救出と反撃
サザンブリングの国王が偽者だと知らされた俺たち。旅行を切り上げ戻って来たはいいが、王都まで後少しというところで左右の山に挟まれた細道が封鎖されている場面に出会した。
今も先頭の冒険者グループが通せんぼしている兵士たちと揉めに揉めているところだ。
「おいふざけんな! 何で通してくれねぇんだよ!」
「さっきも言っただろう? 王都ブレンヒルドは危険な状態にあるのだ。通す訳にはいかぬ」
「それが納得できねぇってんだよ! 最近まで問題なく通れたじゃねぇか!」
「あたしたちは依頼で王都に行かなきゃならないの! このままじゃ強制的に依頼が失敗するじゃない! そうなったらどうやって責任とるつもり!?」
「フン、知らぬな。貴様らが失敗しようが我が国にとってはどうでもよい事だ。これを機に引退すればよかろう」
「くっ……の野郎ぉ……」
どうあっても通さないつもりか。だがおとなしく従うつもりはない。グレンモーゼ(フィルンの兄)が無事なのかも確かめたいし、ここは強行突破だ。
『で、無理やり通るんでしょ?』
『お、分かってるねぇ。そんじゃメリーさんや、1つ幻要で混乱させちゃってくれ』
『どうでもいいけど年寄り臭い喋り方は止めなさいよ――「幻要」』
不満タラタラな冒険者や商人たちにお得意のスキルを発動。すると自分たちに都合のいい幻覚を見た彼らは……
「おお、出口だ。ダンジョンの出口が見えたぞ~!」
「こんなところに盗賊? 叩きのめしてやるぅ!」
「やや! あの奥に宝の山が!」
「うほっ、良い肛門♪」
各々が見た幻覚により封鎖中の通路へと殺到する彼ら。ある者は兵士を押し退け、またある者は兵士へと襲いかかっていく。
「おい、やめろ貴様ら! 我々に逆らうとどうなるか――ふぐぇ!?」
「うおおおおお! ここは絶対に通さ――ぐおぉぉぉ!? だ、誰だ、俺のケツを触ってくる奴――ぬほぉ!」
現場は大混乱となり、すでに兵士の脇をすり抜けた奴まで出始めている。その隙に俺たちも突破し王都へと急ぐ。
「しかしアレだな。この様子だとグレンモーゼはピンチかもしれねぇ」
「どうしてよ?」
「封鎖してるのは情報統制の意味もあったはずだ。つまり王都の内部は……」
「血肉が飛び交う楽しい惨状だな~?」
「楽しくはねぇが、放っておけばレンの言う通りになるだろうな」
真面目なグレンモーゼの事だ。国王による突然の後継者発言は受け入れないだろう。
だが逆らえば反逆罪で処刑されかれない。兄の訃報をフィルンに知らせる展開だけは御免だぜ。
「さて、もうそろそろ王都が見えてくるはずだが――って、なんだありゃ?」
王都の手前に広がる平原のあちらこちらにテントが張り巡らされてるのが見えた。きっと大勢の庶民が入れてもらえない状態なんだろう。
「マイマスター、あちらを」
「ん? ――って、竜騎士!?」
ユラが指した上空を見上げると、竜に跨がった騎士団が王都の真上を旋回していた。
「それだけじゃあらしまへん。地上にも軍隊がわんさかおりますわぁ」
「おいおい、マジかよ……」
ウルに言われて視線を落とせば、王都への侵入を拒むように大勢の兵士が門を固めてやがる。
「さすがに殺すわけにはいかないしな。ここはネージュのイレグイで――」
「何言ってんのよ。ネージュはアイリーンに置いてきたでしょ」
「クッソ、肝心な時にいねぇ!」
「アハッ♪ だったら多少の犠牲は仕方ないよな~。たまには生き血を吸わせろよ~!」
「そうよね~♪ 何人か発狂死しても仕方ないわよね~♪」
あの様子だと中に入ってからも穏便には済まされそうにないか。こっちが捕まっちゃ本末転倒だし。むぐぐぐ……
「だぁぁぁしょうがねぇ! こうなりゃ犠牲もやむ無しだ!」
「キャッ! ヒサシってばだいた~ん♪ それでこそ私のパートナーよ!」
「但し、必要最低限にしろよ? 後味悪いのは勘弁な」
「「「は~い(了解どす)♪」」」
まずは門に向かって突撃を開始。俺たちに気付いた兵士たちが身構え、防壁の上でも弓をこちらに向けてきた。
「止まれ~! 今は非常時により王都への入場は許可されていない!」
