魔女の森
メンヒルミュラーとのコネを利用し、転生者か転移者と思われるダンジョンマスターと面会できる事になった俺たちは、迎えにきたワイルドホークの背に乗って魔女の森にあるダンジョンへと向かう事に。
道中は空の旅と化していて、深緑の森を見下ろしつつユラやウルが顔を綻ばせる。
「これは快適……です。自力で飛ぶよりも大変心地……よい」
「地上を走るより速くて爽快どすなぁ」
「せやろせやろ? ワイのスピードならアイリーンまであっちゅう間や。あ、アイリーンっちゅうのはダンジョンの名前やで」
関西弁で明るいホークという獣人が来たと思ったら、目の前で巨大な鷹に変身しちまうんだもんな~。
最初見た時は混乱したがどうやら鷹の姿が本来のものらしく、人前では人化の指輪というレアアイテムで偽装してるんだそうな。そうしないと街に入れないし、Bランクという高ランクの魔物だと大騒ぎになるからそれの防止なんだとか。強くても苦労はあるんだな。
「ところでそっちのヒサシはん。さっきから黙ったままやけどそない心配せんでも大丈夫やて。うちのアイリはんにかかればやな、どないな事でも即座に解決やさかい!」
「は、はぁ……」
アイリというのは今向かっているダンジョンのダンマスの事で、数年前から魔女の森の中央付近で生活してるらしい。周辺国にも一目置かれてる存在で、貿易によりかなり栄えてるって話だ。
だがそんな話は右から左に抜けていき、正直頭に入ってこない。今はメリーを治さなきゃという思いで落ち着かないんだ。
「皆さん、アレを見てください! 空に不思議な物体が浮いてますよ!?」
そうネージュが叫ぶが、あまりはしゃぐ気になれない俺はぼんやりと宙を眺める。
が、そんな俺すらも驚愕するレベルのものが視界に飛び込んできた。
「お、おいマジかよ……」
思わず絶句する俺が見たものは、SFの世界に出てきそうな機械仕掛けの船。つまりは宇宙船だ。
「アレがアイリーンと呼ばれてるダンジョンどすか?」
「ちゃうちゃう。ダンジョンはアレの下や。あの宇宙船にはイグリーシアとは別世界の人らが生活しとるんやで~」
「別世界……ですか?」
「せや。このイグリーシアっちゅう世界はな、1つの大きな球体なんや。その球体から離れると宇宙空間に飛び出てもうてな、その宇宙にはイグリーシアとは別の球体が多数存在するんやが、それらの事をまとめて異世界と呼んどるんやで~」
ユラやウルのみならずネージュまでもが興味深そうに聞いてる中、俺だけは少し冷めていた。表面上の宇宙なら一応の知識はあるからな。
けれど別世界の住人には興味がある。メリーが回復したら行ってみたいもんだ。
「しっかしその娘はん、えらいベッピンやないかい。さてはアレか? 年頃になるまで育てて最終的には美味しくいただいちゃう、何とか物語的なやつか?」
「違うから! 将来襲ってやろうとか考えてないから!」
「ん~、でもな~、さすがに今すぐは早すぎるんとちゃうん?」
「それも違う! なんで襲うの前提なんだ!」
「い、いや、他の面子を見る限りやと……」
ま~たネージュたちの見た目で誤解を招いてるよ……。幼女に囲まれてんのは偶然だっちゅうのに。
「……コホン。とにかく、俺はノーマルなんで間違わないでくれ」
「そうか~。ま、辛気臭い顔がマシになったみたいやし、そういう事にしとこか~」
え? もしかしてわざと茶化して気を紛らわしてくれたのか?
