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流浪のトラ

 グロスエレム教国の首都カニエビの地下神殿にて


「アムドリフェン閣下、予定通り軍が首都を離れていきます。夜までには街一つ分を通過していくでしょう」


 今日は雲一つ無い青空だからな。その分進軍速度が速まるのはよい事だ。演習に突入してしまえば帰還は更に困難となる。


「傭兵の部隊はどうなっている?」

「ハッ。すでに伝書クロウを飛ばしておりますので、今日中にも返事があるものと思われます」


 ボランゾの言う伝書クロウというのは手紙の配達を行うカラスの事で、元であるチャージクロウという魔物をテイムして調教したものだ。

 近付かなければ滅多に襲って来ないため積極的に狩る者は少なく、安全な文通手段と言えよう。


「うむ、抜かりなく頼むぞ。私はああいった手合いは苦手だからな。傭兵共に関してはボランゾ、お前に任せる」

「御意に」


 正直に言うと金に汚い連中を城に招くのは抵抗があるのだがな。逆に言えば金しだいで捨て駒にできると解釈すればよいのだし、せいぜい役に立ってもらおうじゃないか。


「後はメンヒルミュラーの方だな。城でおとなしくしてくれるのなら有難いが、あの破天荒な教祖様だ。何を仕出かすか分からん」


 実はこれまでに何度か身分を偽り接触した事があるのだ。何せグロウス教は邪教認定されているからな。

 三度に渡って接触した感想だが、一度目と二度目の時は相手によってあからさまに態度が違うと感じたな。

 例に出すと、無条件に持ち上げる者には満面の笑みを向け、何かと意見する者はハブるという光景を何度も見た。つまりはプライドが高く、自分のやることに口出しする輩は不要だと考えているという事だろう。


「ですが閣下。あのメンヒルミュラーめ、去年あたりから国の方針をガラリと変え、傲慢な貴族を軒並み排除ではありませんか」

「うむ、その通りだ。まるで別人かと思えるくらいにな」


 ボランゾが言った通り、数日前に接触した時には性格がガラリと変わっていたのだ。外見も若々しくなっており、人懐っこい話し方をしていたような……。


「まさかとは思うがあの教祖、影武者と入れ替わっているのではあるまいな?」

「探りを入れてみましょうか? 警備が手薄な今ならば……」

「うむ。くれぐれも慎重にな」

「御意」


 教祖が下町を出歩けば、必ずやエレム教徒の目に止まる。奴らならどんな些細な事からでも教祖を探り当てたりするからな。それを考えれば影武者の可能性は皆無に等しいが、探るのは念のためだ。


「さて、そろそろ私も侯爵としての立場に戻るとしよう。表向きとはいえエレム教として振る舞うのは(しゃく)だがな」

「それも今しばらくの辛抱で御座います」

「その通り。神聖グロウス教国となる未来は目の前だ!」



★★★★★



 前の日にグロスエレム教国へと入国した俺たちは、ニコニコ顔で照らしつけてくる太陽の下で山道を歩いていた。この山を越えなきゃ野宿になるところだが、悪天候での足止めがなければ麓の街まで着くらしい。


「いい天気だ。多分夜までこの調子だろうし、これなら今日中に山を越えられそうだぜ」


 そう言いつつ俺たちの前を豪快に歩くのは、前日の街で知り合った冒険者――トラという人物だ。

 なんでも一人で色んな国を旅して回ってるらしく、冒険者ランクも上位のAランクに位置してる大ベテランだとか。


「ベテランの感ってやつか?」

「ハハッ! そんな大層なもんじゃねぇって。ただよ、なんとなく分かんだよ。これでも昔は全力で峠を突っ切るくらいの走り屋だったからよ、山の天候には敏感だったのさ」


 走り屋? 昔の日本で言う飛脚みたいなもんだろうか? なら足腰は鍛えられてるだろうし、いざって時の逃げ足も速いのかもな。


「ところでそこの姉ちゃん、ネージュ……だったか? なんだってまたグロスエレムに来たんだい? 人間至上主義のお国柄だった過去があるし、当時の記憶しかなけりゃ絶対に近寄らないと思うんだが……」

「もちろんわたくしのようなエルフも差別の対象でしたからね。一人なら絶対に入国しなかったでしょう。ですが今のわたくしには頼れる仲間がいます。ヒサシさんやメリーちゃんなら迫害してくる貴族から護ってくれると信じています」


 そう言われると胸が熱くなるな。ああ、当然ネージュを助けるぜ? 貴族なんざ怖くも何ともないからな。


「それにグロスエレムがどういう国かを見ていただくためにも、敢えてわたくしは入国を拒否しませんでした。もしも当時と同じくバカげた国のままだったら、必ずや貴族連中から絡まれるでしょうからね」

「だが前の街だと反応が違った――だろ?」

「それは……」


 ネージュが予想外だったのは、前の街では獣人までもがエレム教の勧誘を行ってきたことだろう。本当に迫害されてるのなら自殺行為に等しいからな。


「でもあの街では貴族と接触しなかったわよね。絡んできたのは全員庶民っぽい感じだったし」

「そ、そうです! メリーちゃんの言う通り、あの街では貴族と接触する前に出てきてしまいましたから、次の街では絶対に違う反応が起こります!」

「強情だなぁ。だったら勝負するかい? 次の街で迫害されなきゃ俺の勝ち。迫害されたらネージュの勝ち。勝った方が首都に着くまで飯を奢るって事でどうだい?」


 挑発するような笑みを見せるトラさん。それに対しネージュはピクリと眉を潜め、このままだと勝負を受けそうな流れに――あれ? ってことは!


