閑話:その頃の別荘
「まさかネージュが勇者の血統だったとはのぅ」
久しいの皆の衆。勇者の孫リーザじゃ。使い魔を通じてヒサシたちの動向を伺っておったのだが、まさかのネージュが同族として発覚しよったぞよ。つまりは腹違いの血族という事になるな。
「その割には膨大な魔力は感じ取れんかったがの。まぁ本人の性格からして鍛練を怠っておったのが原因だろう」
しかし勇者の末裔が不出来とあらば末代までの恥。帰還しだいネージュには猛特訓を課そうと決めたぞよ。
『クルル……』
「ん? なんじゃ、自分と同じワイルドホークがヒサシたちに接触したのか。同胞を見つけて嬉しかったのか?」
『クルゥクルゥ』
「うむうむ。それは良かったぞよ」
いつもの念話と違い声が弾んでると思うたがそういう事か。そもBランクの魔物ともなると、早々と遭遇はせんだろうしの。
『クールルクルルゥ♪』
「ブフッ! な、中々の色男だったと? 鷹が色男とはどういう事ぞよ?」
『クルルルルゥ』
「何々…………ほぅほぅ、向こうのワイルドホークは人化の指輪で人間に化けておったのか」
噂には聞いておったが、魔女の森に住まうダンマスは多数の眷族に人化の指輪を与えてるらしいの。このアイテムは動物や魔物を人間の姿(獣人へも可能)に変えてしまうレアアイテムで、極めて入手困難と言われてるぞよ。
『クルクルクルゥ!』
「なんじゃ、お主も欲しいと申すか?」
『クルゥ!』
「ダ、ダメじゃダメじゃ! そんな高価な物をホイホイとやれるわけなかろう」
『クルゥ? クルルルゥ?』
「な!? お主、ワッチが貧乏だと申すか!? 無礼な事を言うと飯抜きにするぞよ!」
『クルッ!』
「あっ……」
おのれ、使い魔のくせ一方的に念話を切りよったか。そういえば雌だったのうアヤツ。帰ってきたら少しは気にかけてやろう。
コンコン――――ガチャ!
「失礼します、リーザ様」
「フィルンか。いい加減ワッチの返事を待たずに扉を開けるのは止めるぞよ」
「す、すみません! ですが急ぎ目を通していただきたい書簡が届きましたので、是非リーザ様にと思い……」
そう言って手渡してきた書簡を受け取ると、差出人はグレンモーゼが書いたものと判明する。
内容はというと、ついに内戦が始まったらしい事が書かれており、しばらくは連絡が途絶えるかもしれないというものだ。
「始まったか……」
「兄は大丈夫でしょうか?。しばらくお顔を見ておりませんし、少々不安です」
「今は信じて待つ以外ないじゃろうな。間違っても戻ろうとしてはいかんぞよ?」
「もちろんです。せっかくヒサシさんやメリーちゃんのお陰で助かったのですから、それを無駄にするつもりはありません」
「ならばよいぞよ」
しかし、いまだにどこの国が手出ししてきたのかが不明というのも不気味ぞな。今考えれば帝国というフレーズもブラフだったやもしれん。ワッチの方でも可能な限り探ってはいるが、巧妙すぎて尻尾を掴ません。こちらも時間が掛かりそうぞな。
「ところでリーザ様。以前ピラミッドで遭遇した邪神とそっくりな敵が出現したと、ハルミが興奮した様子で話してましたが」
「相変わらずハルミはお喋りじゃな……。まぁ嘘ではないが」
「では!」
「うむ。同じ勢力の者らしいぞよ」
性格には人型兵器ではあるがな。何百年――いや、千年以上は前だったか? とにかく、気の遠くなるくらい前に侵略してきた異世界勢力の兵器らしいが、詳しくはヒサシに聞かなければ分からぬ。
「まさかとは思いますが、例の工作員と同じくここを嗅ぎ付ける可能性は……」
「それはない。いずれの邪神も眠っておったのじゃなからな。フッなぁに、邪神がここに来る確率は地上の生命体が全て消失する可能性より低い。安心するがよいぞよ」
「それを聞いて安心しました」
――とは言ったものの、実は100%ないとも言いきれん。ヒサシが言うにはメリーのスキルに干渉してきた存在が居るらしいからの。
正直邪神クラスが襲ってきたらワッチ1人では荷が重い。もしもに備えて戦力の増強は行った方がよいかもしれぬな。
コンコン!
