邪神スラグビス
「フハハハハ! ついに――ついに我らグロウス教徒の希望が復活したぞ!」
天井を突き破ろうとする邪神を見上げ、アムドリフェンが叫ぶ。そこへメンヒルミュラーが駆け寄り、天井を指して問い質した。
「侯爵ってばアレが何なのか知ってるの~?」
「勿論だとも。アレの正体はな、かつてプラーガ帝国の地で使い棄てられた古代兵器だよ。数年前にこっそりと横流ししてもらい、時間をかけて修復していったのだ。そして今、念願の復活を果たしたというわけだよ」
「そんなのが復活したの~!? それってめっちゃヤバいじゃん! 国が滅んだらどうするのさ~!?」
「フハハハハ! 私が支配できないグロスエレムなんぞ、いっそ滅んでしまえばいい!」
とうとう自棄を起こしたか。とは言え、あの邪神を放置はできない。
ドガァン!
「あ~! 邪神の野郎が逃げてくぞ~!」
「アレが暴れたら首都がヤベェ事になる。行くぞみんな!」
天井を突き破った邪神を追い、俺たちも飛び上がる。地上では突然の出来事に道行く人たちが呆然と空を見上げ、上空では静かに見下ろす邪神が浮遊していた。
『座標参照…………ここは……プリムラ地方ではないのか? だいぶ目的地からズレてしまったようであるが…………まぁいい。代わりにこの辺りの生命体を刈る事にしよう』
邪神の全身が青白い光に包まれていく。何をする気なのかはさっきの台詞から容易に想像がつくってもんだ。
「ユラ!」
「分かってます――ジェノサイドフレア!」
ぶっとい炎が邪神に纏わりつき、それを感知した邪神が光を帯びるのを中断した。
『むっ!? こ、この並ならぬ炎はなんだ! まさか我々に対抗しうる存在が居るとでもいうのか――ハァァァッ!』
ドォン!
炎を爆散させた邪神がこちらに気付き、ゆっくりと降下して来る。あの炎を耐え抜いたのを見たギャラリーたちは強大な魔物だと理解したらしく、蜘蛛の子を散らすようにその場から逃げ出して行く。
やがて俺たちだけが残され、例の邪神が地に足を着けると、意外にも自分の名前を名乗ってきた。
『我が名はスラグビス。銀河メンフィス共和国の第8師団の団長である。ここに来た目的は、惑星イグリーシアを我らの支配下に置くことである』
銀河何ちゃらってのは、前に戦った邪神のエギルって奴が所属していた国の事だな。しかも堂々と侵略宣言とは、コイツも同類か。
『ところで、先ほどの炎は貴殿らの放ったものであるか?』
「だったら何だってんだ?」
『仲間の情報では貴殿らのような危険な存在は皆無であった。もしも貴殿らがこの惑星イグリーシアの代表であるならば、速やかに降伏するよう他の者に呼び掛けるとよい』
「はぁ?」
『分からぬか? 無駄に死を迎える必要はないと言っているのである。おとなしく従うのであれば、それ相応の立場に取り立ててやってもよいが』
随分と上から目線だな。まるで巻ける気がないと見える。
『メリー、コイツも全力でブッ飛ばすぞ』
『あら、珍しくやる気ね? でもやるからには中途半端はダメよ。コイツの自我が崩壊するまで追い詰めてやらないと』
『それはメリーに任せる。その代わり力仕事は俺が担当するぜ!』
ダッ――――ガキン!
「チッ、やっぱ硬いか。なまくらな剣じゃキズ1つ付かねぇ」
『ふむ。正面から挑んでくるのは称賛しよう。だがこの惑星の技術と我ら銀河メンフィス共和国の技術を同列と捉えられるのは些か無知であろう。現状を理解し己の未熟さを省みるのなら伸び代があるというもの。さぁ、これが二度めの忠告である。次に無視するのであれば、その時は全力で後悔する事になろう』
とことん見下してやがんな。こんな奴には身の程ってやつを思い知らせてやる。
「レン、頼むぜ!」
「ほい来た!」
鉄の剣をしまい、魔剣アゴレントを手にした。それを見たスラグビスは俺たちが従わないと気付いたようで、腕をこちらに向けてきた。
「交渉は決裂であるな。残念だがここで朽ち果ててもらおう」
ズダダダダダダダダダダダダダダダ!
