閑話:その頃の別荘
突然ですが、私の名前はフィルン。サザンブリング王国国王の末子の王女です。
王族である私ですが、今国内は身内同士の派閥争いにより大変危険なため、伝説の勇者のお孫であるリーザ様のお導きのもと、海を隔てた先にあるオルロージュ帝国へと避難してきました。
それが10日ほど前のことで、最初こそ慣れない境遇に困ったものの、今ではだいぶ落ち着いた生活が出来ています。
それもこれも偶然知り合ったヒサシ様やメリーちゃんのお陰です。次に戻られた時には改めてお礼を述べなければなりません。
「ヒサシ様、メリーちゃん、それにネージュ。皆様はお元気でしょうか」
ガチャ!
「うむ。元気にしておるぞよ。旅先で仲間も増えとったし、トラブルに見舞われながらも楽しんでおるぞよ」
「あ、リーザ様」
「目が覚めてるのならさっさと降りて来んかい。子供たちが早う朝食に食い付きたいと喚いておったぞよ」
そうです、すっかり忘れてましたが、今私が住んでいる邸はヒサシ様が購入した別荘で、ここでは元孤児院の子供たちと元院長のナディア先生も生活しているのでした。
「す、すみません。色々と考え事をしていたら時間が経っていたみたいで……」
「時間は有るのだし、考えるのは朝食を食しながらでもよいであろう。ほれ、早う来い」
リーザ様に引っ張られて下に降りると、洗面台にてメイドさんの1人――フレネートさんが待っていました。
「おはよう御座いますフィルン様。子供たちが急かしてくるので、手早く済ませますね」
「はい、おはよ――アブブブブブブ!」
挨拶もほどほどに、水の溜まった樽に頭をブッ込まれます。最初の頃はもっと丁寧だったと記憶してるのですが、最近は遠慮がないと申しますか、些か強引な気がします。もしかして寝坊が多いから怒っているのでしょうか? だとしたら改善しなければなりません。
「はいは~い、リーザちゃんはこっちね~」
「これリリアンよ、ちゃん付けではなく様を付けろと前から言――アブブブブブブ!」
隣ではもう1人のメイドさん――リリアンさんがリーザ様のお顔を洗っているようです。
「プハァ! だからリリアンよ、もう少し丁寧に――アブブブブブブ!」
「はいはい。すぐに終わりますから暴れないでくださいね~」
どうやらこのスタイルはデフォのようなので、気にしなくてもよさそうですね(←寝坊は改善しろよ……)。
顔がスッキリしたところで食堂に向かいました。中に入るなりさっそく子供たちからブーイングが飛び、後ろで控えてるメイドさんの1人――ハルミさんが苦笑いを浮かべています。
「フィルン遅い~!」
「リーザも遅いぞ~!」
「は~や~く~食~わ~せ~ろ~!」
「コラッ、私語はお止めなさい!」
急かす子供たちを元院長であるナディア先生が叱ります。これもいつもの風景ですね。
「よいよい、ナディアよ。待たせたのはワッチらだしな。特にフィルン」
「えっ? 私ですか!?」
周りを見渡すと3人のメイドさんは愛想笑いで誤魔化し、子供たちは一斉にウンウンと頷きます。ナディア先生に至っては視線を逸らされてしまいました。
すでに10日は経っているので皆さん慣れてきたものと思っていたのですが、大変ショックです(←だから改善しろ)。
「では皆様揃ったことですし、頂きましょうか。――出会いに感謝を」
「「「出会いに感謝を」」」
「恵みに感謝を」
「「「恵みに感謝を」」」
「今日という日が幸運でありますように」
「「「今日という日が幸運でありますように」」」
この言葉は毎日朝食の前に述べており、ヒサシ様やメリーちゃんと出会い救われた事を意味しているとの事です。
拉致された私を救ったのもお二人ですので、当然ながら私も一緒に唱和してますよ。
「ングング――。今日のパンもウンメ~!」
「ハグハグハグ!」
「慌てて食べると喉を詰まらせますよ」
がっついている子供たちにナディア先生が注意を促します。そんな見慣れた光景を横目に、先ほど伺ったリーザ様との会話を再開しました。
「それでリーザ様。ヒサシ様とメリーちゃんの話なのですが」
「おお、そうじゃったな。どうやら今は砂漠を渡っておるようでな、方角から察するにグロスエレム教国に向かっているのだと思うぞよ」
