原因解明
客室のような――多分応接室だったであろう部屋から手術室のような部屋へ案内された。
そこでは白衣を着た青髪の女の子が待機していて、俺たちを見るなりメガネをかけ直しつつベッドを指す。
「……抱えてる子をそこに」
「分かった」
メリーをベッドに寝かせると様々な機器から光が照らされていく。この光がメリーのどこに異常が有るのかを探っているんだろう。
やがて1分も経たないうちに光は収まり……
「どうペサデロ、何か分かった?」
アイリが尋ねるも、ペサデロと呼ばれた白衣の子は首を横に振り……
「……どこにも異常は見られない。至って健康体。原因が有るとすれば、外的要因によるショックのようなもの。何か心当たりは?」
「お、俺? 心当たりと言われても……」
当時の状況を再度思い起こす。メリーとレンに異常が起こったのはボランゾに破傷石を投げつけられたからだ。
けれど破傷石には結界や障壁を打ち破る効果しかなく、人体に直接害を及ぼすものじゃないらしい。
じゃあなんでボランゾが使用したのかって話だが、理由はハッキリとしなかった。というかボランゾにはその時の記憶がないらしい。
だったら考えられる理由はただ一つ!
「カタロストフ……あの女が何かしたに違いない!」
「どうやら思い当たる節があるみたいね」
説明した中には物理的なものしか含まれてないため、当然懺悔夢要の中で起こった事は省いていた。
そこで信じがたい話だがと前置きした上で、メリーのスキルに干渉してきた時の事を説明した。
「固有スキルに干渉するですって?」
「初めて体験した時は俺も同じように思ったよ。けれどこれは事実なんだ。どうか信じてほしい」
「いえ、疑ってるわけじゃないのよ。ただね、そのカタロストフって女は普通じゃないって事だけはハッキリと言えるわ。いったいどんな女なのそいつは?」
流れでカタロストフとはどんな奴かって話にシフトしたんだが、正直なところこっちが聞きたいくらいなんだよな。
だが少しでもヒントになればと思い、途切れ途切れに思い出しつつ呟いていくと、徐々にアイリたちの表情が強張っていった。
「確か……異世界の勢力で……」
「ふんふん」
「かなり昔に人型の戦闘兵器を使ってイグリーシアを侵略した連中で……」
「……え」
「宇宙からやって来た存在で……」
「…………」
「国の名前は銀河メンフィス共和国……」
「「「!!!」」」
国名を出したところでアイリが俺の肩を掴み、真顔で尋ねてきた。
「それは本当なの? 国の名前に間違いはない!?」
「あ、ああ、間違いはないよ。グロスエレム教国とピラミッドで戦った邪神も同じ勢力に所属していた。でも連中がやって来たのは何百年も前なんだろ? 今も生きてるなんて思えないんだが……」
「…………」
俺の台詞にアイリたちは黙り込み、しばしの沈黙が訪れる。重苦しい空気の中、口を開いたのはアイリだった。
「なるべくね、別世界の事には触れないでおこうと思ったのよ。パンドラの箱を開けてしまうかもだし。だけどもう遅かったみたいね。アンタはすでに片足を――いえ、両足まで突っ込んでしまっている」
だろうな。カタロストフって女に目を付けられたのは、俺にとってのパンドラの箱を開けたようなものだ。
だったらどうするかって話だが、アイリの言葉により凄く勇気づけられる事に。
「ならとことん戦いましょ。原因がカタロストフって女にあるんなら、そいつを倒すか封印してしまえばいい。私だって伊達に5年もダンマスやっるわけじゃないのよ。プロのやり方ってやつを見せてあげるわ」
「頼もしい! けどなんだってアイリ……さんはそんなに詳しいんだ?」
「アイリでいいわ。それにメンフィス共和国とはちょっとした因縁があったのよ。もう解決はしたんだけどね」
因縁か。天界のオルドって神様も俺とメリーがくっついて転生してきたのは不思議がってたし、カタロストフがそれに関与してる可能性があるのかもな。
「メンフィス共和国についてはアンタより知ってるつもりだったけど、カタロストフってのは聞いた事がないわ」
「じゃあメリーは当分このままなのか」
「いいえ。少なくともヒントになりそうな人物を呼んだから、彼女に聞いてみるわ」
「え……誰?」
「メンフィス共和国の元関係者ってとこね。さっき念話で呼んどいたから、もうすぐここに来ると思うわ」
そんなコアな知り合いが居るのかと思いつつ待っていること10分程度。部屋の外からコツコツと歩く音が聴こえてきた。そして部屋のドアが開けられ、入ってきた人物を見た俺はパニックを起こす。
「はいは~い、呼ばれたから来たわ――」
「お、お前はムーザ!?」
「「「――え?」」」
ムーザを指して叫ぶ俺に、その場の全員の視線が集中する。忘れもしない。エギルって邪神に懺悔夢要を使用した時に見たメンフィス側の女幹部だ。
「なんでアンタがここに!」
「ちょ、ちょっと待ってくれる? 私、貴方とは初対面だと思うんだけれど……」
