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ダンジョン強襲

「この侵入者って……」

「ちょっと待ってね…………あ~なるほど。ダンジョンの入口を強行突破した奴らがこっちに向かって来てるんですって」


 ムーザの話では、門番の脇をすり抜けた軽装の青年たちがダンジョン内部に侵入し、深層部を目指して突っ走ってる最中らしい。


「なんだ男か。てっきりカタロストフかと思ったぜ」

「そうとも言い切れないわよ?」

「――というと?」

「強行突破する輩は珍しくないんだけど、配置してる魔物が反応しない輩なんてこれまで居なかったもの」

「魔物が……反応しない?」


 ムーザが壁に埋め込まれた液晶テレビのような巨大モニターを指す。そこには一階層を爆走している例の青年たちが高い位置から映されており、何故かゴブリンやスライムは反応を示していない。


「なんなのよこのダンジョン。セキュリティがガバガバじゃない。せめて罠くらい仕掛けて私を楽しませなさいよ」

「別にメリーちゃんを楽しませるシステムじゃないんだけどね……。だけど1つだけ訂正させてちょうだい。このダンジョン、罠の類いは目茶苦茶多いわよ?」

「「「えっ?」」」


 俺たちは目が点になる。モニターの向こうでは青年のマラソン風景しか映ってないからだ。


「もしかして、罠も発動してない……とか?」

「残念だけど大当たりよ。私も魔女として君臨していた頃はいろんな罠で侵入者をもてなしていたけれど、こんな連中は見たことないわ」


 レアケースか。カタロストフだけでも厄介なのに他にも注意すべき奴らが居るなんてな。


「なぁムーザ、もう少しズームアップできないか? 連中の姿をしっかりと見ておきたい」

「そうね。ギリギリまでカメラを近付けられれば…………え、レッド……クロウ?」

「え!?」


 今ムーザは何て言った? レッドクロウって聴こえた気がしたぞ?


「間違いないわ。彼らの先頭を走ってるのは同期だったレッドクロウよ」

「何だって!?」


 このレッドクロウって奴は、ピラミッドで戦った邪神に懺悔夢要(リグレットドリマー)を使った際の俺の憑依先だ。


「でもアイツ、イグリーシアに降り立った直後にワイバーンに食われたはずだろ?」

「ええ。他の隊員も見たらしいし、それは間違いないわ。第一1000年近くも前なのに、当時と同じ姿でいるはずがないもの。それにヒサシくん、レッドクロウの後ろを走る人物に見覚えはない?」

「後ろって…………あーーーっ、よく見りゃブルーノじゃねぇか!」


 このブルーノって奴も、グロスエレム教国の邪神と対峙した際の憑依先だ。もう一人の青年は見たことがない。


「ブルーノはレッドクロウの後輩よ。隣のグリンって青年もね。でも問題はそこじゃない。彼らは何者かに造られた存在だって事よ。恐らく、彼らを造り出したのは……」


 カタロストフか。


「ヒサシさん、彼らがボス部屋に到着したようですよ? これまでは襲われなかったですけれど、ボス部屋を突破するにはそのフロアにいる魔物を全て倒さなければならないはずです」


