魔物使い
首都カニエビに比較的近い大都市ナスタール。その街から脱出してきた住民たちの話では、夜襲を仕掛けてきたグロウス教徒により街が陥落したのだという。
首都に逃げようにもそちらの道は封鎖されていたため、仕方なく反対方向へと逃れてきたところに俺たちと遭遇したらしい。
ものはついでって事で、俺たちはナスタールを取り戻すべく住民たちを引き連れUターン――というのは建前で、メリーたちの【誰でもいいからブッ○したい】という欲求を叶えるため、共に街を目指す事にしたんだ。
「トラさんってマジ凄くな~い? 100人乗れる馬車なんて聞いたこともないよ~!」
「わたくしも聞いた事ないです~!」
『ガッハハハッ! 軽トラの俺が本気になればこんなもんよぉ!』
ミュラーにネージュよ、軽トラは馬車とは違うぞ。というかな、四車線の道路を完全に塞ぎそうな幅の軽トラなんざ軽トラとは言わん!
「あの~、本当に大丈夫でしょうか? 貴方たちが普通ではない事は理解しましたが、なにぶんグロウス教徒の中には魔物を使役する者もおりまして……」
「それはさっきも聞いたわ。だから始末してやろうって言ってんじゃない」
「ですが……」
「しつこいわね。そんなに疑うんならアンタの身体で実証してやりましょうか!?」
「い、いえ、決してそういう訳では!」
「はいはいストップ。あんま一般人を困らせんな。ほら、ナスタールの街が見えてきたぞ」
トラさんの速度であっという間に街へたどり着き、門を封鎖しているグロウス教徒が慌てて迎撃態勢をとろうとしていた。
「て、敵だ敵襲ーーーっ!」
「うるさいですね。そんなに叫びたければあの世でどうぞ――フィンガーレイ」
ドシュ!
「ギャッ!?」
「ひぃっ!? バ、バケモノだぁぁぁ!」
「うわぁぁぁ!」
ユラの指先から放たれた光線がグロウス教徒の頭部を貫く。それを目の当たりにした周囲の連中は、武器を放り出して街の中へと逃げ込んでいった。
「待て待てまて~~~! ボクの剣からは逃げられないぞ~~~!」
「レン、抜け駆けは許しませんよ」
「そないならウチも行かせてもらいます」
剣を振り回すレンの後をユラとウルも続いて行く。
「トラ、ここでネージュたちを護っててちょうだい」
「なんでぇ。俺も一暴れしようと思ったのによぉ……」
「いや、トラさんが人化解いたら住民たちが危険に晒されるって」
「そういう事。じゃあヒサシ、行くわよ」
「おう! ――って俺も!?」
「当たり前でしょ。グロウス教徒はいくらでも殺していいんだから、この機にレベルを上げなさい。ほら!」
「うおっ! 引っ張んなって!」
街に入るや否や、メリーはグロウス教徒を無視して奥へと疾走。途中で手を離された俺は、グロウス教徒に取り囲まれる羽目に。
「不届き者のエレム教徒め、ここが貴様らの墓場だ――ゴハァ!?」
「クソゥ、エレムのクズ共が――ゴフッ!」
「何をしている!? さっさと――ゲハァ!」
「喋ってる暇があるなら斬りかかってこいよ、バ~カ」
レベル100を超えてる俺にとっちゃグロウス教徒なんぞド素人の集団でしかない。囲まれたところでムダムダムダァァァってな!
「マ、マズイぞ! このままじゃ街を奪い返される!」
「バカ言え! たかが数人の冒険者相手に逃げるわけにも行くまい!」
「こうなればぺジオ様だ。ぺジオ様をお呼びするのだ!」
ぺジオだと? そう頭の中で呟いた瞬間、
「クェ~~~!」
「空か!」
デカイ竜みたいなのが体当たりしてきたので、咄嗟に飛び上がって回避した。
再び上昇していくソレを目で追うと、背中を足場にして腕組みをしている男がいるのに気付く。
「「「ぺジオ様!」」」
「待たせたね諸君。ここはボクに任せて、中心街で暴れている者の対処を頼むよ」
「「「ははぁ!」」」
その場にいるグロウス教徒が空に向かって一礼し、街の奥へと走って行く。つ~か俺が敵の大将と戦うのか? まぁレベルが上がるなら別にいっか。
「……んで、テメェがぺジオか?」
「確かにボクの名はぺジオ。だが愚かなエレム教徒がその名を軽々しく口に出すとは何事かね?」
「ハァ?」
「キミたちエレム教徒が口に出すのは許されないと言っているのだよ」
「許されないって? はん、だったらどうするってんだ? 俺が怖くて空を逃げ回る奴が言う台詞じゃねぇな」
「フフ、そんな安っぽい挑発には乗らないよ。だが相手をしないのも可哀想だ。エリザベス、彼にトルネードアタックを見せてやれ」
「キェ~~~!」
ぺジオが近くの屋根に飛び降りると、飛竜が全身を高速回転させながら突っ込んでくる。
「よっと!」
ズガーーーーーーン!
「キェ~~~~~~!」
「へっ、家屋1つを丸々破壊するところはビビったが、当たらなきゃ意味ねぇぜ!」
「キェキェ~~~!」
「フッ……」
悔しそうに上昇する飛竜とは対称に、ぺジオの野郎は余裕の笑みを浮かべ……
「なるほど。身のこなしを見るにベテラン冒険者のようだね。レッサーワイバーンは平地でこそ実力を発揮できる魔物。キミの相手は別の魔物にさせるとしよう」パチン!