「ちょ、ちょっと待て。ネージュは金を持ってないんだから結局は俺が払う事に――」

「い、いいでしょう。その勝負、受けて立ちます!」

「だから待てって!」

「ハハッ、決まりだな。さ~て、今日の晩飯は何にすっかな~」

「おいぃぃぃ!?」

「大丈夫ですヒサシさん。グロスエレム教国の悪行、絶対公の場に晒して見せましょう!」


 だからなんで青春ドラマみたいな展開になってんだ! これ、おもいっきり負ける流れじゃねぇか!


「ネージュってばちゃっかりしてるわね~。勝っても負けても金銭的ダメージは無いんだもの」

「これ、絶対にヒサシの懐をあてにしてるよな~」

「他人の財布で勝負を受ける……と。ネージュ、なかやかやります……ね」

「バウ!」



 どうしてくれるんだと一人愚痴りながらも山を越えると、夕暮れ間際に麓の街――ニバスに着いた。

 例の如くウルを見た門番がおったまげて二度見してきたが、ビビりながらも通行を許可してくれた。で、そのまま街中をぶらついてるわけだが……



「どうなってんだ? 中央通りだってのに人っ子一人歩いちゃいないぞ?」

「この街の住民がシャイなんでしょ。貴族も含めて」

「んな訳あるかい。貴族ってのは見栄を張ってこそ貴族ってもんさ。引きこもってる輩が貴族とか笑わせる」


 トラさん言うねぇ。まぁ俺としてもその考えには賛成だけどな。


「フフ、これでは勝負になりませんし、一旦お預けですね」

「ま、そういう事にしとくか。しかしちょいと気にならねぇか? まるで厳戒態勢でも敷かれてるみてぇな雰囲気だぞ」

「屋内からの生命反応を多数キャッチ。加えて外部を警戒している視線も確認。外敵に対して備えてるものと思われ……ます」

「外敵ねぇ……」


 そういや門番からもやけにジロジロと見られたっけな。いつものごとくメリーたちのせいで俺の性癖を勘違いしたんだとばかり思ってたが、別のところに原因がありそうだ。


 タタタタッ!


「あ、物陰から子供が走り去ってくぞ!」

「フン、このメリー様から逃れようなんて、百万年早いのよ!」

「ちょ、待――」


 ダッ――――



「うわぁぁぁぁぁぁ!」



 待てと言う前にメリーの姿が消え、代わりに子供の悲鳴が遠くから聴こえた。


「あ~もぅ! 余計なケガさせてねぇだろうな!」


 急いで駆けつけると、狂気をはらんだメリーの顔を見て腰を抜かしている少年の姿が。


「イヒヒヒヒヒ♪ さぁ、その首を刈られたくなかったら、どうして逃げたのか言いなさい」

「うぅ……」

「さぁ!」


 チャキ!


 草刈り釜を首に当てられ、少年はガクブルだ。


「ひぃっ! や、止めて、正直に言うから殺さないで!」

「なら正直に言わなくてもいいわ。その代わりアンタはここで――」

「やめぃ!」


 ゴツン!


「フギャ!」

「ったくもぅ……」


 メリーに拳骨を下し、怯える少年に手を差し出した。


「脅して悪かったな。ほら、立てるか?」

「は、はい……」


 悶絶(もんぜつ)しているメリーを見て安心したのか、少年は俺の手を取り立ち上がる。


「それで、どうして逃げ出したりしたんだ? あんなあからさまな行動を取られたら不審に思うだろ?」

「だ、だって、兄ちゃんたちグロウス教徒なんだろ? エレム教を拒否した聖獣使いがこの街に来るって噂があったんだから」

「はぁ? グロウス教徒?」


 エレム教とは別の宗教が出てきたぞ? トラさんなら知ってるかと思い、視線を向けてみると……


「確かエレム教を敵視しているグロスエレムの邪教だったっけな」

「邪教!?」

「ああ。どうやらエレム教に入るのを断っただけで邪教の信者にされたらしいな」

「なによそれ、何で私が神にすがらなきゃならないのよ!」

「ホントだよ~、ボクたちのどこが邪教に見えるのさ~!」

「失礼ですね。焼き尽くして炭にしてやりましょうか」

「バウバウ!」

「ひぃぃぃ! ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!」


 いや、端から見りゃよってたかって少年をイジメてるようにしか見えんがな。


「まずはハッキリと言っとくが、俺たちはグロウス教徒じゃないし、エレム教徒でもない。完全に外部の冒険者パーティだ」

「ホ、ホントに?」

「ああ。仮にグロウス教徒だったとして、何をそんなに怯える必要がある?」

「だって、グロウス教徒は国家転覆を狙ってるって、何年も前から噂されてたし……。それに今はアレクシス王国との軍事演習で多くの兵士が国境に向かったから、この隙を狙ってくる可能性が高いと思って……」


 こんな少年が思ってるって事は多数の大人も同じことを考えてるだろうな。こりゃ首都に向かう前に誤解を解いておかないと面倒な事になるぞ~。


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