追跡と回答
ムーザを包み込む真っ黒なオーラが伝説の魔女である事を最大限にアピールしている。足に力を込めなきゃ波動で押し飛ばされるんじゃないかってくらいにな。
だが対するレッドクロウたちが動じる様子はなく、まるで微風に当たっているかのようだ。
「変わったねぇムーザ。昔のキミはここまで過激じゃなかったけどなぁ」
「昔はどうとか覚えてないわ。私は造られた存在だから」
「造られたからと言って卑下するものじゃないよ。なぜなら俺たちも造られた存在だから。それにね、カタロストフは素晴らしい能力を有している。彼女が居れば銀河の支配は思うがままさ。だからおいでよ、きっとムーザも気に入ると思うよ」
満面の笑みで手を差し出すレッドクロウ。それとは対称的に冷めた視線を向けるムーザが決別を宣言する。
「お断りよ。カタロストフも、奴に造られた貴方たちもね」
「正気なのかいムーザ? 俺たちの手で銀河メンフィス共和国が復活させる事が出来るんだぞ? それを――」
「偽りの共和国なんか必要ないわ。ついでに言うと、貴方も偽者よレッドクロウ。外面はそっくりだけど、中身までは上手く偽装できなかったみたいね」
「何を言ってるんだい? 俺は本物の――」
スッ……
「――え?」
ムーザが徐に手のひらをレッドへ向ける。
「それ以上……本物のフリをしないでちょうだい……」
ムーザの声はやや震えていた。まるで追い詰められている側なんじゃと思えるくらいに。
そして視線をレッドクロウに固定したまま、俺たちに指示を飛ばす。
「私はコイツに用があるの。アナタたちは他二人を相手してちょうだい」
「はぁ? なんでアンタの言いなりに――」
ゴォッ!
「「「!?」」」
メリーが反論しようとしたところでムーザのオーラが更に増大した。
「今は黙って従ってちょうだい。これ以上苛立つと、お前たちまで巻き込んでしまう」
「あ、ああ、分かった」
俺が了承の意を伝えるとオーラがやや収まった気がした。いや、気がしただけかもしれないが、口調が荒くなっていくムーザに恐怖を覚えたってのが正しい。
「ブルーノとグリン、貴方たちもここから出て行ってちょうだい。相手は彼らがしてくれるから」
「分かりました。レッドクロウ先輩との積もる話もあるでしょうし、我々は席を外すとしましょう」
「では失礼」
ブルーノとグリンが俺たちを飛び越え、ボス部屋から去っていく。やや間を置いてハッとなったネージュが……
「あ、あの……突破されちゃいましたけど、追いかけなくていいんですか?」
「ヤベッ、奴らを捕まえるぞ!」
「待ちなさい獲物~~~!」
俺たちは慌てて追跡を開始した。
★★★★★
行ったか。ちょっと強い口調で脅したみたいになったけれどプライベートの問題も含んでるし仕方ないわよね。多分大丈夫でしょうけれど、あまりにも怯えたままならフォローしときましょうか。
それよりも今は……
「さぁ、邪魔者は居なくなったわ。言いたい事があるなら言いなさいな」
「そうだねぇ……まぁ色々とあるけれど、それは向こうに戻ったらにしようか」
「それじゃ遅いわ。今この場で話してちょうだい」
「急かさなくてもいいじゃないか。時間はあるんだし、向こうに戻ったらお茶でも飲みながら二人で――」
「私がついていくと思ってるの? 本気で?」
ゴォォォッ!
「くっ!?」
「バカにしないでちょうだい! 本人ならまだしも紛い物の木偶についていくなんてあり得ない事だわ! くだらない妄想は貴方の脳内だけで充分よ!」
苛立ちのあまり波動をレッドクロウに当ててしまった。できるだけ穏便に済まそうと思ったけれど、やはり感情には逆らえないわね。
「ど、どうしたんだムーザ? キミはそんなに乱暴な人じゃなかっただろう?」
「ええ、そうよ。自分でもお人好しな部類に入る方だと自負してたわ。けれどね、長い年月が私を変えてしまったのよ」
イグリーシアに侵略を開始して間も無く。私は最愛の男であるレッドクロウを失った悲しみにくれる隙なく、魔物たちの襲撃から逃げる毎日を送った。
追い詰められた私は自分の意思をホムンクルスに継がせ、何百年という時を重ねてイグリーシアの魔法を徹底的に研究した。その結果、伝説の魔女と恐れられる存在になったのよ。
けれど消費した時間という代償はあまりにも大きく、隠れて研究している間に侵攻部隊は全滅。祖国である銀河メンフィス共和国も滅亡に追い込まれた。
「もうイグリーシアを侵略する意味はない。想いを寄せていたレッドクロウもいないのよ。なのに何で今頃になって貴方は現れたの? どうして本人は生きていなかったの? どうして紛い物が生きてるのよぉぉぉぉぉぉ!」
ガッ!
