異なる邪神
「危ねぇ!」
ダッ!
気付けば無意識に駆け出し、先を走っていたカスティーラを追いすがって急停止。その直後、目の前の地面に邪神の頭部から光線が照射され、真っ黒に焼き焦げた石レンガが視界に飛び込んできた。
「大丈夫か?」
「ああ……あうぅぅ……」
恐怖で固まってるようだ。
「そこのアンタ、コイツを頼む!」
「え……あ、はい!」
放置はマズイと判断し近くの親衛隊にカスティーラ任せ、俺は油断なく邪神へと注意を払った。
『フン。後少しで丸焼きにできたものを。とことん貴様らは邪魔をしてくれるな』
「んん? その声……アムなんとかって侯爵だな!」
機体から発せられる声は、隠し部屋にいたグロウス教徒の侯爵の声だ。
「アムドリフェンだ。以後見知りおけ――と言っても以後は無い可能性が高いだろうがな」
「へぇ、大した自信だ」
「そうとも。貴様のような只の冒険者は知らぬだろうが、この兵器は何百年も前に異世界から侵略してきた勢力の物なのだよ。あまりにも強力過ぎるため当時のイグリーシアの者たちには封印するのがやっとだったらしいがな」
「それをテメェが制御してるってのか?」
「フッ、その通り。発掘してなら幾度となく起動実験を繰り返したのだが、なかなか目覚めなくて諦めかけていたのだがな。それがつい先日不意に成功したのだよ」
「そりゃ悪運の強いこって」
「いや、これは天運であり天命。つまり、天が私に託したのだよ。私にグロスエレムを支配しろとな」
バカげてる。天運? 天命? そんなん、あのオルドの爺さんが託すわけがない。
それに邪神が起動したのも偶然だろう。そう思ったのは俺だけじゃなかったようで……
「アッハハハハ! 天運とかバッカじゃないの~!? お前みたいなヒッキーが天命なんて授かるわけないじゃん。それにさ~、アムドリフェンってば堂々とウッチのこと暗殺しといて只で済むと思ってんの~? ぶっちゃけハッキリ言うけどさ~、グロスエレムにお前の席ねぇから。キャッハハハハハハ!」
「フン。どこまでも不快な女め。私の居場所は私が作る。そしてこれからは私が法律となり、そうなればメンヒルミュラー、貴様はもう用済み。おとなしく消えてもらおうか!」
邪神――もといアムドリフェンがメンヒルミュラーに頭部を向けた。
当然何が起こるか理解したため、透かさず邪神に斬りかかる。
「させるかぁぁぁ!」
ガァン!
「ゴハァッ!」
予想以上に硬かったため邪神にキズは殆ど入らなかったが、頭部をおもいっきり殴打した形になり搭乗していたアムドリフェンが外になげ出され、邪神は制御を失いダラリと両膝をつく形に。
流れるような展開に周囲は呆気に取られたが、ハッとなったカスティーラが徐に立ち上がり……
「今だ、アムドリフェンを捕えろ!」
「「「ハッ!」」」
親衛隊と兵士たちが全身を打って悶絶しているアムドリフェンを拘束していく。
「クッ、離せ離さんか! 私こそがグロスエレムの頂点に立つ男なのだ。こんなところで終わってなるものかぁぁぁぁぁぁ!」
「い~や、お前は終わりだね~。何てったってウッチに手を出したんだからさ~。メンヒルミュラーちゃんはお前みたいなDQNとは釣り合わないのは分かるっしょ~」
一言余計かもだが、このおバカな女と釣り合う男なんざ存在しないだろ……。
「フフ~ン、これで一件落着だね~。メンヒルミュラーちゃんは安くはないんだぞ~」
「ハハッ。安くはない――か。で、このデカブツはどうすんだい?」
「う~ん……どうしよっかヒサッチ?」
トラさんの質問がなぜか俺にパスされてきた。
「なぜ俺に聞く!?」
「何でも引き受けてくれそうだから?」
「俺は何でも屋じゃねぇっての!」
「……コホン。では私との親睦を深めるのはどうだろう?」
「だから親睦なんて――」
「「「――はい?」」」
割って入ってきたのは何故かカスティーラだった。
「あの~、誰と誰が親睦を深めるって?」
「それは……その…………わ、私と貴殿の仲に決まっているだろう!」
「はぁっ!?」
顔を赤らめて何言ってんだコイツ!?
「はは~ん、カスッチってばヒサッチに助けられて惚れちゃった~?」
「い、いえ! べべべべ別にそういう訳ではなくて……」
「じゃあウッチがヒサッチ貰っちゃお~っと♪」
ムギュ!
