないじゃないか~」
「程よく肉汁が出るのを期待しとったんに残念やわぁ」
レンとウルの不満を聞き流しつつ床の液体にエンガチョしながら先へと進む。やがて大きなセレモニホールのような場所に出たところでユラが天井を突き抜ける大ジャンプ! それに続くと、着地した場所の真ん前に豪勢な扉が現れた。
「この先です。ここに例の反応が」
「よし、全員で突入するぞ? ユラが開けたら一気に――」
「じゃあ私は先に行くから」
「――っておい!」
ユラが開けるのを待たずにメリーが扉をすり抜けて行きやがった。締まらねぇなぁと思いながらも扉を開けると……
バァン!
「ったく、勝手に進みやがって――ってレボル!?」
武装サイボーグの部隊が玉座の周りを固めているのに対し、レボルとその仲間たちの多くが床に倒れていた。いや、正確にはレボルだけが辛うじて立っているって感じか。
「……来たか」
玉座から目を離すことなくレボルが呟く。サイボーグも何体かは破壊したみたいだが数が多い上にレボルたちには荷が重い相手のようで、形勢は断然不利という絶望的な状況だ。
そんな中、守備隊に護られた玉座の主は、狡猾そうな笑み浮かべつつ口を開いた。
「なんだ、まだ仲間がいたのか? わざわざ始末されに来るとはバカな奴らめ」
「仲間――って訳じゃないんだけどな。でもテメェの化けの皮を剥ぐって目的は一致してるようだぜ?」
「フッ、面白い。そこまで言うなら試してやろう」
ポチッ!
偽皇帝が手元のスイッチを押した。すると直後に天井が四方に開き、偽皇帝の玉座が上昇し始める。
「あ、コイツ一人だけ逃げる気よ!」
「フン、逃げるだと? 人聞きの悪い。ここまで来た褒美として最大級のフィナーレを飾ってやろうと言うのだ。光栄に思うがいい」
何をやろうとしてるのか分からないまま、俺たちも天井から外へと飛び出る。夜のため灯りがなく真っ暗なところへ、玉座の背もたれから伸びた数本の管先が偽皇帝を照らし出した。
「おい偽者さんよ、こりゃ何の真似だ? わざわざ城の外に誘い出したかと思えば、煌々と自分を照らして主役気取りかよ」
「間違ってはおるまい? この城はワシの城なのだからな。そして貴様らは侵入者。よって貴様らに死罪を申し付ける」
は? 死罪? 何を言ってんだコイツは。
「別に死罪でも構わねぇけど何をする気だ? 言っとくが城の兵士だけじゃ俺らは止められねぇぞ?」
「分かっているとも。だからこそ奥の手を使おうと言うのだ。なぁに安心しろ。死ぬのは一瞬だ。痛みも感じず、そして跡形もなく消え去るがいい!」
ポチッ!
再び偽皇帝がスイッチを押した。今度は玉座全体を淡い光が包み込む。
「城に張ってた結界と同じやつか? そんなもん今さら――」
「ミスターヒサシ、早くこの場から撤退を!」
いつもとは違う焦りを見せたユラに尋常ではないものを感じとり、慌てて地を蹴り遠くへと離れる。ついでにレボルにはラリアットをかまし、より遠くへと弾き飛ばしてやった。
そして俺たちが振り向いたタイミングで、元居た場所へと上空から光の柱が突き刺さる。
ズガァァァァァァァァァァァァン!
「危ないところでした。アレに触れたら骨すら残らず消え去っていたでしょう」
「分子分解レベルってか? とんでもねぇ兵器を使いやがったな。こりゃ一気に決めるしかねぇぞ」
「なら早いとこ終わらせましょ。いい加減、椅子でふんぞり返ってるオッサン見てるとイライラするわ」
「よろしゅうおす」
「アハッ♪ 今度こそボクが一番乗りだもんね~!」
光の柱が消えたところで一気に反撃に出る。
「フン、愚かな。アレを見てもなお刃向かうか」
「へへ~んだ、どっちが愚かか思い知――」
ガン!