グロスエレム教国。エレム教の教祖が国家首席を勤める国で、イグリーシアにおける四大国家の一つでもある国ですね。
あ、ちなみにヒサシ様の動向が把握出来てる理由は、リーザ様の使い魔であるワイルドホークという巨大な鷹が上空から観察しているからです。
しかし転移を繰り返したりピラミッドに入られたりで把握しきれない状況もままあったようで、使い魔さんには大変な苦労をおかけして申し訳なく思いますが。
「ところで新たな仲間と仰いましたが、どのような御方なのですか?」
「ピラミッドに眠っていたゴーレムぞよ。しばし観察させてもらったが、中々の戦力じゃな。ウルのやつもランクアップしたようじゃし、向かうところ敵無しぞよ」
それなら安心です。戻られる頃には祖国も落ち着いてるとよいのですが。
「ね~ね~フィルン。食べたら早く劇場に行こうよ~」
「あ、そういえば今日でしたね」
以前から子供たちと一緒に劇場に行く約束をしていたのでした。
「今日やるやつはホラー演劇だったよな~」
「フィルン姉ちゃんチビるんじゃね~ぞ」
「チ、チビりません!」
――とは言ったものの本格的ホラーという触れ込みでしたので、悲鳴を上げてしまわないか内心不安で仕方ありません。
朝食を終えて劇場に向かう途中もそれは変わらず、楽しみにしている子供たちとは正反対の顔をしていることでしょう。
「どうしたフィルン姉ちゃん? 早く入ろ~ぜ~」
「え? あ、はい……」
気付けば劇場についていました。ここに来るまでがとても短く感じます。ギロチンにかけられる直前の犯罪者はきっとこんな感じなのでしょうね……。
「そんなに心配せずとも大丈夫じゃろ。ほれ、早う座るぞよ」
「い、いえ、まだ心の準備が――」
「ええぃ、おとなしく座れ!」
サァーーーーーーッ!
リーザ様によって強引に座らされるのと同時に幕が上がり、いよいよ開演です。タイトルは――
【狂喜のヴァリアン】
アタイはヴァリアン。冒険者時代に知り合った傭兵に誘われて、傭兵として生計を立てている。今じゃ団長という地位についちまって、狂喜のヴァリアンなんて呼ばれてるな。
そんな呼び方をされてんのもアタイの趣味が原因でね、可愛いものや愛おしく感じるものを見ると徹底的に破壊したくなるからなのさ。
「ひっ! た、助けて……」
今も目の前で命乞いをする男のガキがいるんだが、コイツの目を見るとたまんないねぇ。涙垂らしてウルウルさせてやんの。
「なぁガキ。なんで命の危機に瀕してるか分かってるか?」
「ボ、ボクのお父さんがその……わ、悪い事をした……から?」
「いんや、違うなぁ。お前の父ちゃんも母ちゃんもついでに爺ちゃんも、なぁ~んも悪くはないぜぇ?」
「じゃあ……」
クイッ
俯くガキの顎に手を添え、視線を合わせるように持ち上げ……
「フフフフ、悪いのはボウヤさ。そんな可愛い顔してそこらをほっつき歩いてんだからさ、つい連れ去りたくなるってもんだろ? だからこうやって廃墟に連れてきたのさ。傭兵ってのはそういう商売なんだよ(←違います)」
「…………」
お~お~、自分には非がないって分かった途端、凄んだ目で睨むじゃないのさ。
「いいねいいねぇ、こういう言動は小動物にゃないからなぁ。やっぱ会話が成り立つ奴をいたぶるのが楽しいってもんさ」
ガスッ! ドゴッ! バキッ!
「い、痛い痛い! 止めてよオバサン!」
「オバサンだぁ? これでもアタイは二十代だ、オバサン呼ばわりされたかないね!」
ガシッ!
「グッ……ェ……」
「どうした? 苦しそうじゃないか。片手で首を締め上げただけだってのに情けないねぇ」
「や……やめ……」
「あ~? 何? もっと締め上げてほしいって? ハハッ、それならそうと早く言っておくれよぉ!」
ググググ――――ベキッ!
「カフッ……」
「あ~あ、もうくたばりやがった」
ほんっと人間や獣人は身体が脆くていけないねぇ。そんなだからアタイら魔人に勝てないんだよ。
ああ、一応説明しとくが、魔人ってのは魔物と人間――もしくは魔物と獣人の混血ってことを意味する。固有スキルを持ってる奴も多いし、そこらの傭兵や冒険者よりかはよっぽど強いぜ?