「ちょっ、メンヒルミュラーさん!? そんないきなり抱き着いて――」
「も~ぅ、ヒサッチってば~。そんな他人行儀な呼び方したら激怒プンプンだぞ~?」
「いや、だからって抱き着いた上に足まで絡ませるん!?」
この教祖様、いったい何を考えてるのかと思ったら、小声で真相を耳打ちしてきた。
「ちょっとカスティーラをからかうだけだから。ほら見てみ~、全身がプルプルと震えてるっしょ~?」
「いや、だからって……」
「でもでも~、ヒサッチに惚れちゃったのは事実みたいだよ~?」
そ、それは……喜んでいいんだろうか? よく見るとカスティーラって俺より数個上くらいだろうし年齢的には全然オッケーだ。もしかして俺に春が再来したか!?
「い、いけません姫様! 外部の男と軽々しく接するなど、危険極まりない。この男は私がじっくりと調べますゆえ、どうぞ姫様はお下がりください」
「え~ぇ……。ウッチはね~、もっとヒサッチとイチャイチャしたいな~なんて――」
「お・さ・が・り・く・だ・さ・い!」
「あ~うん。分かったよ~」
そして離れ際に再度耳打ち。
「マジで怒ってるっぽいから~、後はヒサッチに任せるね~」
「お、おぅ!」
メンヒルミュラーが離れると透かさずカスティーラが近寄ってきた。
「で、どうだヒサッチ」
「ヒサシだよ」
「……コホン、どうだヒサシ。わ、私としても貴殿のような逞しい男性に出会った事がなくてだな、……そ、その……良ければ私と……し、し、真剣な、こ、こう、交際を――」
場違いだが流れに任せて交際を迫られた。離れた場所では親衛隊がキャーキャー言ってるし、男の兵士と拘束された侯爵はリア充爆発しろ的な視線をぶつけてくる。ただ一人、トラさんだけはニヤニヤしながら成り行きを見守ってるようだが。
しかし、最大の敵は身内に潜んでいた。
スゥッ!
「ちょっとアンタ! 黙って聞いてれば勝手なこと言い出してんじゃないわよ!」
「うわぁ!?」
俺の中から出てきたメリーが、開口一番で怒鳴りつけた。それに続けとばかりに他の幼女3人も口々に不満を吐き出す。
「ヒサシはボクらの所有物だかんな~! お前みたいなよそ者には渡さないぞ~!」
「レンの言う通りです。ミスターヒサシはユラたちの御主人。横取りは許しません」
「うちの飼い主に手出しせんといて下さいや」
「え……所有物? 御主人? 飼い主? ヒ、ヒサシという存在はいったい……」
困惑するカスティーラに対し、メリーがトドメの一言を言い放つ。
「ヒサシは私たちみたいな幼女が好みなんだから、アンタが付け入る隙はないの。分かった?」
「そ、そんな……」
改めてメリーたち(ネージュを含む)を一望するカスティーラ。そこでメリーの言ってる事の信憑性が増し――って、解説してる場合じゃねぇ!
「こらメリー、お前こそ勝手なこと言うな! 俺の春一番を妨害するんじゃねぇ!」
「ウケケケケ♪ もう遅いわよ。その女はすっかり信じちゃったみたいだし。ほら」
「まさか幼女愛好者だとは……。すまないヒサシ殿。貴殿の好みとは相成れないようだ……」
ヤバい、完璧に誤解してやがる!
「いや待って、誤解だから待って! お願いだから話を聞いて!」
「さらばだ、ヒサシ殿……」
「だから違うって――だぁぁもぅ!」
「ウケケケケ――イエ~イ♪」
「「「イエ~イ♪」」」
破局したのを見届けたメリーが他の幼女組(なぜかネージュも含む)とハイタッチを交わす。この悪霊め、とことん俺の恋路を邪魔する気か。
「プックククク! 残念だったなヒサシ。でもまぁ若いんだし、付き合う相手は腰を据えて見つけりゃいいさ」
「トラさんよ、貶すか慰めるかどっちかにしてくれ」
「でも貶したら怒るだろ?」
「当たり前だろ!」
ギギィィィ……
ん?
「なぁトラさん。あの邪神、動かなかったか?」
「あれって邪神なのか? まぁ呼び名はどうでもいいが。けど中は無人なんだろ? だったら動くわけねぇさ」
「じゃあ気のせいか」
ギ……ギギギギィィィ!
「動いた! 今動いた! 音もしたぞ!?」
「おいまさか……」
大きめな音に全員が邪神へと振り向く。すると……
ギギギギギギ――――ガチャン!
「お、おい、とうとう立ち上がったぞ!」
「どうなってやがる、中は無人じゃなかったのか!?」
困惑する俺たちに、アムドリフェンの勝ち誇った声が響いた。
「や、やった、やったぞ。ついに我らグロウス教祖の希望が自力で目覚めたのだ!」
「なんだと!?」
どうやらこの邪神もピラミッドの時と同じく戦わなきゃならんらしい。
『ここは……地下か? 一度地上に出るとしよう』
ズガァァァン!
「ま、待てぇ!」
天井を突き抜けて行った邪神を放置するわけにもいかず、俺たちも急いで後を追うことにした。




