秘密兵器
グロスエレム教国の首都カニエビの城にて
「ダメです、ソレらしきものは確認できません」
「アムドリフェン様、ここに無いという事は既に尽きたという事では……」
「バカモノォ! あの女は作り物だと判明したのだ。ならば必ず別の身体も用意されてるはずだ。もっとくまなく探すのだぁぁぁ!」
「「も、申し訳御座いません!」」
諦めかけていた私兵に渇を入れ、再び捜索にあたらせる。
つい数時間前、レボルという工作員がメンヒルミュラーの暗殺に成功し、その罪を冒険者に擦り付けたまでは良かった。だがそこで新たな問題が生じたのだ。
「ふぅ。まさかメンヒルミュラーがホムンクルスだったとはな」
「ハッ。貴族の間では以前より若々しくなったという噂が絶えませんでしたが、ホムンクルスとあらば頷ける話ですな」
「そのせいで残りの依り代を探す羽目になったがな。まったく、どこまでも迷惑な女だ」
「しかし親衛隊の目を盗んでメンヒルミュラーの部屋を捜索することで、こうして隠し部屋までたどり着けたのです。これに関しては正に天運というものでは?」
「フッ、かもしれんな」
奴の部屋を捜索した結果ベッドの下にある隠し通路を発見し、その先にあった小部屋に行き当たったのだ。破傷石を使ったがために開放する仕掛けを壊してしまったのは失敗だったがな。
だが仕掛けが正常に作動しない以上、他の連中がここにたどり着く事は不可能というもの。塵の一つ逃さず調べ尽くしてくれる。
「しかしあのレボルという男、上手い具合に暗殺してくれたものですな。メンヒルミュラーには子息となる存在もない事ですし、少しずつ貴族連中の切り崩しを行っていけば、いずれこの国は閣下のものに……」
「ボランゾ、油断は禁物だぞ? 陽動のために立ち上がったグロウス教徒を多数失ったのも事実なのだ」
特に魔物使いのぺジオを失ったのは痛い。それに聖獣を連れている冒険者が国内に入り込んだとの情報もあるし、もしかしたらぺジオもソレにやられたのやもしれん。
「とにかくだ。メンヒルミュラーの依り代となるものを探しだし、その全てを処分する必要がある」
「へぇ~え。処分してどうするの~?」
「決まっているだろう? せっかくメンヒルミュラーを暗殺できたのだ。奴が別の依り代で復活しないようにするため――」
「な~るほど~ぉ。アムドリフェン侯爵はこの国を乗っ取るつもりなんだね~」
「フッ、何を今さら――」
いや待て! この声はどこから!?
「曲者め、そこに居るのは誰だ!」
慌てて振り向いた私が見たのは、死んだ事になっているはずのメンヒルミュラー本人であった。
「チッ! やはり復活していたか……」
「その口振りだとホムンクルスって事はバレてるみたいだね~。まぁ今さら隠すつもりはないけど~、それにしたって暗殺とかヤバすぎっしょ~? 何だか得たいの知れない連中にいきなり襲われたんですけど~?」
「レボルたちの事か。あの連中に関してはよく知らん。ただ貴様と同行していた冒険者を罠に掛けたくて暗殺を決行したようだが。恨むなら貴様を巻き込んだ冒険者を恨むのだな」
「あ~、それ無理。ヒサッチの事は気に入っちゃったし~、恨んでもいないよ~? でもでも~、そんな事よりさ~」
そう言って大胆にも私の正面までやって来ると、呆れたような顔でタメ息をついて怒涛の流れで罵倒してきた。
「はぁ……もぅアンタのせいで最悪~。多くの人に死体を見られちゃったせいで~、この後始末とかMUで大変だし~、これでしばらくは遊びに出れないっしょ~? もうマジで空気読めないKY野郎だよねアンタって~。もうさ~、絶対女の子にモテない典型だよ~? 見ててマジでキモいんですけど~?」
よくここまで悪口が続くものだと逆に感心する。しかしここには我々以外のギャラリーはいないのだ。
「フン。キモくて結構」
「ヤッバ~、コイツ開き直った~。おバカ確定じゃ~ん!」
「ならば貴様は超がつくほどのバカという事になるな。まさかこの状況で生きて帰れるとでも思っているのか?」
「そだよ~? むしろ詰んでるのはそっちだと思うな~。――だよね~、ヒサッチたち~?」
「何っ!?」
まさか他に仲間を連れているとは!
★★★★★
「――だよね~、ヒサッチ達~?」
え……この声はメンヒルミュラー?
「お~い、呼ばれてるぞヒサシ~」
「ミスターヒサシ、貴方のせいでバレてしまいましたが?」
「まったく。詰めの甘いご主人どすな」
「いや、俺のせいじゃねぇって!」
マジで気付かれた理由は謎だが、コイツらの後ろにいた俺が真っ先に気付かれるわけないっつ~の!
