帰宅。そして帝都へ
「久しぶりねフィルン。寂しがってると思ったから帰ってきてあげたわよ」
「メリーちゃんお久しぶりです。ヒサシさんや皆さんもご無事でなによりです!」
「ああ、フィルンたちも無事でよかったよ」
サザンブリングの後始末はグレンモーゼに任せ、俺たちはオルロージュ帝国にあるザッカートの自宅へと帰ってきた。
俺を見るなり子供たちは大はしゃぎでまとわりつき、ナディア先生やフィルンたちは苦笑いを見せる。
そこへ奥からリーザとメイドたちも現れ、何はともあれリビングへと押し込まれた。
ウルやユラといった知らない面子を紹介しつつ、リーザがザッカートの現状を語り始める。
「この国の動きがキナ臭いぞよ。街から街への移動には事前申請が義務付けられ、用事が無い者の外出禁止令までもが発動されよった。お主らも気付いたであろう? 昼間だというのに人の行き来が少ない事に」
「それは感じたな」
実は街の近くまでホークさんに送ってもらったんだが、門を潜るのにいつも以上に時間を費やしたんだ。少しでも怪しいと感じられたら入場を拒まれるって感じにな。
特に他国からの入場は絶対に認めないと門番が言い張り、前に並んでいた商人グループは憤りを露にして立ち去ったよ。ご多分に漏れず俺たちの入場も認められず、仕方なく人目を忍んで防壁を飛び越えたんだ。
そしたら街の中はガラ~ン状態だもんな。そりゃオルロージュ帝国の偽者皇帝が何か言ったに違いないって思ったね。
そこでこれまでの経緯をリーザに伝えると……
「う~む、古の銀河共和国にカタロストフという謎の女。それに皇帝が偽者のぅ……」
「現にサザンブリングの元国王は作り物だったんだ。オルロージュ帝国の方も絶対に怪しい。早いとこ帝都に乗り込むつもりだ」
「まぁ焦るでない。ワッチの方でもカスティーラに情報収集を頼んでおるぞよ。もうすぐ戻ってくると思うが、ちと遅いのぅ」
カスティーラ? 確かグロスエレムの親衛隊隊長だった女性(推定二十歳)だ。なんで俺の自宅に――
ドサッ!
「ん? なんの音だ?」
「外からのようですね。確認して参ります」
メイドのフレネートが退室すると、何かを叫びながらすぐに戻ってきた。
「た、たた、大変です! カスティーラ様が外で大怪我を!」
「「「大怪我!?」」」
玄関まで行くと、身体中に切り傷や刺し傷を負ったカスティーラが息を切らしてへたり込んでいた。
「どうしたんだよ、酷い怪我じゃないか! すぐに医者のところへ――」
「お待ちくださいヒサシ様。今は外出禁止令の影響あり、傷だらけの民間人が目撃されれば質問責めに合ってしまいます。下手をすると有無を言わさず投獄される恐れも……」
「なんてこった……」
フィルンに言われて足を止める。クソッ、こんな事ならポーションくらい買い込んでおくんだった。
「泣きそうな顔しなくてもポーションなら有るわよ?」
「ホ、ホントかメリー!?」
「アイリからポーション余ってて邪魔だから持っていきなさいって言われたから、100本くらい霊蔵庫にしまってあるわ」
何でそんな大量に――なんて野暮な事はこの際捨て去る。
パシャパシャパシャ
メリーが取り出したポーションを5本くらい振りかけてみた。さすがに効果が強力だったようで、あっという間に傷が塞がっていく。
同時に意識が朦朧としていたカスティーラがしっかりと目覚めた。
「ありがとうメリー殿! もう少しで私は息絶えるところだった」
「礼はいいわよ。それより誰にやられたか言いなさい。キッチリ100倍返しにしてやるから」
「実は……」
オルロージュ帝国から異変を感じ取った直後、リーザは秘密裏に情報収集を行っていた。
護衛のため動けないリーザに代わりカスティーラが情報屋と接触していたのだが、今日に限って約束の時間になっても現れない。
諦めて帰ろうとしたところ、帝国兵に囲まれてしまったらしい。
「我ながら情けない。広い場所ならやりようはあったのだが、待ち合わせ場所は人気のないスラム。ならず者ならいざ知らず、完全武装の帝国兵が相手では……」
