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ネージュの修行

「え……この幼女エルフがネージュの母親?」


 何となく似てるっちゃ似てるか? 特に金髪と体型が。


「……そこの人間。初対面のレディを幼女扱いとは失礼な雄め。これでも由緒正しき勇者アレクシスの子孫。もっと敬意を払え」

「あ、ああ、なんかすまん。というか何とお呼びすれば?」

「……偉大なる勇者アレクシスの子孫にして聖母エレムの孫娘である今を輝くキュートなエルフのムーシェと呼ぶがいい」


 くそなげぇ!


「面倒だからキュートなエルフでいいよな?」

「……なぜそこを切り抜く? 私にはムーシェという立派な名前がある」

「じゃあムーシェでいいな」

「……いや、だから偉大なる勇者アレクシスの子孫にして聖母エレムの孫娘である今を輝くキュートなエルフのムーシェ」


 ふむ、よく噛まないで言えるな? 何度か繰り返したら噛みそうな気がしてきたし、ちょっと実験してみよう。


「覚えきれなかった。もう一回言ってくれ」

「……偉大なる勇者アレクシスの子孫にして聖母エレムの孫娘である今を輝くキュートなエルフのムーシェ」

「もう一回頼む」

「……い、偉大なる勇者アレクシスの子孫にして聖母エレムの孫娘である今を輝くキュートなエルフのムーシェ」

「もう一声!」

「……むぅ、だから! 偉大なる勇者アレクシスのししょん――」

「プッ、噛んでやんの!」

「……お前、ムカつく。そもそも噛んだのはお前が何度もリクエストしたせい。後でちょっと面貸せ」

「嫌だよ面倒臭い」

「……だったらこの場で――」

「いいから話を進めなさい!」



 ゴツゴツン!



「……痛い。アイリ、暴力反対」

「俺まで殴ることなくない?」

「アンタもふざけてたでしょ!」


 すんません。おもいっきりふざけてました。


「とにかく、ネージュには修行してもらうために残ってもらうわ。だいたい修行の旅って名目で旅立ったそうじゃない? それが修行もせずにフラフラと遊び歩いていたんだから、ムーシェはおかんむりよ?」

「え、え~と……」


 アイリに人差し指を突き付けられて目を泳がせるネージュ。そういやネージュの詳しい目的は聞いてなかったな。まさか勇者の子孫で修行の旅だとは思わなかったが。


「ったく、親子揃ってサボり癖が強いんだから。真面目に修行してれば今ごろはムーシェと同じくらい強くなってたはずよ?」

「で、でもですね、旅の途中で素敵なスキルを身につけたんですよ? エイッ!」


 手にした釣竿を振るってイレグイスキルを発動させた。


「何よこのスキル……」

「付近の魔物を寄せ付けるんです」

「……何か意味が?」

「まぁこんなところで使っても意味はないだろうな」

「でも食いついてますよ?」

「「「え?」」」


 よく見るとアイリの眷族たちが釣糸に群がっていた。


「ええぃ離せ、この餌は妾のもんじゃ!」

「違うど~、早い者勝ちだど~!」

「ここは公平に分けるのが筋」

「あんな一口サイズを分けるだけあるかいな!」


 アイリの眷族たちが野生化している。まぁ意味がない事に変わりはないが。


「こら~、みっともない真似はやめなさ~い!」

「ミットもない――ってアイリはん。ワイらはキャッチャーちゃうでぇ」

「分かりにくいボケかますな!」ゲシッ!

「ふげっ!?」


 哀れホークさん、アイリの飛び蹴りで沈む。


「――ったくもぅ……。どっちにしろこんなスキルだけじゃ戦闘じゃ役に立たないでしょ。この先もカタロストフとやりあうなら強くなる必要があるわ。それとも無抵抗に殺られるつもり?」

