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モエモエキュン

「7名様ご案な~い! 注文が決まったら~、そこのボタンをモエ押ししてね~♪」

「お、おう……」


 メイド服を着たギルド職員に促されて隅っこのテーブル席に着くと、メニューを置いて奥へ引っ込んでいく。


「つ~かここって冒険者ギルドだよな? なんだって軽食を提供してるんだ?」

「見ての通り鉱山に囲まれた場所だからよ、まともな飲食店が無いってんで冒険者を呼び込むためにメンヒルミュラーが考案したスタイルなのさ。若いギルド職員の間でもここへの配属を希望してる連中は多いらしいぞ」


 よく見りゃギルド職員はみんな若い女の子のようで、他の冒険者がいるテーブルにせっせと飲食を運んでいる。渡す際に両手でハートマークを作るのも怠らず、男の冒険者(というか冒険者は男しかいねぇ……)は終始デレデレしっぱなしだ。


「ちょっとヒサシ、な~に鼻の下伸ばしてんのよ」

「の、伸ばしてねぇって!」

「ボクとメリーは罰ゲームで注文できないんだから、さっさと決めろよな~」

「分かってるよ……」


 鼻の下は伸ばしてないが、メイドさん(ギルド職員)を見ていたのはバレたらしい。

 できればじっくりと眺めたいがコイツらがいるとそれも叶わん。場所は覚えたし、今度はこっそり1人で来るとしよう。


「わたくし決まりました」

「ユラも決まり……です」

「ウチもオ~ケ~どす」

「俺はとっくに決まってるぜ」

「んじゃオーダーするか」



 ポチッ



 キュインキュイン♪



「は~い、只今お伺いしま~す♪」


 お伺いはともかく、この派手な音は何なんだ? おまけに押したボタンがパトランプみたいに回ってるし。


「このボタンもメンヒルミュラーが?」

「そうなんじゃねぇか? 詳しくは知らんけどな」

「…………」

「可愛くていいじゃありませんか。わたくしは好きだすよ?」

「まぁ……はい……」


 もう突っ込まないようにしようと心に決めてオーダーを通して数分後、スパイシーな匂いのする皿をギルド職員が運んできた。


「お待たせしました~! メイプルパンケーキ、ミートソースパスタ、ウェルダンオークステーキ2つ、カツ丼になりま~す!」

「すげぇ、本物だ!」

「……はい?」

「い、いや、なんでもない!」


 思わず口に出ちまった。まさか日本のファミレスと同じもんが出てくるとは思わなかったんだよ。


「かぁ~、うめぇ! 長距離運転で疲れた時にゃ丼ものが一番だぜ!」

「このパンケーキ、すっごくフワフワでとても美味しいです~! 100年以上生きてて初めて出会いました!」


 トラさんはともかく、ネージュの感想は納得いくものだ。なぜなら、この世界の食べ物は基本味が濃い(貴族向け)か薄い(庶民向け)かの違いしかないからな。


「そのパンケーキ、随分と美味しそうじゃない」

「はい。メモリーにもこれほど美味なものは存在……しません。もはや革命的な美味さと言ってよい……でしょう」

「ウケケケケ♪ じゃあ私にも寄越しなさいよ。美味しくいただいてあげるから」

「メリー、貴女とレンはペナルティで食せないはずでは?」

「フン、バカね。注文をできないとは言ったけど、食べられないとは言ってないわよ」

「そうだそうだ~、ボクたちにも寄越せ~!」

「なっ!? 二人とも、はしたない真似はお止しい!」

「お前ら……」


 しかし取り合いになるほど美味いのは事実だ。この料理を作ってるのは転生者か転移者なのではと思えてくるくらいに。もしかしたら同郷のよしみで流通ルートを教えてくれるかもだし、是非とも調理してる奴とコンタクトを取りたい。


 キュインキュイン♪


「は~い、お呼びですか~?」

「うん。この料理を作ってる人を紹介して欲しいんだ。一言お礼を言いたくて」

「あ、え~と……、本人は大変忙しいので、私の方から伝えておきますね!」

「いや、できれば直接礼を言いたい」

「申し訳ありません。仕事中の料理人は厨房から離れてはいけない規則なんです」

「なら俺が直接言いに行くよ」

「そ、それもお断りしてます。厨房は関係者以外立入禁止ですので」


 露骨に拒否してくるな。見られちゃマズイ物でもあるかのようだ。

 そんな態度をとられると余計に気になってくるもので、どうやって説得しようかと高速シミュレートをしていると、奥から出てきた別の女の子が割って入ってきた。


「キャハハハハ! おに~さん、そんなに料理人が気になるの~? それとも味の秘訣が気になった感じ~?」


 陽気に話しかけてくるこの子もメイド服を着ており、茶髪をツインテールにしたJKくらいに見える。


「うん。まぁ両方かな」

「キャハハ! おに~さんってばメッチャ素直~。ウッチちょっと気に入っちゃったかも~。そんなに気になるなら奥で話す~?」

「「えっ!?」」


 俺とギルド職員が同時にハモる。まさかそっちから誘ってくれるなんてな。


「い、いいんですかメン――じゃなかった、ミュラーちゃん?」

「ジョブジョブ、大丈夫~。えっちぃのを目的にしてたら追い返してたけど~、見た感じ純粋に気になってる感じ~? みたいな~?」

「ですけど……」

「大丈夫だって~。何かあってもウッチが責任とるから、何にも問題ナッシングゥ♪」

「は、はぁ……」


 このJKっぽい少女、責任をとれる立場にあるのか? どっかの権力者の娘だろうか?


