教祖の秘密
「遅かれ早かれ貴様らは全員処刑だ。それまではつつがない時を過ごすんだな!」
ガチャン!
頑丈な鉄格子の中に俺たちを押し込み、カスティーラとかいう女は立ち去っていく。確か親衛隊の隊長とか言ってたか? よりによって一発アウトな奴に見られちまうとはな……。
「しっかしドジっちまったなぁ。俺としたことが正面から来ていた暗殺者に気付かなかったとはよ」
「いや、俺たちも注意すべきだったよ。街中で油断しちまった。というかアレだな。トラさんを巻き込んじまったみたいで、寧ろ悪いと思ってる」
「ハハッ、気にすんな。それより一つ教えてくれ。あの黒ずくめの連中は何なんだ?」
「ああ、それは――」
ここまで来たら隠す必要もないだろうと思い、レボルとの経緯を一から説明した。地下牢に入れられて暇だったしな。
「なるほどな。そりゃまた面倒な縁が出来ちまったなぁ、ハハハハ!」
「笑い事じゃないわよ! オートマタだから何度倒しても襲ってくるんだから、相手してられないわ!」
「だよな~。ストックが有る限り何度でも来るって言ってたし、正直飽きてきたよな~」
オートマタだから感情がなく、メリーの拷問は無意味。そしてオートマタだから血が流れるわけじゃなく、レンの楽しみも無い。ついでに金も落とさねぇし、ホンっと戦うだけ無駄!
「しかも実力では敵わないと理解した……ようで、ユラたちの動きを封じて……きました」
「君主殺しと他国まで広がれば、そのうち賞金首に昇格どすな。これは1本取られ申したわぁ」
「感心してる場合かっての! そうなる前に手を打つんだよ!」
「ではミスターヒサシ、作戦の立案……を」
「え?」
「言い出しっぺの法則どす」
「うぐっ……」
って言われても、まずはここを出なきゃ始まらねぇ。けど出たところでどこに向かえばいいのか見当もつかねぇし、参ったなこりゃ。
やっぱこういう時は年長者に頼るのが鉄則だろう。
「ネージュ、何か名案はないか?」
「…………」
「お~い?」
「……しいです」
「ん?」
「おかしいのです、あの人」
「あの人って?」
「メンヒルミュラーです!」
「「「……はい?」」」
突然声を荒らげたネージュにその場の全員が面食らう。
「どうしたんだ? そんなに怒鳴るなんて、ネージュらしくないぞ~?」
「レンちゃんは――いいえ、皆さんは気付かなかったのですか!? メンヒルミュラーの異常さに!」
異常さって……
「そりゃ発言がおバカ過ぎてコイツ本当に教祖かって今でも疑問に思ってるが、取り敢えず落ち着け。だいたい今は故人を悪く言ってる場合じゃ――」
「そうじゃありません! ……いえ、確かに思考回路がおかしいとは思いましたが、わたくしが言いたいのは別の部分です」
「というと?」
「あの女、普通の人間じゃなかったです!」
「え……」
「「「えええっ!?」」」
これまたビックリ発言だな。おかしいとは思いつつも頭の悪いJKくらいにしか見えんかったし。
「話しているうちに気付いたのです。会話をする時に普通の人間だと、毎回微妙にタイミングが異なるのですけど、あの女は寸分違わず切り返してきたのです」
「考え過ぎじゃない? ちゃんと熱源は感じたし、人間としか思えなかったけど」
「血も通ってたしな~」
「そんな……まさかこの二人を欺くなんて……。でもユラちゃんには分かりますよね?」
メリーとレンに否定されてユラにすがるネージュ。切り返しが一定とか偶然だと思ってたんだが、ここでユラから意外な一言が。
「ネージュの言う通り……ですね。ユラの分析によりますと、言葉を発するタイミングが異常なほど一定……でした。少なくとも並の人間にできる芸当では……ありません」
「普通じゃないって……それはアレか、レボルみたいにオートマタだって言いたいのか?」
「いいえ。オートマタよりも精密に造られた人間……です。メモリーを引用……すると、ホムンクルスという存在が適切と思われ……ます」
「ホムンクルスかよ!」
あんなおバカなホムンクルスを造る理由って何だ? リーダーシップとかカリスマとか無縁そうに見えたぞ? いや、割とマジで。
「……コホン。ホムンクルス云々は置いといてだ。現状メンヒルミュラーが死んだ事には変わりない。生きてるってんなら別だが」
「生きてると思いますよ?」
「だろ? つまり何も変わらな――」
「ネージュ、今何て言った?」
「ですから、生きてると思いますと言ったのです。ホムンクルスの話なら何度か聞いたことがあって、時間と資材さえあれば量産も可能だとか」
「じゃあ何? もしかしたらレボルみたいに現れたりするって言うの?」
「とは言えないかと」
もしそうなら
「おっしゃ! そうと分かればこんな牢獄からとっととずらかろうぜぇ!」
寝っ転がっていたトラさん銃を手に起き上がると、他の面々も続いて立ち上がる。
「脱獄がバレたら全力で殺しにくるだろうし、こっちも全力で応えようぜ。憑依合体だ、メリー!」
「賢明ね。でも戦闘は私がやるからね!」
メリーに憑依してもらい、俺自身もほぼ無敵状態に。あとはネージュを護りつつ進めばいい。
「敵に捕捉されるまでは隠密行動を推奨……します」
ジジジジ――――パキン!
