エレム教
グロスエレム教国の首都カニエビの地下神殿にて。
「アムドリフェン閣下、いよいよ明日で御座います」
瞑想を行っていた私の後ろで側近のボランゾから声がかかる。我らの他にも10数名の幹部が顔を伏せて跪いており、私からの命令を今か今かと待ち望んでる姿勢だ。
「うむ。ついに我が名を世界に轟かせる日が来るのだな」
「左様に御座います。これまでに費やした時間は三年。それがついに実ろうとしているのです」
長い年月だった。
邪教の教祖として迫害され続けて一年。教団を解体されて一年。そして地下に潜伏してから一年だ。これまでの雪辱を晴らし、ようやくこの国があるべき姿へと甦らせられる。
「愚かにも大半の国民はエレム教などというくだらん偶像に取りつかれてしまった。エレムなど国を捨てて勇者を求めたふしだらな女でしかないというのにだ」
「嘆かわしい限りです」
そう。エレムは仲間であったグロウスを捨て、勇者アレクシスと添い遂げてしまった。
共にグロスエレムを建国しておきながらこの無責任な仕打ち、断じて許されるものではない。
「皆よ、よくぞこれまで堪えてくれた。これより我が国はグロスエレムという名を棄て、神聖グロウス教国を国名とする!」
「「「おおっ!」」」
「しかしだ、これを成すには邪魔物を排除する必要がある!」
沸き上がる歓声を手で制し、拳を握りしめながら力説する。
現在のグロスエレム教国は、教祖のメンヒルミュラーへの圧倒的な支持の下に成り立っている。
一見すると隙がないようにも見えるのだが、明日から半月ほどアレクシス王国との軍事演習が予定されているのだ。当然城の警備は手薄になり、メンヒルミュラー自身も枕を高くして寝れまい。
ならばこの機を逃すのは愚の骨頂。最大限に利用させてもらおうじゃないか。
「明日からの軍事演習により多くの兵士が城を離れる。しばらくは厳戒態勢が予想されるが、落ち着いた頃合いが奴の最後。ボランゾ、手筈は整っているのだろうな?」
「ハッ。【戦場の棺】【戦場の道しるべ】【戦場の遠吠え】。この三つの傭兵団を国外にて待機させてあります。軍隊が出払いしだい内部に招き入れる予定ですので、すでに国境付近まで移動していることでしょう」
「ふむ。よろしい」
これで城の占拠は問題ないだろう。何せ兵士までもがエレム教に染まった腑抜け揃いなのだからな。いざ危機が迫ったところでエレムに祈ることしかできまい。
「占拠後の戦力だが、城の正規軍だけでは不安が残る。例のアレはどうなっている?」
「アレと申しますと、発掘された人形戦闘兵器の事ですな。残念ながら、今はまだ眠りについたままに御座います」
「むぅ……」
この人形戦闘兵器という兵器は、かつてイグリーシアを侵略してきた別世界の連中のものだ。
特にプラーガ帝国ではその残骸が多数見つかっており、それを再利用し始めたがために軍事力が増加したとも言われている。
その兵器が大破を免れグロスエレムの地で発見されたのは、まさに神聖グロウスの巡り合わせ。できれば排他的なエレム教の連中に見せつけてやりたかったのだが……
「しかしご安心を。魔道エネルギーによる反応が確認されたため、魔力しだいで起動できる見通しです」
「それは本当か!?」
「ハッ。近日中に実現させてみせましょう」
「素晴らしい!」
かつてイグリーシアを恐怖のドン底に陥れた兵器。それを意図するままに動かして見せれば、エレム教に唆された連中の目も覚めるというもの。
「諸君、日の目を見る日は近いぞ!」
後は城を占拠してからが本格的な門出だ。30代という若さでありながらもまるで女帝のように君臨し続けるあの女が消えれば、当然国民は動揺するだろう。
フフ、つまりは力による排除。すなわち――
「一週間後の夜、メンヒルミュラーを捕え、翌朝には公開処刑だ。これによりエレムという異分子は取り除かれ、神聖なるグロウスのみが残される。これが神聖グロウス教国の始まりだ!」
「「「アムドリフェン教祖バンザーーーイ!」」」
「「「神聖グロウス教国バンザーーーイ!」」」
ククククク。メンヒルミュラーよ、せいぜい今のうちに表舞台を堪能しておくがいい。
★★★★★
砂漠を抜けた先。そこにあるのはイグリーシア四大国家の一つと言われているグレスエレム教国で、国のトップはメンヒルミュラーという女性教祖だという話だ。
そう、教祖が治めてる大国なんだよ。国民の九割がエレム教信者だって話だし、宗教とか胡散くせぇなんて口が裂けても言えねぇ。
「メモリーに……よりますと、伝説の勇者アレクシスの仲間だったエルフのエレム……と、同じく仲間のドワーフのグロスとで建国した国のよう……です」
ゴーレム娘――ユラから知らされるエルフの存在。
いやネージュもエルフだっつ~のは知ってるぞ? けどあまりにも見た目がアレ(←つまり幼女)なもんだから、巨乳美女なエルフを想像したってわけよ。
これで信者もエルフだらけならエレム教に入っちまうかもしれん。
「エレムのエルフ、ねぇ」
「いえ、エルフのエレム……です」
「うんうん、エレムのエルフな」
「ですから、エルフのエレム……です」
「いやいや、エレムの――」
バコ~~~ン!