「ふげぇ!」
「フハハハハ! だから愚かと言ったのだ」
最初に突っ込んだレンはデジャブの展開で弾かれる。それを見てご満悦な偽皇帝だったが、ここからは急転直下を迎える事に。
「レンもアンタも学習能力がないわね。どうやって城に入り込んだのかよく考えなさい」
バキィィィィィィン!
「な、なんだと!? カタロストフ様の結界が破られたというのか!」
メリーが触れた事により、あっさりと結界は破裂。そこへウルとユラが畳み掛ける。
ガブリ!
「ぐうぉぉぉ!? う、腕がぁぁぁ!」
「ペッ! アンタも生身じゃあらへんなぁ。マズ過ぎてかなわんわぁ」
「ではボイルして差し上げましょう」
ゴォーーーーーーッ!
「ギャーーーッ! 足が、足がぁぁぁ!」
腕を食われ、足を焼かれ、すでに無抵抗な偽皇帝。だがこれだけじゃ終わらない。更にレンが追い討ちをかける。
ザシュ!
「グワァッ!?」
「アハッ♪ いい反応! だけど血が飛び出ないのはつまんないぞ~」
そりゃ作り物だからな。血を通わせる必要はなかったんだろ。
「ぐ、ぐぞぅ……。ワシはカタロストフ様よりこの地を任された。つまりは皇帝なのだ。こんなところで――」
「いいや、貴様は皇帝ではない」
フルボッコにしてるところにレボルが戻ってきた。
「我々は陛下直々にこの国を護るよう命じられた」
「そ、そうだ、その通りだ。だからレボルよ、こ奴らを消すのだ!」
「いいや、消えるのは貴様だ。これは約束を果たせなかった我々からの贖罪。その身で受けてもらおう」
ドスッ!
「グッホォォォ!」
レボルのダガーが心臓に突き立てられた。しかし生身と違う偽皇帝はそれでも生きていた。
「ふ~ん? なかなかしぶといじゃない。ならせっかくだから、トドメは自分で刺してちょうだい」
「な、何をする気だ……」
「ウケケケケ♪ それは見てのお楽しみ~ってね」
ポチッ!
「なっ!? 貴様、発射装置を!」
「さ、離れるわよみんな!」
偽皇帝の玉座に仕掛けられていた発射ボタンをメリーが押した。透かさずさっきと同じように離れると……
ズガァァァァァァァァァァァァン!
断末魔をも書き消し、偽皇帝は消滅した。
「終わったか……」
「レボル?」
「俺を含む全工作員は陛下の存在があってこそだった。その存在がとうに消されてると知った今、俺に存在意義はない。これでお前たちを襲った事を無しにしろとは言わん。好きにするがいい」
そう言ってレボルはダガーを投げ棄てる。だが俺は直ぐにダガーを拾い上げ、奴の手に押し戻した。
「……どういうつもりだ?」
「どうもこうも、お前を消すつもりはねぇよ。結局は偽者に命じられてやったんだろうしな。で、本物は恐らく死んでるから目標がなくなったんだろ? だったらよ、本人の意思を汲んでこれからもオルロージュ帝国を護ってけばいいんじゃねぇの?」
「これからも……」
「帝都はほぼ無人になるくらいの被害が出てるんだし、立て直しは必要だろう。ま、無理にとは言わねぇけど」
「…………」
その後、無言になったレボルを置いて、俺たちは城から引き上げた。もちろん次なる目標のクロック王国跡地へ向かうためにな。
「この様子だと、国境警備隊も例のサイボーグ連中と入れ替わってるだろうな」
「心が痛まなくていいんじゃないの?」
「かもな」
カタロストフ相手に遠慮はしない。そもそもメリーを殺そうとした相手だ。油断せずに全力で戦ってやろうじゃないか!