無数の銃弾が降り注ぎ、砂埃が舞い上がり視界を塞ぐ。こちらが蜂の巣になったと確信したであろうスラグビスは銃撃を中断――が、視界が晴れたところで奴の方から驚きの声が。
『バカな、あの銃撃で無傷だと!?』
「バカではありません。ユラの保護シールドは銃弾を通さなかった――それだけです。それよりユラは、ご自分の身を案じた方がよいと忠告しておきます」
パシィ!
『ぬおっ!?』
「足元がお留守どす」
ユラが気を引いてる間、ウルが背後に回り込んでたんだ。そこで俺が動くのに合わせて奴の足を勢いよく払った。
バランスを崩している奴に回避行動が間に合わがねぇ。そう思い、魔剣アゴレントをおもいっきり頭部へと突き立てる。
ズガァッ!
『ごぁぁぁ! さ、最新型の機体が貫通した!? バカな、あり得ん!』
「あり得んも何も、これが現実だ。ついでに言うとテメェ自身はとっくの昔に死んでるんだよ」
『な、何をデタラメな……』
「ま、口で言っても分かんねぇよな? だったらコレしか方法はねぇ。イグリーシアに手出しした事を後悔しな。懺悔夢要!」
『うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!?』
シュン!
場所は飛んで、軍服を着た連中が銃を持って待機してる物々しいフロアに出た。椅子に座ってモニターと睨めっこしてる奴らも居るし、どこかの軍事施設なのかもしれない。
前に懺悔夢要を使った時は宇宙だったが、今回もそうなんだろう。
まずは自分の姿を確認しようとしたところで、初老の爺さんが話しかけてきた。
「ここに居たかブルーノくん」
「これは艦長、自分に何か用でしょうか?」
「うむ。実はな、先発隊として送ったカタロストフの部隊だが、思いの外苦戦を強いられてるようなのだ。現在の戦況だが――」
カタロストフって言えば、無表情で何とも言えない恐怖を感じる女の事だ。前回憑依したレッドクロウはイグリーシア到着直後にワイバーンに食われたんだっけか。カタロストフの副官として立候補したエギルって男も結局は封印されてたし、イグリーシアの人たちは何とか侵略を凌いでいたんだろう。
でもってこの艦長と呼ばれてる爺さん、前回の会議で場をまとめてたお偉いさんだ。
「――という感じなのだ。どうかな?」
「承知しました。後詰めの件、しかとお受け致します」
「うむ。すでにスラグビスとアースランも中隊を率いて現地に向かった。キミも急いで後を追ってくれ。頼んだぞ」
ヤベ、考え事してたら聞き逃しちまった。けど台詞からして、俺が憑依中のブルーノもイグリーシアに派遣されるのは間違いなさそうだ。
「艦長、ムーザ隊から電報です。イグリーシアの抵抗は依然として激しく、部隊の半数がロストしたとの事です」
「半数だと!? いくらなんでも早すぎる!」
モニターを注視していた男の報告により、艦長が叫ぶ。一方の俺は心の中でガッツポーズだ。過去の出来事とは言えイグリーシア寄りなんでな。
シュン!
っと、また場面が変わったか。今度は機体に搭乗して荒野を見下ろしてる状態だ。
『こちらムーザ。ブルーノくん聞こえる?』
「はい、聞いてますよ」
『殿を任せてしまって悪かったわね。お陰で私の部隊はプリムラ帝国の隣の森まで退避できたわ』
「それは良かった。負傷した隊員の様子はどうですか?」
『……残念だけど、星と共に消え行くわ』
「そう……ですか」
星と共に消え行く。恐らくはイグリーシアで死んだ事を意味してるんだろう。
『このまま……』
「ん?」
『このまま私も消え行くのかしら。もしそうなら、いっそレッドクロウの後を追って』
「ムーザさん……」
『ごめんなさい。こんな話、貴方にするべきじゃなかったわね』
このムーザってお色気姉ちゃん。確か前回も見たけど、レッドクロウの事が好きだったらしい。うん、リア充爆発(以下略)
「とにかく、俺の部隊も一旦退きます。後ほど合流しましょう」
『分かったわ』
――と言って通信を切ったが、俺には別の目的がある。そう、ここはメリーが用意した懺悔夢要の世界だからな。今から向かうのはスラグビスの野郎のところだ。
さてと。確かスラグビスの野郎はプリムラ地方がどうとか言ってたな。つまりはプリムラ帝国を探せば――
「あった、ここだ!」
割と近い場所に居たらしく、あっさりと特定に成功。機体を急発進させた。
「さぁて、肝心のスラグビスは――っと、いたいた!」
飛べるはずなのにわざわざ地上に降りて肉弾戦を繰り広げてやがる。完全に舐めプしてやがんな。そんなアホには脳天から突っ込んでやるぜ!
