偽者
「グッフフフフ! どうだ俺の尖兵たちは? そこらの冒険者なんぞ目ではないぞ!」
ブタの言ってる事は間違いではない。レボルの同僚なら戦闘のエキスパートだろう。
だがこのブタは知らない。世の中には例外ってのがある事を。
「コイツらなら遠慮はいらねぇ。全力でやっちまえ」
「クヒヒヒヒヒ! こういう展開を待ってたのよ!」
ズバズバズバッ!
「グフッ! バカな、こちらの攻撃が……」
「通らない……だと……」
メリーへの攻撃は物理不通により無力化され、逆に草刈り鎌で相手の首を刈り取っていく。
「あ~~~! ズルいぞメリー、ボクの分は残しとけよな~!」
ザシュ――ザシュザシュ!
「くぅ……な、なんという魔力になんという切れ味……」
「ごふっ! まるで伝説の魔剣アゴレントのよう……た……」
レンはというと、魔力の波動を飛ばして相手を怯ませた後、わざと血が飛び散るように斬り伏せていく。
ちなみに名も知らない工作員、魔剣アゴレントで大正解。豪華特典は冥府への誘いな。
「獲物の確保も弱肉強食。しんどいもんどすなぁ」
グジュ! ズチャ! ドチュ!
「コ、コイツの爪は……只の爪では……」
「この小娘、まさか……人狼……ごはぁ!」
のんびり口調とは裏腹に素手で胴体を貫いていくウル。滴る血を丁寧に拭き取ってはいく姿はサイコパスに見えなくもない。
でもって名の知れぬ工作員。Cランクの人狼は不正解で、Aランクのサバイバーウルフが正解だ。
さて、そんなこんなで次々に工作員を葬っていく俺たちだが、一人だけ納得がいかない人物が玉座から立ち上って喚き始めた。
「な、なな、なんだよぉ……いったいどうなってんだよぉ……。オルロージュ帝国のエリート工作員だぞ? それがこうも簡単に――」
ドゴン!
「んひぃ!?」
「失礼。ユラの流れ弾がそちらに飛んでいったようです。あまり喚くと殺気と勘違いして撃ち殺しそうになるので、しばし口を閉じておく事をおすすめします」
「…………」コクコク
己の尖兵が殺られてるんだが、それでいいのか? まぁ頷いてるんだからいいのか。
「――――覚悟!」
「グッ!?」
レボルたちの方も一人の工作員を生け捕りにしたようで、これで工作員は全滅。現状を見ていたデブは玉座の上でポカーンとした顔で呆気に取られていた。
「さぁてと。残るのはアンタと僅かな兵士だけよ。まだ戦うつもりなら――」
「ひぃぃぃ! こここ降参だ、降参する、だから命だけはお助けぇぇぇ!」
おいおい、さっきまでの威勢はどうしたよ……。しかもハイハイしながら近寄ってきてグレンモーゼの足にしがみついてるし。
「グ、グレンモーゼ、お前からも何か言ってやってくれ。なぁ、兄弟だろう?」
「存じませんな。意義を申し立てたとはいえ、姉上たちを処刑するような兄を自分は知りませんので」
「あ、あれは仕方なく――そう仕方なくだ。おれだって反対したんだよ。邪魔にならない限りは幽閉するだけでいいって」
「反対しただと? いったい誰の顔色を伺ってるというのだ?」
「そ、それは……」
ガーランドはビクビクしながらも部屋の隅で怯えた状態の元国王に視線を向けた。すると全身をビクッと震わせた元国王があからさまに視線を逸らす。
「やはり父上が……」
「そ、そうだ、今までの事はぜ~んぶ父上のせいだ。国王になれば何でも好き放題だって言ってきたんだ。金だって女だって料理だってレアアイテムだって全て手に入るって。だから俺だってその気に……」
誇張はしてるだろうが元国王が唆した事は間違いないっぽいな。
「父上。これはどういう事ですかな? 以前の貴方ならこんなゲス(←いやいや、一応は兄貴だぞ)に継承するなどという戯言は抜かさなかったはず。いったい何をお考えなのか、お聞かせ願いたい」
「…………」ブンブン
「父上!」
首を横へと振り続ける元国王にグレンモーゼが語気を強めた。が、それでも変わらぬ態度を見せてきたため埒が明かないと判断し、ついには本人へと詰め寄ろうとしたところでレボルたちが捕らえていた工作員が口を開く。
「無駄だよ。所詮ソイツは国王の姿を真似た作り物。己の意思で喋る事はできんさ」
「作り物……。ではやはり父上は!」
「ああ。とっくの昔に殺されてるって事だ我々の手によってな」
「そ……んな……」
グレンモーゼが膝から崩れる。父が他国の工作員によって既に死んでるとは思いもしなかっただろう。
いや、多少の覚悟はあったのか吹っ切れた様子で立ち上がり、レボルを押し退けて工作員に掴みかかった。
「なぜだ、なぜこのような事を。オルロージュの皇帝は争いを好むような人物ではなかったはずだ!」
「さぁな。人の性格なんぞ季節のように移ろう。ならばコロリと変わってしまうのも頷けるのではないのか? それか深層心理では野心を燃やしていたか。いずれにせよ我々は陛下の忠実なる飼い犬。命令には従うのみだ」
「くっ!」
工作員を離すと力なく片膝をつくグレンモーゼ。俺も掛ける言葉が見当たらずにどうしたものかと思考していると、ユラがちょいちょいと袖を引っ張ってきた。
「アイツ、何か変です」
「アイツって……元国王か?」
ユラが指す人物は必死に存在感を消したがっている元国王。小声で聞き取れないが、さっきからボソボソと何かを呟いている。
妙に感じながらも視線を戻すと、ユラの表情が驚愕に染まった。
「ミスターヒサシ、アレは詠唱です。言語は……イグリーシアのものとは一致しない!?