「それでも逃げ切れたんだから、カスティーラは強いよ」
「そ、そうであろうか? 貴殿にそう言われるのも悪くはないな、うん」
あれ、こんなにしおらしかったっけ? 以前なら真っ向から突っ掛かってきたはずだが。
「な~にデレデレしちゃってんのよ、この尻軽女。ヒサシは私のパートナーなんだから、変な気起こさないでよね!」
「なっ!? メリー殿、いくらヒサシ殿のパートナーと言えど、尻軽発言は取り消していただきたい!」
「おいおい二人とも、今はそんな事言ってる場合じゃ――」
「「ヒサシ(殿)は黙ってて(もらおう)!」」
何か俺が悪いみたいじゃないか……。
「しかし困ったぞよ。これまで獲た情報によると、民の動きを抑制し帝都の護りを強化している事くらいしか分かっておらぬ」
「その上余計なゴミまで引き付けてくれちゃったわね」
「余計なゴミ?」
「そ。多分カスティーラは餌に使われたのよ。どこに情報を持ち帰るのか――ってね」
「そ、それってまさか!」
メリーの言ってる事を理解した。帝国兵は敢えてカスティーラを泳がしたんだ。つまりは既にここを特定されてるって事に!
「おいでなさったぞよ。メリーの言う通りだったのぅ」
「数は30。一般常識ではなかなかの数……ですが、我々相手では話にならないレベル……でしょう」
舐められたもんだな。まぁこっちの正体を知らないんじゃ仕方ないか。
「んじゃ一つ、ゴミ掃除といくか」
バァン!
勢いよく扉を開け放って辺りを見渡す。ちょうど街の中心側から兵士が走ってくるところだった。
「クッ……ここに来られたのも私の責任。ならば私だけで全員を!」
「まてよカスティーラ。舐められっぱなしじゃ俺の気がすまねぇ。俺んちに押し掛けて来たんだし俺の手で礼をしてやるのが筋ってもんだ」
「え? まさかヒサシ殿一人で全員を!?」
「そのまさか――――さ!」
ズバァァァン!
「「「げはぁ!」」」
軽く横薙ぎするだけで兵士全員が華麗に吹き飛ぶ。レベル100超えの俺がそこらの雑魚兵に負けるかっての。
「……で、お主ら大勢で押し掛けてきて何が目的ぞよ?」
「わ、我々の任務は本国を探ろうとする輩の完全排除だ。我々を倒した事で本国から増援が送られてくる。諦めて投降するのだな」
「はぁ? お前らが束になっても勝てないって証明しただろ? 諦めんのはお前らの方だ」
「その通り。彼らはザッカートのヒーローなのです。捕えるというならば、我々冒険者ギルドとて黙ってはいませんよ?」
どっかで聴いた声……だと思ったら、冒険者ギルドのギルマス(マイホームを紹介してくれた人物でもある)じゃねぇか。
「久し振りだなギルマス」
「ええ。お久し振りです。ところで、本国の兵士を真っ向からブチのめすという行動も些勇気が必要だと思われますが、すでに何らかの厄介ごとに巻き込めれてるという事ですかな?」
「ま、そんなところだ。理由は聞かないでくれると助かる。何せ国の存亡が関わるほど厄介だからな」
偽者云々は伏せておき、これから帝都に向かうとだけ伝えた。
「なるほど。やはり裏で色々と起こっているのですね」
「やはりって事は薄々気付いてたのか」
「いえ、ある人物から皆さんへと言伝てを頼まれたのですよ」
「ある人物?」
「名前は名乗りませんでしたが、つい先日黒ずくめの男がやって来ましてね。できれば早急に帝都へ来てほしいと。気配を感じさせない人物でしたし、アレは裏稼業の者でしょう」
黒ずくめと言われて当てはまる人物はレボルしかいない。やっぱアイツらも皇帝が偽者だと疑ってるんだな。
「元々行くつもりだったし、ちょっくら帝都に顔出してくるか。リーザにカスティーラ、留守は任せるぜ」
「うむ。気をつけて行くぞよ」
「留守はお任せください!」
「我が冒険者ギルドも協力しますよ」
帰って早々その日のうちに出立し、全速力で移動を開始。お陰で帝都に着いたのはその日の夜だった。
夜間の門は開けてくれないのが殆どだが、どうせ今なら昼間でも変わらない。そこでザッカートと同じく門を飛び越えて侵入。
――が!