「さ~てと。また新しい玩具でも捕まえてくるか。今度は女の子にしてみっかな~」
「へ~ぇ、ならちょうどいいわ。私が相手になってあげる」
「……誰だ?」
振り向けば黒いワンピースを着た金髪の小娘が。
「私はメリー。ただの女の子よ」
「…………」
「どうしたの? 女の子を探してるって言ってたじゃない。ほら、私でもいいでしょ」
おかしい。このアタイが簡単に背後を取られるなんて。しかもこんな幼いガキに? どんな些細な気配だって見逃さないアタイを欺いたってのかい!?
「テメェ、いったい何もんだ? ただのガキじゃねぇな?」
「……チッ。これだから感のいい大人は嫌いなのよ。黙って趣味を垂れ流してくれれば面白かったのに……」
「っ!?」
このガキ、さっきまでと顔つきがまるで違う。それこそ悪霊みたいじゃねぇか!
「な、なんなんだテメェ、さては人に扮した魔物だな!?」
「だったら何?」
「そこにあるガキの死体を見られた以上、生かしちゃおけねぇのさ!」
「それ、魔物は関係なくない?」
「るせぇ! テメェも捻り潰してやる!」
スカッ!
「な!? 身体が掴めないだと!?」
「あ~これね。物理不通っていうスキルで、物理的な危害は加えられないようになってんのよ。だからアンタの攻撃は永遠に私には届かない。オッケ~?」
「な、なんだよそれ……それじゃあテメェは無敵みたいなもんじゃねぇか!」
「その通りよ。じゃあ正解にたどり着いたご褒美をあげちゃうわね」トン!
ガクン!
「ガッ!? か、身体が……動かねぇ……」
「このスキルは接触不動と言ってね、私が触れた箇所を動かなくさせるのよ」
足を触られた瞬間に動けなくなったのはそのせいか!
「じゃあそろそろ仕上げね。どうやって決めようか――あ、ちょうどいいのが有ったわ」
そう言って手に取ったのは、アタイが小僧を捕まえた時に使用したロープだ。
「ほいっと」
「???」
コイツ、ロープをその辺に放り出したぞ? いったい何を――ひっ!?
「ロ、ロープが勝手に動いてるだと!?」
「これは念始動接ってスキルよ。私が手にした物を使役できるの。凄いでしょ?」
「くそっ、身体を這いずって気持ち悪い!」
「ウケケケケケ♪ 気持ち悪いで済めばいいんだけどねぇ」
「ああ? そりゃどういう――って、まさかコイツ!?」
何があるのかと思ってたら、ロープの野郎め、アタイの首に巻き付いてきやがった!
「ええぃクソが! 物の分際でアタイに楯突く気か!」
「ちょっとちょっとぉ、せっかくロープが頑張ってるんだから、手で妨害するのは止めてくんない?」
タン!
「ああ!? テ、テメェ、腕に触れやがったな!?」
「そうしないと引き剥がそうとするじゃない。せっかくアンタが苦しむところを見てるんだから、邪魔するのは無粋よ」
「バカアホ止めろ! このままじゃホントに死んじまう!」
「いいじゃない。今までか弱い存在をもてあそんで来たんでしょ? 人よりもか弱いロープにピリオドを打って貰いましょ」
ギチギチギチ!
ああクソッ、遠慮なしにどんどん締め付けてきやがる! マジで息ができねぇ!
「グッ……ホ、ホントに……や……め……」
グキッ!
「あ~あ、もうくたばっちゃった。次はもっと楽しめる奴がいいわね」
サァーーーーーーッ!
「は~~ぁ。ようやく終わったかぁ。面白かったけど怖くはなかったなぁ」
「嘘つけ、お前途中で悲鳴あげてたろ」
「バ、バカ言うなよ! ちょっと驚いただけだろ!」
演劇が終わり、子供たちが感想を言い合っています。しかし私には気になることが。
「途中で出てきたメリーちゃんって、私たちの知ってるメリーちゃんにそっくりでしたね」
「はぁ? 言ってるんだフィルン姉ちゃん。メリーなんか出てこなかったじゃん」
「え? そ、そんなはずは……」
「あ、分かった! フィルン姉ちゃん、俺たちを怖がらせようとしてるんだろ~?」
「その手には乗らないよ~だ」
「い、いえ、そういうわけでは……」
お、おかしいです。私だけ違う内容を見ていたのでしょうか(←貴女と読者だけ違う内容を見てました)。
「リーザ様。リーザ様もメリーちゃんが出てきたのを見ましたよね?」
「いや、ワッチも見とらんぞよ」
「ええっ!?」
もしかして疲れてるのでしょうか? 今後は朝方まで小説を読みふけるのは避けた方がよいかもしれません(←今すぐ改善しろ!)。




