豹変
「ほぉ、これが例のオートマタか」
眼光が鋭く髭の濃い男がこちらを見下ろしてくる。この男は誰だ? それにオートマタとはいったい……
「左様で。こやつらならば体のストックが尽きぬ限り命令を遂行いたします。更に胴体心臓部に埋め込んだ継承保持装置により前任者の記憶を共有。まさに不死身の戦士と言えるでしょうなぁ。キッヒッヒッヒッ!」
隣に佇む白衣の老人が不気味に笑う。会話から不死身の戦士は俺の事を指すのだろうと察しはついた。
不死身の戦士か……。いや、そもそも俺は何者だ? なぜ知らない場所で横たわっている? ダメだ、分からない事が多すぎる。
「む、他も目覚めたようだな。どれもこれも良い面構えをしている」
「左様ですなぁ。こやつらが裏社会に名を連ねる――フヒヒヒヒヒ! そう考えると胸が熱くなりますぞ!」
左右に顔を動かせば似たような顔の男が横たわっており、ソイツらもキョロキョロと周りを見渡している。俺と同じ境遇なのだろう。
しかし裏社会に名を連ねるとは物騒な。いったい俺たちに何をさせる気だ?
「ところでだ。これから諜報活動をメインに動いてもらう事になるが、こやつらの腕は確かなのだろうな? いざ戦闘で使えぬとなれば早々にお役御免だぞ?」
「その点はご安心を。闇ギルドの構成員だった男の遺体を確保し、肉体の一部を組み込む事に成功。これにより戦闘経験を持った状態で生まれたも同然であり、今すぐにでも戦う事ができましょう」
俺が……戦える? そういえば無意識にこの二人を注意深く観察しているが、それも戦闘経験とやらに関連しているのか。
「…………」スッ!
「………!」
そう考えていた次の瞬間、眼光の鋭い男が懐から短剣を抜き出すところに目が行った。そして凄まじいまでの頭痛のような警告が俺の全身を駆け巡り――
キィィィン!
気付けば腰に差していたダガーを取り、男が握っていた短剣を遠くへ弾いていた。すると俺と同じ境遇の男たちもが一斉に起き上がり、同じくダガーを構えている。
一連の流れを見た男は愉快そうな笑みを見せ、拍手と共に満足げに頷いた。
パンパンパン!
「素晴らしい。実に素晴らしい。この流れるのうな身のこなし、常人には真似できまい!」
「左様で。我輩も技術者として誇らしいですわぃ。ウッヒヒヒヒヒヒ!」
どうやら試されたらしい。多少はムッときたが、子供のようにはしゃぐ二人を見ると苛立つのがバカらしく感じた。
「ククッ、試して悪かったな。これも諸君らの実力を見極めるためだ。まぁ許せ。その代わりと言ってはなんだが、諸君らには我がオルロージュ帝国の裏の顔となってもらいたい」
「裏の……顔?」
「そうとも。現在我が帝国は隣国のクロック王国から執拗な侵略を受けている。かの国から迫る魔の手を払いのけ、オルロージュ帝国に平和をもたらすのが諸君らの勤めだ」
他の国と争っているのか。それで戦闘能力の高い者を欲していたと。
「突然の宣言で戸惑う者もいるだろうが、これが諸君らの造られた理由である。こらからは我が帝国に絶対の忠誠を誓い、命ある限り協力してもらいたい」
「なぁに、心配は無用ですわぃ。お主らオートマタのストックボディは無数にある。ストックが尽きぬ限り不滅という事ですなぁ。分かるかな? 分っかんねぇだろうの~♪」
さきほども聞いたが、どうやら俺はオートマタという人造兵器のようだ。つまりは戦うために造られた存在。短剣を向けられた時の無意識の動作はそれを裏付けている。
それにダガーを構えた時の高揚感。まるで心から楽しんでいるかのようでもあった。
そんな俺が帝国という大きな枠の中で裏の顔として存在するのだ。つまらないはずはない。
「リーダーはお前だ。そしてお前にはレボルという名を与える」
「レボル?」