「こちら第6守備隊、ターゲットが防御壁を越えて内部に侵入、これより迎撃を開始する!」
「なっ!?」
すでに帝都の中で待ち構えてる!? しかも通常の兵士ではなく、サイボーグのような格好をした連中が重そうなライフルで武装してやがるじゃねぇか!
ズバババババババッ!
「うぉっととと! 何だよコイツら、帝都の連中だけSFの世界なのか!?」
「んな訳ないでしょ。カタロストフの手下と入れ替わってるのよ」
「だとしたら俺たちの正体はバレバレじゃねぇか!」
「どうせサザンブリングに飛空艇を寄越した時点でバレてるわよ。そんな事より被弾しないでよ? このまま城に乗り込むんだから」
「ああ、善処してみる!」
銃弾の雨を回避しつつ前に立ち塞がる敵を蹴散らし、全員で城を目指す。コイツら以外の一般人が全くいないのが幸いし、多少は派手に暴れられるのがいい。
「この様子だと帝都の民間人は全滅してるかもな~。血の気の無い奴らを相手にするのはテンション下がるぞ~」
「レンは血を見たいだけだろ。つ~かよく見ろよ。血の代わりに汚ねぇオイルが流出してるじゃねぇか」
コイツらもカタロストフのお手製か? ったく手の込んだ事しやがる。
「そんなローテンションのレンに朗報だ。城が見えてきたぞ」
「おお! 城なら生き残りが居そうだな~」
カタロストフが寛容な性格ならな。だが奴の事だ。効率を優先するため皆殺しにしてるだろうな。
「ミスターヒサシ、城門が閉じられてます」
「ならプラン高跳びだ」
「何ですかそれ?」
「そのまま飛び越えろって事」
「捻りがなくてつまらないです」
「こりゃ手厳しい」
「ホンっとつまんない男ね、バカヒサシ」
「うるへ~。メリーに言われたくね~」
しかし城門の前に誰もいないのは不自然だな。一応は警戒するのが吉か?
「へへ~ん、ボクが一番乗り~!」
「ちょ、レン待ちなさい! 獲物は平等に分けるんだからね!」
「ふふん、知~らないよ~だ♪ 悔しかったら追いつい――」
ガン!
「ふぎゃ!?」
城門を飛び越えたはずのレンが空中で弾かれた。
「どうしたレン!?」
「イッテテテテ。何か結界みないなのにぶつかっちゃった……」
「結界?」
目を凝らせば淡い光が城全体を包んでいるのが見えた。
「壊せそうか?」
「物理、魔法、いずれも完全にシャットアウトする作りのようです。認証式になっており、許可が下りた者しか通れない模様」
カタロストフめ、よほど城に入れたくないと見える。
「チッ、ここに来て回り道か……」
「何言ってんのよ。私には接触不動があるんだから――」
バチィィィ!
「――機能しなくさせればどうってことないじゃない」
メリーが手をかざすと結界は派手な音と共に弾け飛んだ。
うん。さすがはメリー。悪知恵だけは誰にも負けないな(←最大限の褒め言葉)。