警告を無視し、全員で軽々と防壁を飛び越えていく。そのついでに弓兵を薙ぎ倒すのも忘れない。
「あらよっと♪」
「ぐわぁ!」
「て、敵だ、敵襲~~~!」
当然のように敵認定されるが構いやしない。
「メリー、頼む!」
「おっけ――幻要!」
殺到してくる兵士を惑わした事で同士打ちが勃発。これで背後からは追われる事はほぼなくなり、前方に立ち塞がる兵たちをレンとウルが蹴散らしながら前に進む。時おり舞い降りてくる竜騎士はユラが迎撃し、中央通路を辿って城へと向かった。
「しまったな。この様子だとすでに内乱は終結してるっぽい」
「あらら。グレンモーゼは御愁傷様ね」
「いや、勝手に殺すなよ。すぐには処刑されないだろ。多分……」
とはいえあまり時間は無さそうだ。このまま強引に城へ突入しよう。
「おお、城の前でも誰か戦ってるぞ~」
「え? まだ抵抗してる勢力が? もしかしてグレンモーゼの――」
「――かどうかは知りまへんけどな。例のオッサン連中どす」
「オッサン……」
ウルの言うオッサンと、俺の中で親しみのあるオッサンがリンクした。
結論から言う。ロームステルのオッサンだった。
「おおおおお、我らは由緒正しきロッカの騎士団! 国王に謁見願うぅぅぅ!」
「国王は今忙しい! 貴様らのような騎士団とは面会せん! おとなしくしなければ貴様らも反逆者と見なすぞ!?」
「黙れぇい! 民に顔を見せぬ国王など信用できるかぁ!」
「貴様ぁ、国王を侮辱――ふげっ!?」
城門前で揉み合っていた兵士を踏み台にし、華麗に中へと舞い降りる。振り向けば格子越しにオッサンと目が合った。
「お、お主ら!」
「国王が偽者か確かめに行くんだろ? 俺たちが確かめてやるぜ」
「うむ、宜しく頼――ではない! 真実は我々が
暴くのだ! 突撃ぃぃぃ!」
「「「おおおっ!」」」
俺たちの登場により隙ができたところでオッサン連中(←なぜか100人くらいに増えているんだが、どういうこと?)も強行突破を開始。これならオッサンは大丈夫だろうと考え、後ろを振り向かずに城内ヘと突入した。
「謀反だ! 騎士団が冒険者と共に謀反を起こしたぞ! ガーランド様をお護りしろ~!」
「「「おおおっ!」」」
ガーランドか。つまりグレンモーゼはすでに敗北してるって事だな。
「上はオッサン連中に任せて俺たちは地下に向かうぞ」
「地下ぁ? 王族が居るのって普通は上じゃないの?」
「グレンモーゼを救出するんだよ。これから国王の化けの皮を剥ぐんだから、正式な証人が必要だろ」
「そんなもの、周囲が喚くなら力ずくで黙らせれば良いだけじゃない。なんなら呪い殺してやってもいいけど?」
「国王殺してまともな生活が送れるか!」
つっても偽者と対峙したら殺らなきゃならないかもだが。そん時はそん時だ。
「な、なんだ貴様らは!? この先は罪人を隔離している――ぶげぇ!」
「地下牢だろ? 知ってるっての」
地下降りて看守をノックアウトし、格子越しに捕らわれた連中を確認していく。
「お~い、上で暴動を起こしてるのはアンタらだろ? ここから出してくれよ~」
「いいや、出すなら俺が先だね。腕っぷしなら自信があらぁ!」
「俺だって強いぞ。攻撃魔法なら得意だし力になろう。杖が有ればだが……」
「だったらあたしを出してよ。盗むのは得意だし、罠の解除や工作もお手の物さ。もちろん夜のお相手も♪」
違う、コイツらじゃない。もっと奥か。
「中々見つからないわね。どこかに逃げてるんじゃないの~?」
「いや、それはない。グレンモーゼは元々王都にいたんだ。城を捨てて逃げたりはしないだろう」
だが言葉とは裏腹に本人は見つからない。まさかここじゃないのか? いや、アイリの眷族は最後まで抵抗を続けてたという話をしていたらしい。だったらまだどこかに……
「ここが一番奥ね」
「でもって鉄格子とは違い、頑丈そうな鉄の扉か」
ここだけ他とは違い、奥が見通せない。他の囚人にすら見せたくはないという強い意思を感じる。いるとすれば……
「ここしかねぇ!」
バゴン!
