VSカタロストフ
「……ん」
気が付けば俺1人が真っ暗な場所に取り残されていた。ただ暗いってだけじゃない。何も無い真っ黒な空間が広がってるような感じだ。
「さっきまで居た部屋とは別の空間か」
――にしても事前に説明くらいしてくれたってよさそうなもんだけどな。ペサデロって奴に首辺りをどつかれたのは確かだ。
「ったくあのペサデロって女、おとなしそうな顔してやることが強烈な――ん? 遠くの方で火花が散ってる?」
暗闇で見つけた唯一の光源。俺は吸い寄せられるように火花に向かって歩き出す。すると微かな光に照らされ、徐々に周囲に有るものが見えるようになってきた。
「うっわ、半壊した古い家屋に廃墟と化した病院? それに電灯が疎らなトンネルに極めつけは苔の生えた墓石ときたか。相変わらず悪趣味なこったな」
現実なら絶対に近寄りたくないものがそこらを埋め尽くしていたが、不思議と恐怖は感じない。メリーの思考をトレースしたものだとすぐに分かったからな。
そんな物体を横目に火花との距離は徐々に近付いていき、ついには声が聴こえるほどに。
「――の、――――なさい」
この声は……メリー!?
間違いない、メリーが何かを叫んでいる。いや、叫びながら動き回ってる感じだ。
「メリー!」
俺は咄嗟に走り出す。メリーが何かと戦っていると直感したからだ。走っている最中も「このぉ……この! この!」と言う声が聴こえてくる。
よく見ると飛び散る火花は鎌と剣がぶつかり合って発生しているもので、鎌を持つメリーに対して剣を持つのは……
「カタロストフ!」
忘れもしない。一瞬だが火花に照らされた顔は、無感情にメリーを見下ろすカタロストフだ。
「メリー、大丈夫か!」
「え――――ヒサシ!?」
俺の顔を見て驚くものの、すぐにキッと睨みつけ……
「邪魔すんじゃないわよ! コイツは私の獲物なんだから、横取りは許さないからね!」
だいぶ頭に血がのぼって――いや、メリーに血は流れてないと思うが、少なくとも顔を真っ赤にするほど苛立ってるのは確かだ。
だが一方のカタロストフはというと、俺を見るなり僅かに顔をしかめたのが分かった。ついでにその仕草そのものが俺にとって朗報だって言ともな。
「メリー、俺が来た事はコイツとっての誤算らしい。今のうちに憑依合体で倒しちまおうぜ!」
「そうね。さっきから回避されまくりでイラっと来てたとこだし、とっととケリつれてやりましょ――憑依合体!」
マジマジと観察しているカタロストフを前に俺の中へとメリーが入り込んだ。
『「ヒサシはともかく、私の精神に影響を及ぼすとかいい度胸じゃない。徹底的に捌いてズタボロのゾボロ雑巾にしてやるわ!」』
「これは……とても興味深い」
『「はぁ? あんたドMなの?」』
「そうじゃありません。精神に中とはいえ、物理融合をしてみせた生命体はアナタたちが初めてですの。しかも男の見た目で女言葉というのも斬新ですね」
『「それは仕方ねぇだろ!」』
誤解されないために言っとくが、さっきのはメリーが勝手に喋ってただけだからな。
『「そうやって余裕こいてられるのも今のうちよ。今度こそアンタを三枚に下ろしてやる!」』
これで一気にステータスが跳ね上がったはずだ。さっきまで当たらなかったメリーの攻撃とは真逆に、俺の剣はカタロストフに――
サッ!
『「何っ!?」』
あっさりと身を翻し回避されてしまった。呆気にとられる俺を他所に、カタロストフは余裕の笑みで返してくる。
「確かに速い。先ほどまでとは大違いですね。物理的な意味でしたらまずまずと言ったところでしょう。ですが……」
ドォッ!
『「グッ!?」』
凄まじい波動みたいなのを飛ばしてきた。まるで突風を真っ正面から受けてるような感覚にすら感じる!
「その程度の速度でわたくしを捉える事は不可能。強いて言えば魔力の保有量が違うのです。絶対的なステータスの差を覆すことはできないでしょう」
この波動が魔力だっていうのか? だったら想像を絶する差があるって事じゃねぇか!
『もぅ、何なのよコイツ! 今度こそ当てられると思ったのに~!』
『さっきからこの調子だったのか?』
『ええ、そうよ。私を調べるとか言って目から光線を出したと思ったら、「おおよその全容は把握しました。あなたの存在は恐れるに足らず」とか失礼な事抜かしやがったのよ! でも結局コイツには一発も当てられないし、もうどうしていいか分かんないわよ!』
『分かったから落ち着け』
つまりカタロストフはまだ油断してるって事だ。なら奴の裏をかけば撃破する事も不可能じゃない。
「どうしました? もうかかって来ないのですか?」
『「いや、まだ終わりじゃねぇ。今度は俺が行くぜ!」』
力任せだが俺の剣なら奴をブッた斬れると信じて果敢に剣を振るう。しかし……
ササッ!