「そ、それは……」

「とにかくね、ヒサシたちが武術大会に出てる間、ネージュにはムーシェに付きっきりで修行してもらうわ。いいわね?」

「はい……」




 こうして俺たちは一時的にネージュと別れ、プラーガ帝国へと向かうことに。まぁ向かうと言ってもホークさんの背中に乗っけてもらったからすげぇ楽チンだったけどな。

 でもって無事に入国すると、魔女の森から一番近い街で武術大会の参加申し込みを行った。

 地方の街で予選を勝ち抜いた者が本選へと進むことができるらしいから、まずはかる~くウォーミングアップ程度で挑んでみた。

 言うまでもない事だが、強者ぞろいの俺たちは当然……




「全員揃って予選敗退ってどういう事だよぉぉぉぉぉぉ!」

「ボクに言ったって分かるわけないだろ~~~~~~!」

「骨折り損とはこの事……ですね」

「時間の無駄やったなぁ」

「ホントだよ! 何の得にもならない10日間だったぜ!」

「うるさいわねアンタら……」


 マジ泣きしてアイリーンに戻ると、呆れ顔のアイリに出迎えられた。


「まぁアンタらも頑張った方でしょ。はい、解散解散」

「待てぃ!」


 (きびす)を返して立ち去ろうとするアイリの肩をガシッと掴む。


「そもそもだな。敗退した理由は俺たちの殆どがアイリの眷族とブチ当たったせいなんだぞ? どういう事だよこれ!」

「そうだそうだ~! ボクなんか人化したファイアドレイクだったぞ~! もう少しで溶かされてインゴットにされるとこだったんだかんな~!」

「ユラの相手はバハムート……でした。馬鹿力で折り畳まれたせいで、全身が悲鳴を上げて……ます」

「ウチのお相手は狼型でウチよりも上位のSランクの殿方どす。あんなん勝てませんわ」

「極めつけは俺だ! 見た感じごく普通の一般人の姉ちゃんに見えたのに、いざ戦ってみたら強ぇのなんの。最後まで何もできずに終わっちまったぜ。それに聞くところによると、俺の相手はアイリの姉ちゃんでSSSクラスだって言うじゃねぇか。そんなん勝てるわけねぇだろうがぁぁぁぁぁぁ!」


 泣きながらアイリをガクガク揺すってると、さすがに哀れに思ったのか少し考える素振りを見せ、やがて顔を上げると……




「ドンマイ♪」

「ちくしょ~~~~~~!」


 もうね、夕日が見えてたら迷わずダッシュしてたね。最低でも本選に進めると思ってた俺が恥ずかしい!


「まぁ運が悪かったって事でしょ。予選で優勝候補がぶつかるなんて珍しくないもの。それよりアンタの大事なメリーはどこよ?」

「先に寝るって言って借りてる部屋に籠った」

「あらら……」


 昼間っから不貞寝してるメリーだが、何故そうなったかというと相手が転生者の青年だったからだ。

 俺としてもまさかメリーがって思う部分もあるが、それ以上に……




「転生者多すぎぃ!」


 もう叫ばずにはいられねぇ。どうしてくれんだ、この鬱憤!


「アンタも転生者でしょうが……。それよりちょうど良かったわ。ネージュがどれだけ強くなったかテストしようと思ってたのよ」

「母親のムーシェに鍛えられてんだっけ?」

「ええ。でもそれだけじゃないわ。無重力状態や過重力状態での特別メニューを課したり、水圧や気圧を加えたりもしたわね。後は大会に参加してない眷族にも手伝わせたりして、かなり内容の濃い訓練になったはずよ」


 聞いてるだけでも気が遠くなりそう。ネージュは大丈夫なんだろうか?


「まぁ見てもらった方が早いわね。ついてきて」


 そういって案内された先は、エルフ親子が修行中の訓練部屋。薄暗い部屋の中では、氷の上で座禅を組んでいるネージュとムーシェが。


「お~いネージュ今戻ったぞ~。元気でやってたか~?」

「…………」


 集中してて聴こえないのか?


「お~い、ネージュ――」

「かーーーーーーつ!」

「うひぃ!?」


 ネージュが奇声を上げて立ち上がったぞ!?


「飛んで火に入る夏の虫ぃ、心頭滅却すれば火もまた涼しぃぃぃ!」

「ちょ、ネージュ!?」



 ボスッ!



「ふぎゃっ!」


 ネージュに襲いかかられ、反射的に裏拳を放っちまった。つ~か……



「一撃で倒れちまったが?」

「う~ん、まだまだ修行不足ね」

「いや、多分身になってないと思う」


 果たして、ネージュが強くなる日は来るのだろうか……。


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