『でも本当に謎よね? ホムンクルス特有のスキルでも有るんじゃないの? ちょっと興味が出てきたわ』
『間違っても解剖させてとか言うなよ? 絶対だぞ!?』
『わ、分かったわよ……』
一国の君主に聴かれたら間違いなくアウトな内容だからな。念話で釘を刺しておいた。
「――ってそんな事より助けないと! ほら、行った行った」
うるさい小娘三人集を前に押しやり、声の聴こえる方へと躍り出る。
するとそこにはメンヒルミュラー以外にも身形の良い中年男と髭モジャの爺さん、それに数人の兵士が身構えていた。
「き、貴様らは投獄された冒険者!」
驚愕の表情を浮かべるこの中年男、確か親衛隊に連行されてく時にチラッとだけ見かけたような気がするな。そして案の定俺たちの事を覚えていたみたいだ。
「さっきの会話聴いてたっしょ~? コイツが黒マグロだからとっちめちゃって~!」
は? 黒マグロ?
「それを言うなら黒幕じゃねぇか?」
「そうとも言う」
トラさんの訂正がなければ謎のままだった気がする。
「おっし。メンヒルミュラーも生きてた事だし、テメェらを捕まえれば解決だな!」
「させぬぞ!」
パキィン!
髭モジャのオッサンが何かを砕くと、中年男と兵士も一緒に消えてしまった。それはレボルが逃げる際に使ったのと同じ転移石であると思い出す。
「ああクソッ! 転移石で逃げられたか!」
「あ、無理に追わなくても大丈夫だよ~。もうアイツの邸は騎士団が囲んでるし、首都の外は遠征から戻った軍に包囲させてるから~」
「早っ!」
なんつ~手際の良さだよ!? これまでの発言からしておバカな奴だとだかり思ってたが、実は能ある鷹は爪を隠す的に装ってるのか?
「あ、でもでも~、地下通路とか作られてたら逃げられちゃうかも~。ねぇどうしたら良いと思う~?」
やっぱおバカじゃねぇか……。
「まずは落ち着け。転移石って3キロ範囲でしか移動できないんだろ? だったら首都にいる事は確実だ。それに連中はグロウス教徒って自白してたし、恐らく隠れ家的な場所があるに違いない。アムドリフェン――だったっけ? アイツに関連する邸や施設を片っ端から調べてみろ。必ず何か出てくるぜ」
「な~るほど~。さっすがヒサッチ、頼りになるなる~!」
そこからの展開は早かった。俺たちの無実が教祖本人から宣言され、晴れて無罪に。更に丸1日かけてアムドリフェン侯爵の身辺を調査した結果、侯爵が資金援助していた内の一つの教会に隠し通路が発見されたんだ。
これで黒幕共を一網打尽に出来るかと安心してたが思いのほかグロウス教徒の抵抗が激しく、メンヒルミュラーの依頼で俺たちに出番が回ってきた。
「相手は侯爵だけど遠慮なくブチのめしていいんだよな~?」
「キャハハハ! もっちろ~ん。もう顔が変形するくらいやっちゃって~」
「ホントだな~? よ~し、血が吹き出るまでやっちゃうぞ~!」
暗くてジメジメした通路にレンとメンヒルミュラーの声が響く。この先に多数のグロウス教徒が待ち構えてるってのに呑気すぎる――と言いたげな兵士の視線が後ろから突き刺さる。特に親衛隊の女からは相変わらず冷ややかな視線を向けられてて、教祖を護れなかった俺たちを信用できないとでも思われてるんだろう。
「しかし姫様。なぜよりによってこんな不甲斐ない連中をお呼びになられたので? コヤツらでは役不足もいいところですよ?」
「大丈夫大丈夫~。影武者が殺られた時は街中で油断してただけだって~。だからカスッチは心配しなくてもいいんだよ~」
「し、しかし、どこの馬の骨かも分からぬ輩を傍らに置くなど……」
「大丈夫だってば~」
メンヒルミュラーが俺たちを信用してるのが気に入らないのか、このカスティーラって親衛隊長はさっきからネガキャンしてくるな。ムカつくからちょっとだけ煽ってやろう。
「安心してくださいカスッチさん。こう見えても腕は確かなんで」
「ええぃ、馴れ馴れしく略すな! それに立場が違うのだから様を付けろ!」
「はいはい。すみませんねカス様」
「グッ! わ、私の名前はカスティーラだ! 貴様わざと言ってるだろ?」
「うん」
「即答!? ていうか姫様からも何か言ってやってください!」
「キャハハハ! なんか面白そうだから今度からカスって呼ぶね~」
「そ、そんな!」
「おい止めたれ……」
そんな風に軽口を叩いていると、通路の先で待機していた兵士たちが「この先です!」と訴えてきた。何でも開けた場所に巨大なゴーレムが配置されていて、ソイツのせいで先に進めないらしい。
「へぇ、秘密兵器が通せんぼしてるってか? だったら尚さら俺らの出番だな!」
「待て! 貴様らに頼らなくとも、我々親衛隊だけで蹴散らしてくれる!」
銃を構えたトラさんを押し退け、カスティーラと仲間の親衛隊が駆け出して行く。
俺たちも後を追うと、通路を出た先に全長5メートルはあるかと思われる巨大な機体が鎮座していた。
そしてあちらこちらに設置された燭台に照らされたグレーの機体には見覚えがる。
「コイツ、ピラミッドに封印されていた邪神にそっくりだ!」
見間違えるはずもない。メリーの懺悔夢要で完全に目に焼き付いてんだからな。
そんな邪神に突撃していく親衛隊だが突如として邪神の頭部が赤く光りだし、親衛隊を見下ろすようにノソリと動き始めた。
それを見た瞬間、ピラミッドで焼き焦げた貴族たちを思い出し、気付けば俺は動いていた。
「危ねぇ!」