「おい、そりゃどういう事だ? あの偽者は異世界人だってのか?」
「分かりません。それこの言語はどこかで拾った記憶が……」
「あっ、やはりメモリーに残されてました! 偽者が使用している言語は、銀河メンフィス共和国のものです!」
「メンフィス共和国だって!?」
つまり邪神やらカタロストフやらと同じ言語を使ってるって事だ。まさか奴らと繋がりがあるとは……。
これはますます問い詰めなきゃならないと思い至り、俺も元国王に詰め寄ろうとする。
が、その前にユラの警告が謁見の間に響き渡った!
「上空から巨大なエネルギー反応! 衝撃に備えて下さい!」
ユラが天井に向けて両腕を突き上げる。すると直後、凄まじい衝撃と目映い光が!
ドォォォォォォン!
何かが城に直撃したのだと分かった。ユラが保護フィールドを展開してなけりゃ木端微塵だっただろう。
保護フィールドの向こう側じゃ白煙舞い上がってる状態で、どうなってるのかは分からない。
やがて視界が晴れてきた事で、天井や壁が無くなっている状態に皆が驚愕する事に。
「い、いったい何が……」
「どどど、どうなってるんだよぉ? 俺の城がメチャメチャだぞぉ!?」
冷静に現状を把握しようとするグレンモーゼとは対称的に、ガーランドは頭を抱えて喚いている。
いや、それよりも上だ。上空から何かが降ってきた事には変わりない。そう思い頭上を見上げると、これまで何度も見かけた人型の機体が静かにこちらを見下ろしていた。
「ま~た邪神の色違いね。ったく何回相手にしたら気が済むのよ」
今回ばかりはメリーに同意だ。しかも今度はエメラルドカラーか? 色を変えたら何回出てきても良いってわけじゃねぇぞ。
「ほほぅ、これは驚きました。あの一撃を耐えうる者共が存在するとは。惑星イグリーシアも侮れませんね」
「で、誰なんだテメェは? 安全な場所から見下ろしてねぇでさっさと降りて来い、このチキン野郎が!」
「フン、生意気な小僧ですね。そこまで言うなら降りて差し上げましょう」
俺の挑発に乗ったわけじゃないんだろうが、向こうは静かに降下してくると、優雅なポーズで一礼し……
「お初にお目にかかります皆々様。ボクの名はアースラン。そこにいるアンドロイドより救難信号を受け、馳せ参じました」
「アンドロイド!?」
偽者の元国王はアンドロイだった。元国王はまるで役目を終えたかのようにその場に崩れ、やがて灰へと変化していく。
すると驚いた兵士たちが絶叫し、半壊した城から転げ落ちるように逃げて行った。
「そんな……父上が……」
「ん? そのアンドロイドの事ですか? 恐らくですが、オリジナルの方は既にお亡くなりになっているかと。我が祖国メンフィス共和国では死者を模したアンドロイド技術が盛んでしたのでね」
やっぱ本人は殺されてたか。悲痛な顔のグレンモーゼは天を仰いでいるが、一方でレボルたちは別の事話し合っていた。
「やはり元国王は偽者。そして背後には驚異的な組織がついている――となれば我が国の陛下も……」
「だろうな。どうするレボル?」
「もちろん本人と話すさ。お前たち、引き上げるぞ」
「「「了解」」」
捕らえた工作員を素早く拘束し、レボルたちは引き上げて行った。
それを勘違いしたアースランは、勝ち誇ったように言い放つ。
「さてさて、キミたちは逃げないのかい? ギャラリーが少なくなるのは悲しいけれど、逃げないのなら相手をしてもらいますよ?」
望むところだ。俺がそう言い返す前に、ガーランドが叫ぶ。
「そこのお前、今から俺に忠誠を誓え! 城を破壊する程の力、俺の下で大いに振るうんだ! 金なら幾らでも払ってやる。どうだ、ありがたいだろ?」
コイツ、アースランを従えようとしてるのか!? 当然相手は従うはずがなく……
「はて? キミに従ってありがたい事など微塵も感じませんがね。寝言は寝て言ってくれませんか――」
シュ――――ドシュ!
「グハッ!?」
「――永遠の眠りの中でね」
細いレーザーがガーランドを貫く。その一撃は一目で心臓を突いたのだと分かった。
「ふざけた冗談は嫌いなのでね。キミたちはどうです? いや、どのように死にたいのでしょうかねぇ? ククククク!」