『「なっ!? 剣に触れる直前で消えただと!?」』
「言ったはずです。その程度の速度でわたくしを捉える事はできないと」
『「チッ、嘘偽り無しってか……」』
さてどうする? このままじゃ埒が明かないし、俺までメリーの二の舞になりそうだ。何とか奴の裏をかかないと……
『癪だけどレンたちに頼るしかなさそうね』
『頼るったってどうすりゃいい? ここはお前の精神の中だぞ?』
『フフ、こうするのよ。――出てきなさい、私の忠実な下僕たちよ!』
あの三人が聞いたらイラつきそうなフレーズをメリーが叫ぶ。そんな事で出てくりゃ苦労しねぇと思った瞬間!
シューーーーーーン!
俺たちの目の前に三人が出現した。
「おいこら聴こえてたぞ~、誰が下僕だ~!」
「レン、気持ちは分かりますが、まずはカタロストフを倒しましょう」
「誰に喧嘩を売ったか思い知らしたります」
これで4対1。普通なら絶対に負けないシチュエーション。――のはずだが……
「くっそ~、何で当たらないんだ~!? 絶対に捉えてるはずだぞ~!」
「しかも思うようにスキルを発動できません」
「そこに居るはずなのに、まるで実態が無いようにも感じますなぁ」
「当然です。貴女方の情報もメリーから取得済み。予測できる行動はすべて網羅してありますのでね」
網羅してるから何だって話だが、現に通用してないのが問題なんだよな。
ああクソッ、どうにも手詰まりな感が否めない。せめて予測できない戦法で――
そうか、分かったぞ!
『メリー、たった今攻略法を編み出したぜ』
『攻略法?』
『ああ。最初アイツは俺を見た時に顔をしかめたんだが、それは俺がここに来るはずがないと思っていたからだ。だが俺が来た以上レンたちも来れると予測した。だから即座に対応できたんだ』
『じゃあアンタのせいじゃない!』
『まぁ怒んなって。今から言う作戦なら100%上手くいくんだからな』
『……言ってみなさい』
恐らくカタロストフの目的はメリーを永遠に目覚めさせない事にあるとみた。だが実のところ簡単に目を覚まさせる事ができるんだ。
『ここから逃げるぞ』
『はぁ? 散々やられといて逃げろですってぇ? 冗談じゃないわよボケナス! このまま黙って引き下がれるかっての!』
『だからソレこそが奴の狙いなんだ。今は奴にとって予想外の行動を取る事が重要だ』
ギュッ!
『あ、ちょっと!』
メリーの手を取り走り出す俺たち。振り向き様に三人に対して足止めも依頼する。
『「お前ら、カタロストフをメリーに近付けないようにしてくれ! そうすりゃメリーは目を覚ます!」』
「よう分かんないけど分かったぞ~!」
俺の考えに同意してくれ、三人は壁となってカタロストフの前に立ち塞がった。顔は見てないが、この時のカタロストフは内心で舌打ちしたに違いない。
「これは驚きです。まさか逃げを選択するとは」
「へっ、挑発しても無駄だぜ? 今のテメェは物理的に妨害ができないんだろうからな!」
「…………」
どうやら図星だったらしく、反論はしてこない。それに追って来ないのは奴の作戦が失敗したと自覚したからだろうか?
そしてしばらく走り続けていると急に目の前が眩しくなり、目を開けると元いた部屋のベッドだった。
「っはぁぁぁ、戻って来れたぜぇぇぇ!」
「上手くいったみたいね」
「連れの女の子はもう起きてるわよ?」
ニヤニヤしているムーザが隣のベッドを指差す。そこに居たのは、不機嫌そうな顔で上体を起こしているメリーだった。
「おう、無事でよかったな」
「……そうね」
「ん? どうした、まだ本調子じゃないのか?」
「そんなんじゃないわよ」
確かにもう何ともないようだが、何故に不機嫌なのかがわからない。そこへレンたちからの突っ込みが入り、その理由が判明した。
「メリーのやつ、ヒサシに助けられたのが嬉しかったんだと思うぜ~」
「はぁ!? 何でそうなるのよ!」
「そうとしか言いようがあり……ません。今さら礼を述べるなど恥ずかしくてできない――といったところ……でしょうか」
「そんな訳ないでしょう? たかが礼を言うくらい、どうって事ないわ!」
「やはり礼を言うつもりやったんどすなぁ」
「あ~もぅうっさいわね! アンタらは黙ってなさい! ……コホン。ヒ、ヒサシ……」
あれ? しおらしいメリーとかレアじゃないか? 凄く可愛く見えてきたぞ?
「そ、その……ありがとう……」
「…………」
キュイン――キュキュキュキュキュキュキュキュキュイーーーーーーン♪
めっちゃ可愛いやんけ! これはもう抱きしめるしかないやろ~!
ムギュ!
「ヒッ!? ちょっとアンタ――」
「おおよかった、無事でよかったよメリー! 二度と目を覚まさないんじゃないかって心配したんだからな! もう二度と離さな――」
「離しなさいヘンタイ!」
バチ~~~~~~ン!
「いっでぇぇぇぇぇぇ!」
「どさくさに紛れてなに抱きついてんのよこのロリコン! 性犯罪者! 水虫!」
「いや、誓って水虫なんかじゃな――」
「口答えしない!」
ともあれ、無事戻って来れたのはいいんだがアイリたちからは白い目で見られてるし、誤解を解くのにもうひと頑張り必要かもしれん。