『どうした、イグリーシアの者共! その程度では暇潰しにもならんぞ!?』
「だったら俺が潰してやるよ、物理的にな!」
『何っ!?』
ドッッッグァッシャーーーーーーン!
『ぐぁぁぁぁぁぁ!』
頭部と頭部が衝突し、スラグビスの操縦席が押し潰されてグロい事になっていた。それでも一応は生きてるようだな。
『な、何をするブルーノ! 血迷ったか!?』
「バカが。まだ気付かないのか? ここは現実世界じゃねぇんだ。テメェは夢を見てるんだよ」
『夢……だと?』
「ああ。周りをよく見ろ。俺とお前以外の隊員が居ないだろう? 邪魔だから削除しといたんだよ」
『確かに居ないようだが、他の場所に移ってるだけであろう』
強情だなぁ。
「ならこれでどうだ? ホイっと」
ググググググ!
『ぬぁっ!? 人間や獣人共が巨大に!?』
「創作の世界だからな。こんなの朝飯前ってやつさ。それよりお前、自分の心配をした方がいいぞ? ソイツらは散々テメェらに蹂躙されてきたからな。今さら踏み潰すのに抵抗なんか無いだろうよ」
『や、止めろ、来るな、寄るな、近付くなぁぁぁぁぁぁ――』
ブチッ!
最後は獣人の1人によって踏み潰すされたようだ。スラグビスにとっては悪夢でしかなかっただろうけどな。
さて、こっちは終わったとして、もう1つの方だ。
「おい、どうせ近くで見てやがんだろカタロストフ。隠れてないで出てこいよ!」
前回はいつの間にか真っ黒な機体で浮かんでたからな。こっそりカマをかけたつもりで叫んでみた。
スゥ……
「そこかぁ!」
ズダダダダダダダダダダダダダダダ!
気配を感じ取った方に向かって銃撃をブッ放つ。が、当然のように当たった感じはなく、遥か上空で見下ろしている真っ黒な機体を発見した。
「チッ、いつの間に上空に」
『造作もないですわ。ただ移動した先がここだっただけですもの』
しゃべった!?
「カタロストフ、お前って普通に喋れるんだな――っていやいや、それよりもお前、どうやってこの世界に干渉してやがる?」
『それは秘密にしておきますわ。対策を立てられると厄介ですもの。では失礼させてもらいますわね』
「待てこら!」
クルリと背を向けたカタロストフに向けて大ジャンプで追いかける。だがこれが予想外の現象を引き起こす事に。
『来ない方が宜しいですわよ?』
「ああ!? ビビってんのかテメェ!」
『親切心で教えたのですけれど、信じないのならそれでも結構ですわ』
ポイッ!
「ん? 何だ?」
何かを放り投げてきたのは分かったが只の石ころにしか見えず、特に避けるような事はしなかったんだが、これがかえって良くなかった。
バシィィィッ!
「グハッ! な、何なんだ今の衝撃は――ってメリー! それにレンまで!」
気付けば懺悔夢要から抜け出しており、メリーとレンが傍で倒れていた。
どうなってやがる? 確か懺悔夢要の最中は周囲の時間は止まるはず……
「大丈夫かヒサシ殿! あのボランゾという男が破傷石を投げてきたのだ!」
カスティーラが指した方向には兵士たちによって拘束されていくアムドリフェンの側近だった男の姿が。
そうか、コイツの持っていたマジックアイテムが原因か。――ん? でもそれだけじゃ時間を止めてたのに動ける理由にはならないような……って、そんな事より今はメリーとレンだ!
「大丈夫ヒサッチ~?」
「おぅ、こっちの二人はやられたみてぇだな。急いで医務室に運ぼうぜ!」
駆けつけたメンヒルミュラーの計らいで城の医務室までトラさんたちと運ぶことにした。




