ダンジョン攻略!?
「おい、待ちやがれテメェら!」
「獲物の分際で生意気に二足歩行してんじゃないわよ!」
ボス部屋を出て例の二人を追いかける俺たち。ステータスはそれなりに高いはずだが、なかなか奴らに追い付かない。
ちなみに二足歩行は許してやれと思った。
「ここはわたくしに任せてください。――えぃ!」
ブン!
ネージュが釣竿を取り出すと前方に向けて放った。
「わたくしのイレグイスキルで彼らを足止めできれば――」
「ガゥガゥ?」
「ギャギャ」
「ブモブモ!」
「ひぃっ!?」
寄ってきたのはダンジョンの魔物だけで、例の二人は涼しい顔で走り続けている。
その一方で魔物によって揉みくちゃにされる、ちょっとエッチな姿のネージュが。
「ひぃぃぃ、身体中を舐め回してきます~! 助けてくださ~い!」
「何だか別の意味で襲われてるな……。ウル、ネージュを頼む」
「了解どす」
襲われてるネージュとフォロー役のウルを残し、俺たちは追跡を続行した。そこへアイリからの声が響いてくる。
『魔物の認識を切り替えたのよ。食われるよりマシだと思ってね。というか私のダンジョンで自滅しないでちょうだい』
「すまん、後で叱っとく」
気を取り直して逃走中のブルーノとグリンを追うが、なかなか差が縮まらない。
「しかしどうなってんだアイツらのステータスは? こっちだってそれなりに高いステータスだってのに」
「前方の二名は脚力を極限まで強化されている模様。交戦を避ける傾向から戦闘要員としては脆弱であると予想されるため、何らかの工作目的で造られた可能性が高いと思われます」
「工作って、俺たちが目的じゃないのか?」
「ユラたちが目的ならば、すでに何らかの策を実行しているでしょう。そうでないのなら、ダンジョンを巻き込もうと画策しているとしか思えません。可能性を語るのならば、ダンジョンの乗っ取り……」
「乗っ取り!?」
だがあり得なくはない。現状カタロストフがどこにいるのか不明だし、地上のみならず宇宙にまで進出しているアイリーンは居城としては最適と言えるのかもな。
『乗っ取りとか物騒な話は止めてよね』
『コイツ、直接脳内に!』
『普通の念話よバカ』
一応弁明するが、念話は普通ではない。
『つ~か何で念話を?』
『あの二人に聞かれたくないもの』
『って事は、何か良い方法があるんだな?』
『ええ。今から――』
「ヒサシ、前!」
「前? ってT字路かよ!」
しばらく続いた直接の先にT字路が現れ、それを見たブルーノとグリンが互いに頷き合って左右に分かれて行った。
「クッソ! こうなりゃ二手に分かれて――」
『その必要はないわ。全員で右に進んでちょうだい』
冷静なアイリからの進言が念話で伝えられる。
『けど左側はどうすんだ?』
『そっちは放置で大丈夫。それよりもここからは私の指示に従ってちょうだい。上手く誘導してあげるから』
そうか、ダンマスのアイリならダンジョンを知り尽くしてるもんな。
「右だ、全員で右に進むぞ!」
「そう言うからには何か考えがあるんでしょうね?」
「ああ!」
その考えとやらはアイリにしか分からないけどな。
スッ!
野郎、今度は左に曲がったか。
ブルーノに続いて左折しようとしたが、ここでアイリから意外な指示が飛ぶ。
『待って、そのまま直進して』
『な、何でだ?』
『直進した先に転移トラップを設置したから、そこを踏みなさい。先回りさせてあげる』
『そりゃ助かる!』
「みんな、俺を信じてこのまま直進しろ!」
シュン!
直進して数秒後。急に視界が暗転し、気付けばボス部屋の前に転移していた。
『3階層のボス部屋の前よ。先に進むにはここを通るしかないの。だから連中は必ず来るわ』
『サンキュー。助かったぜ』
『お互い様よ。ダンジョンの防衛に協力してくれてるんだもの、これくらいはね。それに5階層には街があるし、得体の知れない輩を入れる訳にはいかないのよ』
まぁ当然の理由だな。
『それよりもうすぐここに来るから撃退よろしくね』
タッタッタッタッ……
「さっそくお出ましか」
暗闇の先から走って来たのはブルーノ。俺たちを見て驚いた様子を見せるも、速度を緩めることなく突っ込んで来る。
「フン、ここから先は通さないわよ。おとなしく私の玩具になりなさい!」
「それは了承できないな。――トゥ!」
メリーの振るう草刈り鎌をヒラリと回避し、真後ろへと回り込む。だがそこにはレンが待ち構えており……
ズバッ!
「ぐあっ!?」
「アハッ♪ 片腕も~らい! 次は胴体を両断するぞ~!」
普通ならこの時点で戦意を喪失するところだ。にも拘わらずブルーノの野郎はボス部屋の扉へと突進していく。
「こんな……ところでぇ!」
「無駄です――ブラストバーナー!」
ドゴォォォォォォ!
