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闇討ち

 グロスエレム教国首都カニエビの城門付近にて


「ボランゾ、首尾はどうか?」

「ハッ、全部隊が配置に着きました。いつでも突入可能です」

「フッ、いよいよだな」


 今夜ついに国家転覆の時となるのだ。そのための準備として、昼間のうちに少しずつ私兵を潜ませていた甲斐があったというもの。

 後は一斉に城内へとなだれ込み、速やかに城全体を制圧する。加えてメンヒルミュラーが国を捨てて逃亡したとでも吹聴すれば、後になって現れたところで奴の復権は皆無であろう。


「機は熟した。これより首都カニエビをエレム教徒の魔の手から解き放つ。全部隊、城に一斉突入――」

「お、お待ちください、アムドリフェン様、ボランゾ様!」


 私の台詞を遮るように、伝令の私兵が被せてくる。水を差された私は強い口調で咎めると、衝撃の内容を吐き出してきた。


「いったい何事か?」

「それが……メ、メ、メ、メンヒルミュラーが帰還致しました!」

「な、何だと!?」

「東門から入ろうとした冒険者一味の中に紛れていたとの事です。夜間につき入場を阻止したところ、自分はメンヒルミュラーだから中に入れろと騒ぎ始め、鑑定スキルを所持している者が見たところ本人であると発覚。現在こちらに向かってきています」

「ちぃ!」


 何と間が悪い。今行動を起こせば、奴と正面から対峙してしまうではないか!


「やむを得ん。作戦は一時中断だ。新たな指示を出すまで待機を――」

「お困りのようだな? アムドリフェン侯爵」


 突如割り込んでくる聞き覚えのない声が辺りに響く。声のする方を注視すると、全身黒ずくめの男たちがゆっくりと暗闇から近付いてきた。


「――だ、誰だ貴様は!?」

「俺の名はレボル。部隊をまとめる工作員のリーダーだ」


 工作員だと?


