誤算
グロスエレム教国の首都カニエビの地下神殿にて
「傭兵共と連絡が取れないだと!?」
側近であるボランゾからの報告を受け、苛立ちと共に立ち上がる。予定ではすでに国内へと引き入れてなければならないからだ。
「も、申し訳御座いませぬ! 【戦場の遠吠え】に関しましては南の砂漠にてリーダーであるグロッソの死体を確認。団はそのまま解散となった模様。【戦場の道しるべ】に関しましては砂漠のオアシスにて発見したものの、リーダーのヴァリアンは精神を崩壊状態。団員の多くも別宅で死亡しており、とても戦える有り様ではありませぬ」
「ぐぬぬぬ……。ならば【戦場の棺】はどうだ? あそこのリーダーはマンジャッカーという悪魔が憑依しており、仮に肉体が滅んだとしても壊滅までは行かぬだろう?」
「そ、それが、伝書クロウが砂漠にあるピラミッド上空でウロウロするばかりでありまして、これは……その……」
「なんだ、ハッキリと申せ」
「は、はい、この現象はマンジャッカーそのものが消滅したという証拠で――」
「クソッ!」
ガッシャーーーン!
怒りのあまり、近くの燭台を蹴り倒してしまった。
「傭兵団が三つも有ったのだぞ? それが短期間に全て消し飛ぶとはどういう事だ! 呪いか!? エレムの呪いが発動したとでも言うのか! 所詮我々のような虐げられし存在は、陽の目を見る日は来ないとでも言うつもりかぁぁぁ!」
「どどど、どうか落ち着き下さいませ、アムドリフェン閣下!」
「ハァ……ハァ……ハァ……」
椅子に座り直して額の汗を拭う。一頻り叫んだせいで少し落ち着きを取り戻してきた。
「首都襲撃作戦まであと5日だ。今さら作戦の練り直しは間に合わん。まさかこのままで済ますつもりではあるまいな?」
「も、もちろんで御座います! 国内に潜むグロウス教徒に一斉奮起を呼び掛けました。演習に出向いた軍隊の足止めも命じておりますゆえ、作戦を前倒しにすれば何とか……」
「ふむ……」
軍隊が首都を経ってから一週間後というのはいわゆる目安だ。傭兵に頼れん以上首都の占拠は私の私兵で行わねばならんし、間を開けるよりかは早めに動かした方が得策か。
「よし、各地に散らばる同士達に期待するとしよう」
「ハッ。我らの同士なら、必ずや成し遂げてみせるでしょう」
「うむ。ところでボランゾよ、2日ほど前からメンヒルミュラーが自室に篭ったままだという噂が流れているが、それは本当か?」
「ハッ。その噂は真実に御座いまして、軍が首都を経った直後から公の場に現れてはおりませぬ。親衛隊ですら部屋に入るのを許されぬため、体調が思わしくないのではと陰ながら囁かれております」
体調の悪化だというのなら、しばらくは出て来ない可能性が高いか。だが篭り切りなら袋のネズミとも言えるし、機を見て拘束すれば思い通りに事を運べるやもしれん。
「よし。メンヒルミュラーの寝室を徹底的に見張れ。些細な動きも見逃さんようにな」
「ハッ。承知致しました」
しかし妙だな。私自身も直近でメンヒルミュラーと面会したばかりだが、その時は至って健康だと思ったのが。
政務の疲れが出たか? いや、あのお飾り姫に限ってそのような事はあり得んか。
★★★★★
グロウス教徒の隠れ家を強襲したメリーにより、冒険者ギルドと街の住人、加えて領主からも礼を言われた俺たちは、丸1日掛けての宴会を堪能した次の日の今日に街を発った。
いやさ、本当なら昨日のうちに出る予定だったんだけど、領主からどうしてもって言われて断り切れなかったってのが理由だ。
「にしてもあの肉料理は美味かったな~。世界一周したらまた寄ろうぜ~」
「賛成どす。肉汁があんな熱心に誘ってきまんやから、無下にしたら失礼やわ」
「ホンっとレンとウルは肉にしか目がないわね」
「滴る血にもそそられるぞ~」
「ウチは生でも構いませんけどなぁ」
「あっそ……」
俺としてはもっとしっかりとした味付けが良かっ――っていやいや、何でこんな事でダメ出ししてんだ……。
けどアレだな。故郷の味とは言えないが、醤油とかタレとかインパクトの強い味が恋しいよな。異世界だとその辺が発展してないのが悩みどころだ。
「そういやよ、ここから北東方面の鉱山にあるサービスエリアの軽食はメッチャ美味いって評判だぜ?」
「サービスエリア?」
「すぐ近くにダンジョンがあったのさ。今じゃ崩壊しちまった後で単なる観光名所になってるがな。中でもそこのメイド喫茶は大好評でよ、俺も過去に行ってはみたんだがそん時は酒しか飲まなかったんでな、後で知ってからちと後悔して――」
「ちょ、ちょっと待った!」
サービスエリアにメイド喫茶だぁ? しかも鉱山のど真ん中に有るって、いったいどんな場所だよ!