ユラのスキルがブルーノに直撃し、僅かに開かれた扉を強引に押し広げた。凄まじい威力だがダンジョン製の扉は破壊できないらしく、焦げた跡は微塵もない。マジでパネェなダンジョン製。
いや、そんな事より!
「ブルーノはどうなった!?」
「申し訳……ありません。炭にしてしまい……ました」
「おぅふ……」
二度目の憑依先だったために、目の前で死なれるのはなかなか来るものがあるな。同一人物とは異なるってとこだけは救いか。
「もぅ、何やってんのよユラ。これじゃ拷問できないじゃない」
「そうだぞ~。せっかく人造だって聞いたから、少しずつ血を抜き取ってどれくらい生きてられるか実験したかったのにさ~」
「重ねて申し訳……ありません」
いや、あんま申し訳なくはいな。寧ろ可哀想になる案件だ。
「しかしこうなるとアレだな。何を企んでたのか不安になるし、もう一人は確実に生け捕りにしたいところだ」
「そうよね。もう一人いるんだから、まだ諦めちゃダメよね。よ~し、今度こそ拷問してやる――」
ギギギギィィィ……
「ん? 4階層への扉が開いたぞ?」
不意に背後から軋み音が聴こえたと思ったら、扉が開いてやんの。
すると直後、アイリからの怒鳴り声が脳裏に響く。
『コラコラ~、何やってんのよヒサシ! もう一人が先に進んじゃったじゃない!』
『……へ?』
意味が分からなかった。もう一人の青年グリンはまだ来ていないはずだ。
『どうして目の前に来てたのに無視したのよ!?』
『目の前だって!?』
それはおかしい。このボス部屋にはブルーノと俺たち以外は入っていないはずだ。なので正直に見ていない事を伝えた。
『マジで誰も見てないぞ? あ、もしかして4階層への扉が開いたのって……』
『お察しの通り、もう一人のグリンって奴が開けたのよ。けど参ったわね。ヒサシたちが認識出来なかったのは、配置した魔物が認識しなかった点と類似している』
『まさか、奴らの特殊能力か?』
『分からない。でも探ってる時間はないし、別の作戦を練るしかないわね』
本来なら4階層のボス部屋前で待ち伏せるのが得策。だがもう一度転移トラップで先回しても認識できなきゃ意味がないって事になり、程なくして俺たち全員は5階層の街の中へと回収された。
街中と言っても入口のすぐ側で、アイリの眷族たちも勢揃いのようだ。
いや、一部訂正。ホークさんだけは来てないな。多分酔い潰れてるからだろうけど。
「住民や来客は屋内に避難させたわ。居住区はここから離れてるから、多少は暴れても大丈夫よ」
「望むところよ。私からは逃れられないって事を思い知らせてやるんだから」
すでにメリーは暴れる気でいるらしい。アイリの強そうな眷属も居るし、万が一にも負ける事はないだろう。
「それにしても奴らの狙いが分からない。最初は俺たちだけが標的かと思っていたが」
「それなんだけどね。もしかしたら前々からアイリーンを落とそうと画策していて、ヒサシたちを狙っていると見せかけたんじゃないかと思ってるわ。現にムーザの事も知ってたみたいだし、ホント油断できない相手よ」
そういやカタロストフの目的って何なんだろうな? 切っ掛けはピラミッドで遭遇した邪神だったはずだが、そこから一方的に絡まれてるんだよなぁ。
まぁ一方的ってのはレボルやロームステルのオッサンにも共通するんだが。
「アイリ様、来ますぞ」
「そのようね」
老執事とアイリの短いやり取りから約10秒、街から4階層に繋がる扉が勢いよく開いた。
そしてやって来たのは青年グリン――
――ではなく、高さ7、8メートルはある赤塗の人型兵器だった!
『これはこれは皆々様、盛大な出迎えに感謝致します』
「確かグリンって名前だっけ? 別にアンタを歓迎しちゃいないけれど?」
『それは失礼。ガルツギアを纏う猶予を与えていただけたので、てっきり歓迎されてるものと思ってました』
ダンジョンを爆走中になんらかの条件を満たしたらしい。危うく他の二人も同じようになるところだったのか? だとしたら面倒臭いことこの上ない。
「じゃあ歓迎するついでに拘束してあげる。ここは私のダンジョンでアンタは侵入者。アンタをどうするのかは私に決定権があるしね」
『それはお断り致します』
「まさか断れる立場にあるとでも?」
『はい。何せカタロストフ様の命令がボクにとっての最優先ですからね!』
シュバ!
『このダンジョンはカタロストフ様が支配致します。さぁ、盛大なパーティーを行いましょう!』
飛び上がったグリンが叫び、背中に搭載されたミサイルポッドから大量のミサイルを発射した!