「いってぇ!」
「いい加減にしないと殴りますよ?」
「もう殴ってるだろ!」
「くだらないことやってんじゃないわよ。ほら、早く最後尾に並んで」
メリーに押されて街の入場待ちの列へと並んだ。
――が、並んだ途端に前の奴らがチラリと振り向くと、ウルを見て驚愕の表情を浮かべた。
「ひっ!? あ、あんたら、ななななんつ~生き物を連れてやがるんだ?」
「ああコイツね。確かサバイバーウルフって名前だったぞ」
「そ、そういう意味ではなく……」
「ちゃんとテイムしてあるから大丈夫だぞ。メリー、ギルドカードを見せてやれ」
「ったくしょうがないわねぇ……ほら!」
レインボーのギルドカードを前の連中に見せつけた。やはり効果覿面だったようで、光り輝くレインボーを見るやその場で跪いて拝みだす。
「ありがたや~ありがたや~」
「これもエレム様のお導きだ、間違いねぇ」
「おおエレム様、おおエレム様……」
ただ居合わせただけなんだが、何かにつけてエレムと関連付けしたがるのが国民性らしい。
「大丈夫かコイツら~。何かの病気じゃないだろうな~?」
「スキャンしてみましたが体調に異変は見られません……でした。言動がややアレですがいたって正常……です」
つまりエレム教信者にとっては平常運転ってこった。慣れたかねぇなこりゃ……。
「よ、よし、通っていいぞ」
「はいはい、ありがとさん」
ビビる門番を尻目に街へ入る俺たち。そこへ街の住人たちが大勢集まり、たちまち俺たちは取り囲まれた。
「見ろ、ホンモンだ、ホンモンの聖獣を連れてるべ!」
「さっきの冒険者の言った通りたい!」
俺たちの前に入場した連中が言いふらしたらしい。
「おまんさんら、そげに立派な聖獣さ連れてっなら教祖様との面会さ許されるんでねげ?」
「いや、俺たちは別に教祖と面会したいわけじゃ――」
「遠慮せんでよろしゅうおす。教祖であるメンヒルミュラー様はエレム教信者の憧れどす。お会いしたくない等とけったいな事言いなはんな」
「いやいや、だから俺たちはエレム教の信者じゃないから――」
「「「…………」」」
そう言った瞬間、街の住人が一斉に凍り付いた。まるでこの世の終わりを垣間見たかのように顔が青ざめていて、信じられないと言わんばかりにアワアワと慌て出す。
「こら大変じゃ、一大事じゃあ!」
「まっさかエレム教じゃない奴さ居るとは思わんべ!」
「聖獣を従えておきながらエレム教じゃないなんて、そら世界の損失ですわぃ!」
大袈裟だなぁおい……。
「よっし決めたばい。おいどん達でエレム教のなんたるかを徹底的に教えるでごわす! さもなくばメンヒルミュラー様との面会は夢のまた夢。万事おいどん達に任せるでごわす!」
「ごわすじゃねぇよ! 会わないって言ってるじゃ――」
「まぁそう言わんと。噂じゃメンヒルミュラー様は30代とは思えないほど若くて美しい女性らしいしな。気に入った男には無条件で豪華な褒美を与える――なぁんて噂もあるでよ」
「よし、詳しく聞こうじゃないか!」
ズテン!
「――ってヒサシ、アンタ物で釣られるとか恥ずかしくないわけ?」
「おま、ちょっと情けないぞ~?」
「ええぃウッセウッセェ! 物欲がなんだ、ロリコン呼ばわりされる方がよっぽど恥ずかしいだろ(←確かに)!」
「そんだばお前さん、エレム教さ入るんけ?」
「それは話が別」
「強情じゃのぉ。まぁ一晩タダで泊めてやるけぇ、じっくり考えてもええやろ」
入国して早々エレム教に入る入らないという話に発展しちまったが、もしかしたらとってもお得な事が待っている可能性も視野に入れ、住人達から詳しい話を聞く事にした。