「そうだ。この名には革命という意味が込められている。諸君らの働きで革命的進化を遂げたいと思っているのだ。期待しているぞ、レボル」
俺は頭を垂れ忠誠を誓った。名無しのオートマタにとって、名付けの親は絶対的存在。この先何が起ころうとも決して裏切らないと心に決めた。
「ターゲットが動いた。行き先は王都ブレンヒルドだと思われる。どうするレボル、道中で襲撃を掛けるか?」
「…………」
「……レボル?」
仲間に怪訝な顔を向けられてハッとなると、サザンブリングに舞い戻った連中の背中が港街から遠ざかって行くところだった。
「……すまん。少し考え事をしていた」
「どうしたリーダー、らしくないな? そんなんじゃ奴らへの復讐は達成できないぞ?」
「…………」
「おい、レボル」
「落ち着け。感傷に浸ってただけだ」
懐かしい光景であり主でもある皇帝陛下。クロック王国の驚異から帝国を護るのが我らの存在意義であった。しかし……
「お前たちはどう思う? あの陛下の変わりよう、俺はいまだに信じられん……」
「突然どうした? どう変わろうと陛下は陛下だろう」
「その通り。陛下の命令は絶対だ。例え性格が豹変したとしてもな」
ターゲットを尾行しつつ部下たちに陛下の話題を振ってみたが、コイツらも変化には気付いていたらしい。
「レボルよ、本当にどうしたんだ? 陛下の言動が変わったのは1ヶ月以上も前の事だ。今さら気にしたところで意味はないぞ」
「だが魔女の森のダンジョン。あそこに残された我々の残骸は、気になる会話を記録していた。お前たちの中にも残っているだろう? サザンブリングの国王が偽者だという会話が」
「そりゃ残ってはいるが……まさかレボル、我らの陛下が偽者だと言うつもりか?」
「断言はできん。だが可能性はあると思っている」
陛下の豹変。それはクロック王国に振りかかった前代未聞の大災害が発生した直後だ。
最初こそ「クロック王国が滅ぶほどの災害か。次は我が身と気を引き締めねば」と仰っていたが、それがいつの間にか「目障りなクロック王国は滅んだ。他の大陸に侵出しやすくなった事だし、次はサザンブリング王国を狙うとしよう」という内容に変わっていたのだ。
「ちょっかいを掛けてくるクロック王国に対して愚痴を溢してはいたものの、それが滅んでほくそ笑む御方ではなかった。疑いたくはないが、確かめる必要はあるだろう」
「確かめる――か。だが仮に偽者だったとして、我々はどうすればいい? 曲者として抹殺するのか? そんな事をすれば我々が追われる立場になるだけだ。その行いに何の意味があるというんだ?」
「それは……」
仮に偽者であったならば、本人を生かしておく必要はなくなる。その場合はとっくに殺されてると見ていいだろう。つまり……
「意味は……無い」
「そうだ。意味なんぞない。なら――」
「しかしだ」
「――ん?」
「奴らなら…………幾度となく返り討ちにしてくるアイツらなら、このまま放っては置かないのではないか?」
「……何が言いたい?」
初めて奴らに負かされてからというもの、何度もリベンジは試みた。時には周囲の者や魔物を利用したりもしてな。それでも勝てない奴らには正直脱帽だ。
「もしもこのまま見て見ぬフリを続ければ、奴らが嘲笑うのではと思ったのだ。帝国に忠誠を誓い、執着する割にはその程度の意思なのか――とな」
「つまり、プライドが許さないと?」
「プライドなんてものはない。ただ、主ではない偽者に頭を垂れるのは、些か許しがたいと思ったまでだ」
ここまで自分で言い放ち、結局はプライドではないかと後になって気付くのだが、この時の俺はまだ知らない。
「襲撃は一旦見送る。このまま連中を尾行し、王都に入った直後に城へ侵入の後、サザンブリングの国王を調べる事にする」
「「「了解」」」