「む? お、お前たちは!」
「よっしゃ、ビンゴだ!」
おもいっきり蹴破る(←カッコつけてやってみた。足がジンジンするから軽く後悔している)と、中には驚いた顔を見せるグレンモーゼが。外傷は見当たらず、比較的無事そうなのが幸いだ。
「助けに来たのか?」
「ええ。兄の訃報をフィルンに伝えるわけには行きませんので」
「フッ、そうか。これで兄妹共々お前たちに助けられたな」
「いえ、まだこれからですよ。今から偽者の国王を問い詰めに行きますので」
「我が父が偽者……」
偽者の話をすると一瞬眉を潜めるが、何か思い当たるところがあるようで何かを察した顔になり……
「お前たち、詳しい事情を知っているのだな?」
「はい。信頼できる人物からの情報ですので」
同郷のよしみで助けてくれたしな。嘘は言ってないはずだ。
「行きましょう」
「うむ」
後から来た看守を蹴散らしつつ地上へと逆戻りする。てっきり城内の兵士が斬りかかってくると思ったがそんな雰囲気はなく、ほぼ全ての兵士が外の様子を気にしていた。ロームステルのオッサンが上手く引き付けてくれてるんだろう。
「辺りが妙に騒がしいようだが、これもお前たちの仕業か?」
「いえ。無駄に正義感の強い騎士団が暴れているんですよ。ほんっとにもう、しつこいのなんのって」
「正義感……か。兄ガーランドにもそのような感情が芽生えていれば剣を交える事もなかったのだがな」
そういやガーランドっていうろくでもない奴が王位を継承したんだっけか。つまり国王の兄に対してこっちは反逆者側だ。
はっ、上等。こちとらどえらい憑き物持ってんだ。メリーたちの糧になってもらうぜ!
「ヒサシはん、扉が開いてますぇ」
「な~んか兵士も近くで倒れてんぞ~」
「え?」
ロームステルのオッサンはまだ外にいるはずだ。ならいったい誰が……。
「まぁいい。見たら分かる事だ」
そう思い謁見の間に踏み込んだ。すると予想外の奴らが国王とそれを護る近衛隊のような連中と対峙していた。
「お、お前はレボル!?」
「ようやく来たか。お前たちも偽者を探しに来たのだろう? 奥で怯えてる老人がそれだ」
「奥…………あいつか」
玉座でふんぞり返っているデブ男とは別に、護衛によりギッチギチに護られている元国王らしき老人が奥で震えていた。あれが偽者? 覇気が全く無い上にいまにもショック死しそうな感じにも見え、とても偽者とは思えない。
いや、それよりもレボルたちだ。なぜコイツらがここに? しかも俺たちに背中を向けてるし、全く敵意を感じない。
そんな疑問がグルグルと脳裏を駆け巡る中、嫌みったらしい顔でニヤつきながら玉座のデブが口を開いた。
「まったくやれやれだなぁ。いつまでも騒がしい輩が消えぬと思えばグレンモーゼ、貴様の差し金だったとはなぁ?」
「何の話だ?」
「今さらとぼけるなよ。一度は敗北したと見せかけて今回の騒動だ。現に貴様はここに現れたではないか。これらが偶然起こるとでも言うつもりか?」
ところがどっこい、今日俺が来たのはまったくの偶然だ。
「まぁそれはどうでもいい」
いいのかよ!
「俺に逆らったらどうなるか、その身で味わってみるがいい。出てこい、俺に忠実な尖兵たちよ!」
ザザッ!
「え? コイツらは……」
「任務を解任された俺の後釜だ」
苦虫を噛み潰したような顔でレボルが言う。
デブの背後から現れた黒ずくめは、レボルと同じ工作員だ。
こちらの動揺した様子を見たデブが、鼻穴を広げて奴らに命じた。
「やってしまえお前たち! このガーランド様に楯突く奴らは皆殺しだぁぁぁ!」