「わ、わりぃ、確かにそうだな。でも俺が回想で見たのは何百年も前の光景だ。なのに何でいまだに生きてるんだ!?」
「だから待ってってば! ちょっとアイリ、この少年は何なの? それに私の個人情報を勝手に話すなんて、後で覚えときなさいよ!」
「誤解よ! コイツが勝手に暴走したのよ!」
「何でもいいから理由を話してくれ。アンタはレッドクロウの事が好きだったのか?」
「はぁ!? 何でそんな事まで――って、今のは無し! 別にレッドクロウの事は何とも思ってないから!」
「ちょっと! 私を抜きにして勝手に話を進めないで!」
一時間後……
「……あ~疲れた。要するにヒサシ、アンタが見たのは数百年前の光景よね? でもここに居るのはコピーされた別人よ」
「……な、なるほど」
つまりはこうだ。レッドクロウの部隊は壊滅に追いやられ、ムーザの部隊も壊滅の危機に瀕した。そこへブルーノの部隊が救援に現れ、ムーザは魔女の森に退避した。俺が見たのはこの部分だな。
「けれどムーザも長くは持たなかった。そこで最後の可能性を残すため、自身の細胞使って新たな生命体を造ったの。それが私。でもムーザとは瓜二つで意思も受け継いでるわ」
何かもう訳が分からんくなってきたが、ここに居るムーザは別人って事らしい。
「す、すみませんでした。別人とは知らずについ興奮してしまって……」
「フフ、ちょっと驚いたけど許してあげる」
「な~にが許してあげるよ。過去に侵略企てたくせに」
「仕方ないじゃない。ムーザの意思を継いでるんだから」
「あ、あの、過去の侵略って?」
「広大な森に巣くう魔女の話よ。勇者アレクシスが仲間たちと共に魔女を討伐したって話」
「……あ!」
最初に気付いたのはネージュだった。
「魔女の森に巣くう邪悪な魔女ムーザ!」
「フフ、大正解。その魔女がわ・た・し♪ 討伐されたのにどうして生きてるのって野暮な話はしないでね? 説明すると長くなるから」
生きてるのにも何らかのトリックがあるんだろう。でも俺にとっては重要じゃない。今必要なのは……
「魔女とか勇者とかはどうでもいい。ムーザ、カタロストフについて知ってることを教えてくれ」
「カタロストフかぁ。ま~た厄介な奴に絡まれたものね。私としても一生関わりたくないって思ってたほどよ」
「すでに体感してるけど、そんなにか?」
「ええ。アイツの正体はね、メンフィス共和国の技術をこれでもかってくらいに集結させて造られたAIヒューマノイドよ」
頭を鈍器で殴られたような衝撃を受けた。AIなんてフレーズを異世界で聞くことになるとは思わなかったからな。
「要するにアンドロイドか」
「ただのアンドロイドじゃないわ。ハイスピードコアAIシステムを有した事により、普通のアンドロイドよりも成長速度が数十倍も早いのよ。イグリーシア制圧作戦にも参加してたけど、当時の年齢は僅か5歳だったはずよ」
「5歳!?」
いやいや、どう見ても成人の女に見えたし、未成年を戦争に参加させるとか、色々とブッ飛び過ぎだろ。
「キミは回想で見たのよね? 5歳には見えなかっただろうけど事実よ」
「いやもう、あれが5歳児とか恐ろしい限りッス……」
「でも本当に恐ろしいのはここからよ。良くも悪くもカタロストフの成長は早い。先を見越した作戦立案なんてお手の物だし、他人の思考なんかすぐに読み取ってしまう。恐らく上層部もも恐怖したのでしょうね。このままだと自分たちの寝首を掻かれる――そう思ったのよ。だから作戦の指揮は最初から彼女にさせるつもりだった」
「え? それって……」
「そう。作戦会議で誰も指揮官に立候補しなかったのは、カタロストフに押し付けるためだったのよ。彼女を戦地に送って暴れ回ってくれればよし。帰還申請してきても、指揮官である事を理由にはね除ける。それで戦死してくれれば尚めでたし。結果カタロストフとの通信は途絶え、どこかで戦死したものと判断された。けれど……」
「カタロストフは生きてたってのか?」
「…………」コクリ
なんてこった。宇宙技術が詰まったヒューマノイドに狙われるとかどんな悪夢だ。ご丁寧にAIによる成長機能まで付いてるときた。
「これは推測だけれど、メリーが目を覚まさないのはカタロストフ自身が妨害してるからじゃない? もしも精神の中に入り込んでるなら、助けられるのはキミしかいないわ」
「もちろん助けるさ! でもどうやったらいいのかさっぱり分からん……」
「それなら大丈夫。今からキミを仮死状態にするから、精神体のみをメリーの中に放り込んであげる」
「仮死状態!?」
「大丈夫。単なる幽体離脱だから」
もはや幽体離脱を単なると言うレベルの話なんだなぁ。でもそれでメリーを助けられるなら!
「分かった。ド~ンとやってくれ!」
「あら、男らしくて素敵よ♪ じゃあペサデロちゃん、頼むわね」
「……了解」
ドスッ!
「グッ!?」
頭部への強い衝撃を受け、俺は気を失った。