「あ、みんな食べ終わったね? じゃあ裏方にレッツゴ~ゥ♪」


 俺たちが案内されたのはギルマスの部屋。まさかコイツってギルマスなのか!?

 ――という不安は的中することはなく、椅子に腰をおろしたメガネ男がギルマスだとの事。


「ようこそ、当冒険者ギルドへ。ボクはここ――ムラムラミュラーの拠点で冒険者ギルドのギルマスをしているモンドと申し――」

「ちょっとごめん、この拠点ってムラムラ何とかって名前なん?」

「おや、ご存知ありませんでしたか。拠点の名前はメンヒルミュラー教祖自らが命名したと伺っております」


 自分でムラムラミュラーとかいう恥ずかしい名前をつけたんか……。


「ど~ぉ? いけてる名前でしょ~?」

「まぁ……」

「はっきりとご指摘してもよろしいですよ? 名付けのセンスが皆無だと」

「モンドっち酷~い!」

「酷いと言うのなら、自己紹介の度にムラムラミュラーの――と名乗らなければならないボクの身にもなって欲しいものですね」


 このギルマスも苦労してんだな。俺も気苦労の種を4つ抱えてるが。チラ……


「何よヒサシ、私たちに文句でもあるっていうの?」

「いんや、なんにも。それよりミュラーさん、俺は料理人の事を聞きたかったわけで、ギルマスに面会を求めたわけでは……」

「あれ、そだっけ?」


 おいおい……


「はぁ……ま~た()の悪い癖ですか」

「姫?」

「ああ、このミュラー氏の事ですよ。これでも大層なご身分の方でしてね、ここで働いてるのも護衛を兼ねているのですよ。と言っても、我々としては働かせるという事そのものに抵抗があるのですが」

「いいじゃん別に。城に居るだけなんて退屈でつまんないんだもん。それよりこ~やって可愛い服を着て動き回る方が何倍も楽しいし~。ね、ヒサッチもそう思うよね~?」クルリン♪


 おおっと、ミニスカで豪快に回転されると目のやり場に困っちまう。いや、しっかり見るけども。


「ちょっと、私のヒサシを勝手に誘惑しないでよ」

「メリーのだけじゃないぞ~、ヒサシはボクのものでもあるんだからな~」

「ユラのご主人でもあり……ます」

「飼い主? よう分からんどすけれど」

「「…………」」


 幼女4人組が言った直後、ミュラーとギルマスの視線が冷たくなった気がする。


「あ、あの、何か勘違いを……」

「うん、世の中にはいろんな人種が居るってこと、ミュラーも知ってるよ~。ヒサッチは幼女が好きなんだね~」

「それ違う!」

「他人の趣味に口出ししたくはありませんが、多数の幼女をはべらす行為は自重した方がよろしいかと」

「だからそれ違うから! ぜってぇ勘違いしてっから! 地の果てまで間違いだからぁ!」



 それから俺の必死すぎる抗議により、何とか誤解は解けた。


「ハァハァ……疲れた……」

「よしよし、今まで大変だったんだね~」

「同情するなら酸素をくれ」

「人口呼吸~?」

「ボクでもよろしいのですか?」

「ギルマスのはいらん……。それより料理人の件から大きく脱線してるんだが」

「そういえばそうでしたね。ではズバリ言いますが、ここには料理人という者は存在しないのですよ」

「え?」


 料理人がいない?


「おいおい、そんなはずはねぇだろ。俺が食ったカツ丼は間違いなく故郷の味だ。料理人がいないってんならどっから持って来たって言うんだ?」

「懇意にしているダンジョンです」

「「「は?」」」

「つまりね~、ダンジョンマスターが召喚した料理をここに運んで来てるの~。凄いでしょ~?」

「いや、まぁ……」


 凄いと言えば凄いな。いきなりダンジョンが出てくるなんて思わんかったし。


「本来ならば外部の者にバラしたりはしないのですがね。まぁそこは姫が責任をとってくれるでしょうから、後の事は姫の判断に委ねますが、件のダンジョンマスターはグロスエレム教国から北にある魔女の森の中心にいます。気になるのなら会いに行ってみてはいかがでしょう? 人類に友好的なダンマスなので、無礼な真似をしなければ大丈夫ですよ」


 安全な奴なら是非とも会ってみたい。ファミレスで見たまんまのメニューを出すくらいだ。恐らくは転生者か転移者なんだろう。


「よし、次の目的地は魔女の森のダンジョンだ」

「ですかその前にグロスエレムの首都に向かうのが先ですよ? わたくしとトラさんの勝負はまだ決着してませんので」


 そういやまだ終わってなかったな。確か次の街で迫害されるか否かで争ってたはずだが、いつの間にか街が首都にすり変わってるし。


「やっぱ決着つくまで続けるのか?」

「もちろんです! 絶対に化けの皮を剥いでみせます!」


 苦笑いを浮かべてるトラさんを見るに、あっちはどうでもよさそうなんだけどなぁ。やっぱ首都に行かなきゃダメそうだ。


「あ、キミたちってば首都に行くの~? だったらウッチも送ってほしいな~。ちょうど護衛が欲しかったんだよね~」

「え、ミュラーさんも首都に?」

「そうだよ~。黙って城を抜け出して来たからさ~、今ごろ大騒ぎで面白いことになってそうだし~」


 それのどこが面白いのかと小一時間問い詰めたいが、そういう事情なら急いで送った方がよさそうだ。


「分かった。ミュラーさんの邸は首都にあるんだな?」

「そだよ~。ここからだと1週間はかかるから、張り切って行ってみよ~!」


 なんか頭痛くなってきた……。


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