 ネージュの台詞に再度モニターを注視する。

 だが直後、信じられない光景が飛び込んできた。


「一階層だから余裕でしょうけれど、まずはお手並み拝見といこうかし――――え?」

「ど、どうなってんだよ。ゴブリンたちが勝手に消えてくぞ?」


 文字通り次々と魔物が消滅しいてくんだ。その間レッドクロウたちは何もしておらず、自然消滅と言ってもいいくらいだ。


「な~によこれ。戦わずして終わるなんて、面白くも何ともないわ。せめて血の一滴でも流しなさいよ」

「そ、そんな事を言ってる場合じゃないわ。これは明らかに異常よ!」


 見るからに動揺しているムーザが研究室を飛び出していく。俺たちも後に続くと着いた場所はコアルームで、アイリとその眷族たちが真剣な面持ちで出迎えてくれた。


「来たわねムーザ。やっぱり異常だと感じた?」

「ええ。何らかのスキルかそうじゃないのか、いずれにしろ危険な感じがするわ。彼らを放置するのは危険よ」

「…………」


 ムーザの台詞を最後に黙り込むアイリたち。その視線の先ではモニターに映り込む青年三人が相変わらずマラソンを続けている。

 こっちの問題をダンジョンに持ち込んだようなもんだし、俺は密かにメリーたちと念話で話し合う事に。


『メリー、このまま見てるだけってのは気まずいよな?』

『気まずくはないけど、獲物を取られるのはいい気分じゃないわね』

『言ってる場合かよ。助けてもらっといて迷惑かけるのも申し訳ないし、ここは俺たちが迎撃に出ようと思う』

『だったら取られる前にやろうぜ~!』

『レンに同意……します』

『アイリはんたちも手慣れとるさかい、早くしいひんと出番がのうなりますわぁ』

『決まりだな』


 意見は一致し、思いきって切り出そうとしたんだが……


「あ、あのさ、ここは俺たちが――」

「あの三人は私が止めてくる!」


 反応したのは意外にもムーザで、エレベーターを使ってどこかへ行ってしまった。


「ちょっとヒサシ、ボサッとしてないで私たちも行くわよ!」

「あ、ああ! え~と、すまないアイリさん。俺たちも手伝ってくるぜ」

「そう? まぁ大丈夫だとは思うけど無理はしないようにね。いざとなったら()()()()()を加勢に向かわせるから」


 お姉ちゃんというフレーズが何かのニックネームなのか気になるところだが、それは置いといてレッドクロウたちの元へと急いだ。

 先行したムーザが2階層のボス部屋に入ったのを見て、俺たちも中へと入る。


「ここに配置されていたボスは一時的に外れてもらったわ。本当はキミたちにも外してもらいたいのだけれど……」

「イヤよ。せっかくの獲物をただで寄越すほど甘くはないわ。しばらく眠ってたせいで身体が鈍ってしょうがないし、私の欲求を邪魔するんなら許さないからね」

「はぁ、仕方ないわねぇ……。ならレッドクロウだけは私に譲ってちょうだい」

「イヤだって言ったら?」

「まとめて滅するだけよ。というか、あんまり手間かけさせないでちょうだい。いい? 二度は言わないからね」

「チッ、それでいいわ」


 くだらない事でムーザと戦いたくないし、レッドクロウは譲る事で決まった。


「それにしても例の侵入者、いったいどのようなトリックを使用した……のでしょう? メモリーにも同じ現象は存在しません……でした」

「前にも言ったけれど、カタロストフは異常な成長速度を持っているのよ。目の前の課題をどうクリアーするかなんてすぐに読み解いてしまうほどにね。カタロストフ本人が来なかったのはダンジョンの全容を把握しきれてなかったからで、彼女の代役を今回は送り込んで来たってわけ。魔物や罠を寄せ付けないのは、他のダンジョンで対策済みだったから――とも考えられるわ」


 それってダンマスが犠牲になってるって事じゃ……いやいや、余計な事は考えないようにしよう。


『みんな聴こえる? もうすぐ侵入者がそこに到達するわ。不気味な存在だし充分に気をつけてね』


 ダンジョン全体に響くアイリの声。気遣いは感謝するが、俺たちも充分強い方だと自負している。


「簡単にやられたりはしねぇ。どっからでもかかってこいやぁ!」



 ギィィィ――――バタン!



 俺が叫び終わるのと同時にボス部屋の扉が開き、レッドクロウたちが侵入してくる。

 すると今までの勢いはどこへやら、待ち構えていた俺たちを前に動きを止めた。そしてレッドクロウが一歩踏み出すなり……


「やぁムーザ、久しぶりだね。ダンジョンで再会するのもおかしな感じだけど、キミの方は元気そうだね」

「ええ」

「あれ? なんだか素っ気ないなぁ。昔はもっとフレンドリーだったじゃないか。何か心境の変化でもあったのかい?」

「そうね」

「フッ、そうかい。じゃあさっそくだけど、俺たちと一緒に来てくれるかな? ()()()()()()に会わせてあげたいんだ。よかったら後ろのキミたちも――」

「それは……できないわ」


 いつもの色気のある口調とは違い、どこか素っ気なく寂しげに答えるムーザ。

 えっ? という顔をするレッドクロウだが、奴の目の前でムーザは全身を震わさせていた。

 やがて決心したように顔を上げると……


「レッドクロウ。貴方たちはすでに死んだ存在なの。二度と化けて出ないよう、今からキッチリとレクイエムを奏でてあげる!」


 ムーザの全身が真っ黒なオーラで包まれた!


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