「その怪しげな工作員とやらが何の用だ?」

「すでに把握してるだろうが、我々はメンヒルミュラーと共にいる冒険者たちを始末したのだよ。そのついでと言っては何だが、メンヒルミュラーを葬ってやろうと思ってな」

「…………」


 自信満々のようだが、素性の分からん奴を信用できんし信頼もできない。だが何も手を打たなければ計画は水の泡。ここは一つ……


「アムドリフェン閣下、こやつらは怪し過ぎます。どうか気を確かに」

「ボランゾ、お前は黙っていろ。それで……レボルと言ったか。貴様の要望は何だ? 返答によっては不可能な場合もあるぞ?」

「フッ、なぁに簡単な事だ。件の冒険者をメンヒルミュラー殺害の容疑者として公表してもらう。それだけだ」




 よほど冒険者に恨みがあると見える。だがこちらとしては好都合だ。その案に乗っかってやろうではないか。


「いいだろう。取引成立だ」

「フッ。では吉報を待つがいい」



 スッ――



「消えたか」

「し、しかしよろしいのですか? あのような輩を信用するのは……」

「案ずるな。もとより信用などしてはいない。だが上手く行けば儲けものだろう? 特に不利益となる内容は無いのだし、精々利用させてもらおうじゃないか」



★★★★★



 グロウス教徒からナスタールの街を解放した俺たちは、トラさんの爆走のお陰で僅か三時間程度で首都に着くことができた。

 しかし日が落ちた後だったために門は固く閉ざされており、入りたければ明日出直せと門番に言われたのがついさっき。

 それなのになぜ街の中を歩いてるのかというと……



「まぁ~~~ったく! 誰にも告げずに姿を消してしまわれるとは、いったい何を考えているのですか!」

「キャハハハハ! アイムソ~リ~、ヒゲソ~リ~♪」

「ヒゲソ~リ~♪ ――じゃ御座いません! 夜間に街の外から現れた挙げ句に()()()だから早く入れろと命令するなど、我が国の品位が落ちてしまいますぞ――」




()()()()()()()()様!」


 そう、このおバカなJKの正体は貴族令嬢なんかじゃなく、教祖であり国家首席でもあるメンヒルミュラーその人だったんだ。

 思えばミュラーって名乗った時点で気付くべきだったんだろうが、まさかあんなところで――しかも教祖がメイドのコスプレしてるとは思わなかったぞ。


「出掛けるなら出掛けるで、せめて側近のわたくしめにだけはコッソリと教えてくださらないと」

「でもでも~、友達にはちゃ~んと言っといたよ~?」

「わたくしは友達以下ですか!」

「そだよ~?」

「グハッ!」

「おい止めたれ。側近のオッサン、もう体力ゲージがゼロだぞ多分」


 門番に通せんぼされてるところに側近が来たから入れたんだ。もう少し労ってやれっての。


「くぅ~~~、こうなったら姫、わたくしめとお友達になりましょう! そうすれば外出の際に一声かけていただけるのですよね!?」

「え~~~!? でもソッちゃんってウッチの太ももとかメッチャ凝視してくるから正直キモいんだよね~」

「ゲハッ!」

「だから止めたれって……」


 まぁコイツは教祖のくせしてミニスカ履いてやがるから気持ちは分からんでもない。


「と、ところで姫、この冒険者たちは何なのです? ――ハッ!? まさか、姫様を(たぶら)かして外へ連れ出したのは!」

「いや違うから」

「そだよ~、ソッちゃんってば胆略的すぎ~。そんなだからボッチなんだぞ~?」

「ゴハッ!」

「だ~か~ら、いちいち心をへし折ろうとするんじゃないっての!」


 なんつ~か側近のオッサン、そろそろ胃潰瘍になるんじゃなかろうか。俺は何もしてやれないが、せめて強く生きてほしい。


「あ、そ~だ。ヒサッチたち、今夜はお城に泊まる~?」

「いや俺たちは――」

「だよね~、泊まるよね~! そういう訳だからソッちゃん。帰ったら部屋の用意をお願いね~」

「は、はぁ……」


 いやもう、ここまで来たら側近が可哀想で仕方がない。

 俺は側近に対してソッと耳打ちを開始した。


「大変そうッスね。それになんだかすみません。俺たちが押しかけたせいで迷惑かけちゃってるみたいで」

「いえいえ、メンヒルミュラー様はわたくしの全てですので、この程度は苦痛ですらありませんよ。ハハハハ……」

「顔が死んでるようですが」

「それ、メッチャ元気な証拠じゃない」


 お前(悪霊)を基準にするな。


「つ~か急に割り込んでくるなよ。ミュラーに気付かれるだろうが」

「大丈夫でしょ。ネージュとの会話に集中してて聴こえてないみたいだから」


 あんなにエレム教を嫌っていたネージュがすっかりミュラーと打ち解けてやがる。どういう心境の変化なのかと思ってたら、何やら美肌効果や若さの秘訣などのフレーズが混じってるようだ。

 んん? 若さと言えば……


「そう言えばオッサン。メンヒルミュラーは30代の女性だって聞いたんだが、どう見てもそこまで歳食ってるようには見えないぞ?」

「フフン、それこそがエレム教の奇跡なのですよ。信仰心は年齢をも凌駕(りょうが)する。素晴らしいでしょう? わたくしめもすっかりあのミニスカの太ももに釘付けで御座います」

「ああ、そうかよ……」

「ですがこういう噂も御座います。実は人外なのではないか――と」

「人外? けどそれって――」

「キャァァァァァァ!」


 前を歩くネージュが悲鳴をあげた。何があったかと思えば、ネージュの服が血で染まってるじゃないか! 

 何者かに襲われたのかと全力で駆け寄ると、事態はより一層深刻であると思い知らされることに。


「う、嘘……だろ?」

「そんな……メンヒルミュラー様が!」


 ネージュの足元にメンヒルミュラーの首が落ちていたんだ。そう。つまりは即死だ。

 そして暗闇の向こうに見えるのは、巨大なチェーンソーを構えたレボルの姿が!


「クッ、またお前らか!」

「その通り。まさかこうもすんなりと不意討ちが成功とは思わなかったがな。自分たち以外に対しては注意が足りないようだなぁ?」

「余計なお世話だ!」

「そうよ。それにこの場でアンタらを倒せば、少なくとも誤解は解けるもの」

「フッ、残念だがそうはいかん。サラバだ」


 パキン!


 メリーより先にレボルが動く。奴が手にしていた白い石を砕いた瞬間、突然目の前から姿を消した。


「い、今のは……」

「メモリーによると、転移石のようです。あの石を砕くと、自身の周囲3キロの範囲で瞬時に移動できるのです」

「つまりは逃げられたってか、クソッ!」


 レボルを逃がした事に内心苛立ったが、今はそんな事を気にしてる場合じゃない。

 しかし、焦る俺たちに対して更に追い討ちをかける事態が!



「お前たち、そこで何をしている!」



 多くの女兵士が城の方から現れたんだ。すると当然メンヒルミュラーの亡骸が目に入るわけで……


「む? 血だらけの女性が倒れ――って、メンヒルミュラー様ではないか! 貴様らがやったのかぁぁぁ!」

「違う誤解だ! やったのは全身黒ずくめのレボルって男で――」

「だけらまえ…問答無用! 親衛隊隊長であるこのカスティーラが貴様ら全員捕らえてくれる!」

「だから誤解だっての! ちゃんと証人だって――」


 ――って側近のオッサン気絶してらぁ!


『どうすんのよ? このままだと捕まるわよ?』

『つっても逃げたら認めちまうようなもんだ。悔しいが一旦はおとなしくしとこう』


 不覚にも国家首席を殺した罪で捕らえられた俺たち。何とかして誤解を解かねぇと!

 


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