「恐れいりますリーザ様。冒険者の一行が人を捜してると言って訪問してるのですが、いかが致しましょう?」
冒険者じゃと? 普通なら黙って追い返すところぞよ。それを敢えて聞いてきたという事は……
「フレネートよ、捜してる人物はこの邸にいる者か?」
「はい。特徴から察するに、フィルン様を捜しておられる可能性が高いかと」
「私をですか? では今すぐに――」
「ちょっと待つぞよ」
部屋を出ようとしたフィルンを強い口調で呼び止めた。
「リーザ様?」
「フィルンよ、おかしいとは思わぬか? ここに来てから殆ど外出していないそなたを捜しておると言うのだ。言伝てなら書簡で事足りるし、グレンモーゼが寄越した可能性は非常に低い。ならば別の者が身柄を押さえるために放ったと考えるのが妥当でろう」
「まさか……追っ手!」
「多分の。どれ、軽く捻ってやるからフィルンは自室に隠れてるがよい」
「はい!」
部屋を出て階段を降りつつ気配を探る。邸の入口に男2人か。他はいないようだが油断は禁物じゃな。
キィィ……
「お主らか? 人捜しをしとるのは」
「お、このお邸のご主人でいらっしゃいますか? そうなんスよ。薄いピンク色の髪をした十代前半の女の子でしてねぇ。最後に目撃された時はポニーテールだっけな? うん。この辺りで目撃したって話を聞いたもんスから、調べてるんスよ。何か知らないッスかねぇ?」
「いや、ワッチは知らんぞよ。行き詰まっとるなら冒険者ギルドに頼むがよい。なんならワッチから一言告げてやろうか?」
「そ、そそ、それは結構ッス! んじゃこれで!」
そう言うと二人組は慌てて立ち去っていく。よほど冒険者ギルドには知られたくないらしいのぅ。恐らくはグレンモーゼ以外の肉親が放った連中じゃろうし、ここにたどり着いた事だけは誉めてやるぞよ。
「もう大丈夫じゃぞフィルン」
「あ、ありがとう御座います、リーザ様!」
階段からこっそりと見下ろしていたフィルンが安堵の表情を浮かべる。
だがこれで終わるとは思えん。多分奴らはここに居ると確信しているぞよ。何故なら二人組の内の1人が、ひたすら無言で邸や庭を観察しておったからな。夜にでも侵入してくるつもりではないかの。
そう思っとったら、その日の深夜にさっそく現れよったわぃ。
「……来たか」
外部に人の気配を感じ、そっと起き上がる。
「数は…………8か」
警備が居ないにしても随分と舐め切った人数ぞよ。その程度の数でワッチを相手にしようなど百年早いわい。
「どれ、寝る前の軽い運動として――」
「おのれ不審者めぇ!」
「「「ギャハッ!」」」
な、なんじゃ今の声は? 女の声が聴こえたと思うたら男共の悲鳴が響きよったぞよ!
「ここを深愛するヒサシ殿の邸と知っての狼藉か!? 全員まとめて冥府に送ってくれる――でゃぁぁぁ!」
「「「ゲッハァ!」」」
こうしてはおれぬ。入口に死体の山ができては浄化するのが骨ぞよ。誰かは知らぬが早まるでない!
バタン!
「これ、いったい何の騒ぎ――」
「――ってお主は!」
「その容姿、貴女がリーザ殿ですね? 私はグロスエレム教国の元親衛隊隊長カスティーラと申します! 夜分に大変恐れ入りますが、ここが深愛なるヒサシ殿の別荘と聞いて――」
「まぁ待て落ち着け。とりあえず中に入るぞよ」
邸への侵入を試みた8人を近くで飼育されているグリーンウルフの小屋へと投げ込み、カスティーラを中に上げた。
皆が寝静まっているためにワッチの寝室で話を聞く事に。
「……で、どうやって単身で来たぞよ?」
「それは姫――じゃなかった、我が主君が知人のダンマスに掛け合い、眷属であるセイレーンにここまで運んでもらったのです。ちなみに不審者に気付いたのも、送ってくれたセイレーンです」
まぁ予想はついておったがの。
「……それで、ここに来た理由は何ぞよ?」
「よくぞ聞いてくれました! 訳あって深愛なるヒサシ殿でありますが、1つだけ不満に思う点が御座います」
「不満とな?」
「はい。ヒサシ殿がロリコンであるという点です!」
「…………」
訂正してやりたいが、万が一本当にロリコンという可能性もある(←いや、信じてやれよ……)し、ここは黙っておこう。
「私はこの性癖を治したい。しかし、旅に同行するのは足手まとい。ならばと雑談で聞いた自宅で待ち、心身ともに支えようと決意したのです」
「なんじゃ、つまりは嫁に来たというのか?」
「その通り。なのでヒサシ殿が戻られるまで料理を教えていただきたい!」
これは……うん。メイドたちに丸投げするぞよ。
★★★★★
その頃のロームステルのオッサンたち
「もうすぐだ。森を抜ければグロスエレム教国が見えてくるぞ!」
「隊長、グロスエレム教国は砂漠の先だったはずですが……」
「広大な森はグロスエレムの先にある魔女の森かと……」
「通り過ぎたのか!?」