「うっ……ぐっ!?」
念力だけでレッドクロウの首を締め上げ、奴は足をバタつかせながら宙に浮く。
「いつかは伝えようと思っていた。まだ手すら握った事のない貴方と相思相愛になれれば幸せだと思っていた。けれどその矢先よ。イグリーシアに降り立った直後、レッドクロウの訃報が私を不幸のドン底へと叩き落としたのよ」
こんな事ならもっと早くに伝えるべきだった。そうすれば私の想いを胸に逝く事ができただろうから。
「ねぇレッドクロウ、貴方の意思は本人と同じなのかしら? 喋れる程度に拘束を緩めてあげる。だから正直に答えてちょうだい」
「ゴフッ! ハァハァ……。そ、そうとも。カタロストフは――グガァァァ!?」
「不快になる名前を出さないで。今度やったら更に強い電流を流すわよ?」
「わ、分かった! 俺の意思は元となったレッドクロウを完全にトレースしている。よって生存していた当時の感情のままに答える事ができる!」
「そう。それを聞いて安心したわ」
それならばと、ずっと心残りだった事を改めて聞いてみた。
「レッドクロウ、貴方は私を事をどう思っていたの?」
「俺に対してとても好意的であると思っていたよ。仮に当時のキミが俺への想いを打ち明けたのなら笑顔と共に受け入れる覚悟だったのは間違いない」
「そう……」
「けれどね、当時の俺は仕事に区切りをつけたいと思っていたんだ」
「……え?」
「恋人になるのなら戦闘から離れるのが好ましい。ゆえにイグリーシア侵略作戦が成功に終わったら、俺の方から告げるつもりだったんだよ。退役軍人で良ければ俺の伴侶となってほしい――とね」
そうだったんだ。いつも薄い反応ばかりだったから眼中にないのかも――なぁんて思ってた私がバカみたいね。
「分かったわ。貴重なご意見感謝するわね」
「い、意見?」
「ええ。だって貴方は所詮カタロストフに造られた存在だもの、アイツに都合の良い事しか言わないに決まってるわ」
「ま、待て、待ってくれ! 俺は本当にキミの事を――」
「しつこいわね。自己主張の少ないレッドクロウがそこまで食い下がるわけないじゃない。ああいう飾りっ気のないところも好きだったのに、肝心なところが真似出来てないのよ」
この時点でコイツの存在は無価値。コイツの目的は私への懐柔工作であり、それはカタロストフの目的でもある。
大方レッドクロウの顔でダンジョンに侵入すれば私を誘い出せると考えたんでしょ。そのエサにまんまと掛かった私が言えた台詞じゃないでしょうけれど、結果としてカタロストフの企みは失敗。私への懐柔は無駄に終わったってわけね。
「偽者は所詮偽者。アンタの言葉は参考程度にしかならないってわけ。分かった?」
「ハハ、そうかい。なら俺の負けだよ。一思いにやってくれ」
「ええ。言われなくても」
グググ……
「グッ……アガッ……」
再度首を締めるように持ち上げる。私が直接触れる事はせず、端から見ればレッドクロウが自力で宙に浮いるように見えるでしょうね。
「最後の質問よ。こうなる事をカタロストフは見越してたのかしら?」
「…………」コクコク
答えはイェス。懐柔できないなら私の心をへし折る気だったらしい。
「分かったわ。付き合わせて悪かったわね。お礼に苦しみは最小限に抑えてあげる」
ベキィ!
嫌な音と共に力なくダラリと宙吊りになるレッドクロウ。せめてもの救いは本人ではないって事くらいよ。
『ムーザ、お疲れ様』
「アイリちゃん。悪いけど、少し休ませてもらうわね……」
強がってはいるものの、好きな人を自分の手で殺すというのは思った以上にショックだったらしい。
まったく、目覚めた時にはヒサシくんたちの手でカタロストフを葬っている事を願っているわ。