スナップをした直後、ぺジオの背後から黒い影が飛び出して来る。その影は何の迷いもなく俺の元へと一直線に突進してきた!
ガキィィィン!
「…………」
甲冑を着こんだ禍々しい雰囲気の騎士が鍔迫り合いの最中に無言で威圧してきた。
「へぇ……死霊騎士の剣を防ぐなんて、中々やるじゃないか」
「デスナイト? つ~ことはコイツは死んでるって事か!」
「その通り。死者だから痛みも感情もない。全身を切り刻まない限り、ソイツは襲うのを止めないぞぉ? アッヒャヒャヒャヒャ!」
何かの資料で見た記憶があるが、デスナイトはCランクの魔物だ。それこそベテラン冒険者が徒党を組まないと厳しい相手。
「だが、今の俺なら!」
ギギギギギ…………キィン!
「やべ、剣が!」
「…………!」
手から離れた剣が宙を舞い、チャンスとばかりにデスナイトの剣が振り下ろ――
ズバズバズバズバッ!
「アハッ♪ ボクの剣はよく斬れるんだよ~!」
――される事はなく、レンによって微塵切りにされた。
「ふぅ、助かったぜレン」
「あんなのにやられそうになるなんて、ヒサシもまだまだだな~」
「でもデスナイトだぜ? 苦戦するのが普通じゃないのかよ」
「でもヒサシは普通じゃないだろ~?」
確かにレベル100オーバーは普通とは言わないか。でもってぺジオの精神状態も普通とは言い難くなっていき……
「そんな……あ、あり得ないだろ? だって死霊騎士はCランクだぞ!? ベテランの冒険者だって単独じゃ厳しい相手なのに、それをたった1人の小娘が!」
「別に何体居ようが変わんないぞ~? それにお前の方こそ気を付けた方がいいぞ~」
「何だと? ――うあっ!?」
ぺジオが俯かせた顔を上げて見たものは、血塗れになって落下していくレッサーワイバーンの姿だった。
更に上空では、腰に手をあてドヤ顔のメリーがぺジオの野郎を舌舐りして見下ろしている。
「アレが自慢のペット? ちょっと翼をへし折って目をくり貫いただけなのに、簡単に気絶しちゃってつまんないわ。この責任、どうやって取るつもりよ?」
「せ、責任だと? いったい何を――」
「鈍いわねぇ。物足りないって言ってんのよ。ペットの責任は飼い主の責任なんだから、アンタが身体で払いなさいよ。ウケケケケ♪」
ザシュ!
「ひぎゃぁぁぁ!?」
草刈り鎌で斬られたぺジオが血で染まり、戦意を喪失してその場にへたり込んだ。
「あ、言っとくけど魔物を呼んでもムダよ? ユラとウルが刈り取ってる最中だから、アンタを助けてる余裕なんてないと思うわ」
「そんな!」
「ニヒヒヒヒヒ♪ そんな絶望した顔しないでよ。これからたっぷりと時間を掛けて、アンタをいたぶってあげるから――懺悔夢要!」
「うわぁぁぁぁぁぁ!」
はい御愁傷様。今回も何だかんだでメリーたちに助けられたか。やっぱもう少し鍛えた方がいいのかもな。面倒だけど。
「ようヒサシ。どうやら街を取り戻せそうだな」
「トラさん、来ちまったのかよ」
「ああ。レッサーワイバーン落ちるのを住民たちが目撃してな、それだけ強いならもう安心だって言い出してよ。それに柄にもなくミュラーが街の様子を心配し出してな」
「柄にもなくって酷くな~い? これでもメッチャ心配してるんだからね~。も~プンプンだぞ~」
最後の台詞で全てが台無しになってるけどな。
「それにしても、これだけの大都市が落とされるなんて、ここには守りの兵がいないのですか?」
「ネージュの言う通りだぜ。あの魔物は厄介だったが、大勢で対処すれば……」
「それなんだけどね~。もしかしたら~、首都でウチが居なくなったから捜索に駆り出されたのかも~」
「はぁ!? それが本当なら迷惑すぎるぞ!」
「アッハハハハ! ゴメンゴメ~ン。今後はなるべく控えるからさ~」
「なるべくじゃなくて絶対!」
ったく、どうして貴族ってのは頭のネジが緩んでる奴ばっかなんだ……。
「お~い、キミたち~!」
「ん? あれは……」
見ると冒険者と冒険者ギルドの職員らしい連中がこちらに走って来ていた。
「キミたちがそこのぺジオを倒してくれたのだね!? ギルドを代表して感謝するよ、ありがとう!」
「けどまだ解決しちゃいねぇんだ」
「と言うと?」
「首都のカニエビで何やら事件が起こったらしくてね、多くの兵たちが首都を目指して出発したようなのだ。そこをタイミング悪くぺジオ率いるグロウス教徒が襲ってきてね、その後は見たまんまだよ」
「もしかしたら首都も同じ事になってるかもしれねぇ。俺たちはこれから首都に向かうんだが、アンタらも協力してもらいたい」
こりゃエレム教云々と言ってる余裕は無さそうだな。