「なんか……すみません。気を使わせちゃったみたいで」
「ええんやて。これでもアイリーンじゃムードメーカー的な存在やからな。それに沈んだ顔のまま連れてったら俺が何かしたって疑われてまうわ」
「そっちが本命ですか……」
「ハハッ! 何事も打算ありきや。ほれ、そろそろ地上に降りるで~」
巨大な宇宙船が間近に見えてきたところで地上に着地。そこは森の中心でありながらも道が舗装されていて、東西南北の四方に行き交う冒険者や商人で賑わって――いや、出て行く人数よりやって来る人数の方が多いな。これだけでも人気なのが分かるってもんだ。
「まぁ……凄い人気ですねぇ。わたくしたちも早く並びましょう」
「いやいや、アンタらはゲストやさかい、裏口から入れるんやで~。こっちや」
何やら入口のない行き止まりまでやって来ると、ホークさんが壁に手を添えた。すると壁が淡く光り出し、ホークさんが颯爽と1歩を踏み込むと身体半分が壁へと消える。
「ここからマスターの居るコアルームに直行や。部外者は立ち入り禁止やさかい、他の連中には内緒やで。ほなワイに続きや」
壁に消えたホークさんを追い、俺たちも壁をすり抜けていく。すると綺麗に整った客室のような場所に繋がっていて、入口にはタキシードを着た老執事が静かに佇み、ソファーには紫髪の美女が行儀悪く片膝を立てていた。
「連れて来たで」
「ほぅ、そやつらが例の……」
紫髪の美女が体勢を崩さずに顔だけこちらに向けてきた。偉そうにしてるって事は、この女がアイリなんだろう。
だが行儀の悪さなんかどうでもいい。俺は一刻も早くメリーを助けてやりたいんだ。
「貴女がアイリさんか? 俺はヒサシ。左からネージュ、ユラ、ウル。そして気絶してるこの子が助けてほしいメリーだ」
「ほぅ、さっきから気になっておったが、この小娘からはまったく魔力が感じられんのぅ。お主も知っておろう? 魔力が無ければ人は意識を保てないと。こやつにいったい何が起こったのじゃ?」
「それは――」
変に隠し事をして不快にさせたらマズイと思い、これまでの経緯を偽り無く話した。もちろん俺が転生者だって事もな。これは別荘を買った時にネージュたちにも話してあるから、今さら驚かれる事ではない。
だが相手のダンマスも、ついでに老執事とホークさんも驚いた様子はなく、ひたすらウンウンと相槌を打っている。それがどうしても気になってしまい、俺は思わず聞いてしまった。
「――という事で転生者な訳ですけれど、あんまり驚かないんですね?」
「そりゃそうじゃ。妾の主は転生者じゃからな。珍しくもなんともないぞ」
「そうなんですね……あれ?」
ちょっと待てよ? 主は転生者だって言ってたよな?
「どうかしたかのぅ?」
「さっき主って言いましたよね? それってダンマスは別の――」
――と言いかけたその時、客室のドアがおもいっきり開け放たれた。
バァァァン!
「ちょっとアンジェラ、な~に勝手に話を進めてんのよ!」
入ってきたのは茶髪でポニーテールの美少女で、入るなり紫髪の美女へ豪快な飛び蹴りを見舞った。
「これこれ主よ。客人を前にしてはしたない真似はよさんか」
「そ、そうね……って行儀の悪いアンジェラが言うな! というかそこは私が座るんだからさっさとどきなさい!」ゲシゲシッ!
「イダダダダ! ええぃ分かった分かった。すぐに退くわぃ。――という訳でこっちがダンマスのアイリじゃ」
「は、はぁ……」
この足癖の悪い美少女がアイリで、察するに足蹴にされてる方は眷族なんだろう。
なんか美女と美少女で絵になるなぁ……なんてほっこりしてる場合じゃない。早いとこメリーを見てもらわないと。
「……ったくもう……コホン。眷族勝手に失礼したわね。私がアイリ。ここのダンジョンでダンマスをやってるわ」
「妾はアンジェラじゃ。こう見えてもバハムートじゃからな。妙な事は考えるでないぞ」
「だからアンジェラは勝手に喋らないの。リヴァイ」
「ハッ!」
「こ、これ、どこへ連れて行く! 離さんか!」
待機していた老執事によって強制退室させられていった。
「ふぅ、毎回疲れるわ。ダンマスなんて偉そうにやってるけれど、いつも眷族に振り回されてばっかりよ」
「でも楽しそうに見えますが……」
「うん。少なくとも退屈はしないかな。毎日賑やかでうるさいくらいよ。そこに他の眷族まで加わるんだから、コアルームが静だった覚えはないわ」
思えば口を開けば喧しいメリーだったが、その声が聴こえないだけでも寂しいと感じるもんなんだな。もしも調べた結果元に戻らないと分かったら俺は絶望しちまうかもしれねぇ。
「思い詰めてるわね? よほど大事な存在なのね、その女の子」
「そりゃまぁ、メリーが死んだら俺も死んでしまうわけで……」
「本当にそれだけ?」
「え!? い、いや……」
思わずドキッとした。悪霊云々を抜きにしてもメリーはかなり贔屓してたからな。
「アハハハ! ごめんごめん、ちょっと意地悪な質問だったわね。でも大切な存在だって事は伝わってきたわ。アンタの持ってるその剣を貸してちょうだい」
言われた通りにレンを手渡すと、どこからか取り出した小瓶の蓋を開け、中身をレンに振りかけた。すると……
「プハァァァ! 生き返る~~~!」
まるで喉ごしスッキリと言わんばかりにレンが人の形で復活を果たした。
「レン! も、もう大丈夫なのか?」
「極上のマナポーションをかけてもらったからな~。一気に回復したぞ~」
「そりゃよかった! ありがとう御座います、アイリさん」
「マナポーションを使っただけだから、大したことはしてないわよ。それより、問題はそっちの子よね。鑑定スキルだと異常が見当たらないんだけど、いったいどういう事かしら……」
さらりと鑑定スキルが出てきたが、今は無視する。それよりも異常がないなんてあり得ないし、更に詳しく見てもらう事にした。