「それ、本当にメイド喫茶なのか? イグリーシアにそんなもんが有るなんて、すんげぇ意外なんだが」
「別に驚く事じゃねぇだろ。俺みたいな転生車が作ったんじゃねぇの?」
「ああ、そうか。転生者なら――」
「いやいや、トラさん転生者かよ!」
「転生者じゃなくて転生車な。車だよ車。事故で日本からこっちに送られてきちまったのさ」
俺含め一同が唖然。しかも車とか、前代未聞じゃ――と思ったが、そもそも俺とメリーも前代未聞だし、他人の事は言えんな。
「本来の姿はこっちなんでな、あらよっと!」
江戸っ子みたいな掛け声と共に淡い光に包まれたトラさん。その直後に見事な軽トラの姿を見せてくれた。
「なるほどな。軽トラだからトラさんか」
『そういうこった。せっかく人化を解いたんだしよ、このまま鉱山までカッ飛ばすか! ほれ、乗った乗った!』
ギャリギャリギャリ――――ギュィーーーーーーン!
俺が運転席、ネージュが助手席、他は荷台に乗せていざ出発。足場の悪い山道を爽快に走り抜けていく。
「す、凄いです、馬より速いですよ!」
「そりゃな。軽トラと比較したら馬が可哀想だ。つ~かトラさんスピード出し過ぎじゃね?」
『ガッハッハッ! 細けぇ事は気にすんな。こっちじゃ車の法律なんざねぇんだからよ』
それもそうか。スピードが出てるにもかかわらず木や枝に掠りもしないところを見るに、急に飛び出してきても絶対に事故らない自信がトラさんにはあるんだろう。
「この先はちょいと揺れるぜぃ、しっかり掴まっといてくれよ~~~っとぉ!」
ギュイ~ン!
「ひゃう!」
「うおっと!」
急カーブで倒れ込んできたネージュを支え、座席に戻してシートベルトを装着。
「大丈夫かネージュ?」
「す、すみません、助かりました」
『ハハッ! スマンスマン、シートベルトの事をすっかり忘れてたぜ』
「しっかりしてくれよ……」
俺も忘れてたから強くは言えんけど。
「あ、あの、わたくしは大丈夫でしたけど、後ろの皆さんは大丈夫でしょうか!?」
「――っと、そっちも忘れてた!」
『メリー、レン、ユラにウル。お前ら無事か!? お~~~い!』
『あ~もぅ、うっさいわねぇ。真剣勝負に水を差さないでよ!』
『は? 真剣勝負だぁ?』
『誰が最初に落っこちるかを競ってるんだぞ~』
『なんじゃそら……』
『ちなみにこの勝負には目的地の軽食がかかって……います。先に脱落した二名は自力で走る&軽食は没収……です』
『ヒサシはん。せっかくやし、トラはんにもっとスピード出すように言うておくれやす。このまんまじゃ決着がつきそうにないんやわぁ』
などと意味不明な供述をしており――って何をやってるかと思ったらくっだらねぇ……。
「ネージュ、後ろは心配ない。落ちたら自力で走るそうだ」
「ええっ!? そ、そうなんですか? みんなダイエット中なのかしら……」
「いや、単にバカなだけだから気にすんな」
「は、はぁ……」
まぁアイツらなら落ちたところで平気だろうしな。マジで念話する必要なかった。
そんなこんなで昼を過ぎた頃。そろそろ腹が減ってきたなぁと思ってたところへ、トラさんから目的地が近いという知らせが。
『この林を抜けた先にアキバっていう名の拠点があるぜ。そこがサービスエリアってわけさ』
「ごめん……何ていう場所だって?」
『アキバだよ。とにかくよ、この軽トラ姿を見られちゃ面倒だし、こっからは歩きで行くぜ』
トラさらんが再びテンガロンハットのオッサンへと変身すると、俺とネージュそれにユラとウルが、トラさんへともたれ掛かった。
どうやらメリーとレンが落っこちたようで、悔しそうな二人が後ろからスッ飛んでくる。
「きぃぃぃ、悔しいぃぃぃ!」
「ま~け~た~~~!」
「良かったな決着がついて」
「「良くない!」」
「だったら勝負なんかすんなよ……」
その後もサービスエリアに着くまで散々グチグチ言ってたが、現地に着くなり二人は絶句――いや、正確にはトラさん以外が絶句した。
「なんだここは……」
「さっきから言ってるだろ? アキバだよアキバ」
「いや、それは分かるんだが、険しい鉱山のど真ん中にメルヘンチックな建物がデ~ンと建ち並んでたらおかしいと思うだろ普通」
何かもう、マジでこの一言につきる。ぜってぇ場違い。それでも多少は賑わってるらしく、中に入ると冒険者や商人が物珍しそうに見物していた。
「見る限り雑貨屋や旅館までメルヘンな外装に汚染されてるけど、肝心のメイド喫茶はどこれなんだ?」
「確か……ああ、アレだアレだ」
最早周囲がメルヘン一色なため、すっかり背景と化していたメイド喫茶。さっそく中に入ると……
「ウェルカムトゥギルド~~~! お帰りなさいませ、冒険者様!」
冒険者ギルドやんけ……。