ユラがレーザーで鉄格子を切断し、こっそりと脱出。他の囚人は寝静まった後のようで、尚さら都合が良い。
足音を立てずに通路を進むと、階段付近でウトウトしている見張りを発見。ユラが素早く接近して……
「ふぁ~~~ぁ――ふぐっ!?」
「このナイフには毒が塗ってあります。おとなしく質問に答えれば殺しはしません。よろしいですね?」
「………」コクコク!
「では質問です。メンヒルミュラーの部屋はどこです?」
「だ、だが教祖様はすでに亡くなられ――」
「いいから答えなさい。死にたいのなら望み通りに致しますが」
チャキ!
「ヒッ! わ、悪かった、ちゃんと答えるよ。教祖様のお部屋は……」
見張りの兵士を先頭に立たせ、メンヒルミュラーの部屋へと急ぐ。途中ですれ違う兵士には城内を案内されている風を装い、うまく部屋の前まで来れた。
今思えば投獄されてるのを知ってる兵士と鉢合わせたらアウトだったな。我ながら運が良かったと思う。
「ここだ。ここがメンヒルミュラー様の――」
「ご苦労でした。しばらく休暇を与えます」
ドスッ!
「クッ……」
案内役の兵士に休暇という名の気絶を与え、部屋の隅に放り投げた。
「これでよしっと。で、何をどう調べりゃいいんだ?」
「メンヒルミュラーをホムンクルスと仮定した場合、自己防衛的な機能を有していると推測……できます。レボルのように身体のストックが残っていれば、新たな身体が起動しているものと思われ……ます」
それって、どこかでメンヒルミュラーが復活してるって事か? それ何つ~ホラーだよ!
「なによ、それだったら慌てて捜す必要ないじゃない」
「メリー、その考えは危険……です。レボルたちが動いてる以上、メンヒルミュラーのストックが全て破壊されるのを阻止……しなければ」
「つまりレボルたちより先に見つける必要があるんだな」
「はい。それに側近の話によると、メンヒルミュラーが部屋から出た形跡がなかった……との事。ですよねネージュ?」
「そうです。街中を移動中にミュラーちゃんにも聞いたら、自室にちょっとした秘密があるのだと教えてくれました。壁や床、天井などに仕掛けが施されてるのかも……」
そこで皆一斉に怪しい箇所がないかと調べていく。棚を動かしたり窓から外を見てみたりな。
俺はというと、真っ先に思い付いたのはベッドの下だ。色々隠せて簡単に取り出すのにも便利な場所だぜ――と思ったんだが……
「なぁんだ、ベッドの下には何もないのか」
『バカね。アンタのエロ本と一緒にしてんじゃないわよ』
『何で知ってんだよ!』
『顔に書いてあるわ。というかアンタってホンっと分かりやすい性格ね』
『そ、そうか?』
『褒めてないわよ! それより私が憑依してるんだから、壁とかすり抜けてみなさいよ。その方が早いわ』
『その手があったか!』
メリーの助言に従いベッドの下を突き抜けてみた。今の俺なら幽霊と同じく壁や床は障害にならないからな。
で、そのまま床下に潜ってみると……
「お、ビンゴだ。床下に通路があるぞ!」
「おぅ、ナイスだヒサシ!」
「そうやけども仕掛けが見当たりまへんなぁ。どないします?」
「もちろん強行突破……です」
ジジジジジジ――――パカン!
「行きま……しょう」
床をキレイに切断したユラが再び先頭に立ち、真っ暗な通路を進んでいく。大人1人が辛うじて歩けるスペースで、松明で照らされた壁や床は大理石のような高級感のある石が光沢を放っていた。
まさに王族の抜け穴ってやつ? けどサザンブリングでも王族の洞穴を通ったが、ここまでキレイじゃなかったよなぁ。そもそも他人に見せるわけじゃないから装飾する意味はないんだけどな。
「ミスターヒサシ、松明の炎を消してください。この先に人の気配があります」
「分かった」
――と、ユラに言われて消したところで気付いた。
「人の気配ってメンヒルミュラーじゃないのか?」
「そうかもしれませんが反応は複数です。レボルたちの可能性もありますので、十二分に警戒を」
そうだったな。ついさっき煮え湯を飲まされたばかりだし、これ以上冤罪を押し付けられないように注意しないと。
「そこのT字路の右側に反応あり。バレると逃げ場はないので、言葉を発するのは避けてください」
口元に指を当てるユラに対して全員が無言で頷く。そして摺り足で曲がり角ギリギリまで近付き、聴こえてくる会話に耳を澄ました。




