最果てに燃ゆ
「フフフフフ♪」
ヒョイ!
「あ、待ちやが――くっそ~、二階の窓から逃げ込みやがった!」
「案外臆病なやつだな~。さっさと追い詰めてやろうぜ~」
「上等。誰が仕留めるか勝負よ」
「では勝者が肉料理を総取り……で」
「「「絶対に勝つ(バウバウ!)!」」」
レンは二階に飛び上がって直接ヴァリアンを追いかけると、メリーは壁をすり抜けて直線距離を詰めていき、ウルは正面玄関をブチ破って突入し、ユラは反対側へと回り込んだ。
俺とネージュがウルを追いかけた直後、凄まじい音が二階から聴こえてきた。
ドォン!
「今のは上からか! レ~~ン、大丈夫か~~~!?」
「大丈夫だぞ~~! でも罠が仕掛けてあるっぽいから、ヒサシとネージュは気をつけろよ~~!」
罠か。傭兵なだけあって汚ねぇ真似しやがる。
そんな人生の先輩による洗礼がいたる箇所で勃発し、俺とネージュも二の足を踏む状態に。
そこへメリーからの念話が届いたんだが、不可解なことを言い始めた。
『おかしいわね。あの女は二階にいたはずなのに、どこにもいないわ』
『こっそりと一階に下りたとか?』
『だったらウルとユラが気付くはずよ』
『バウ!』
『確かに下に下りた気配はありません……でした。可能性があるとする……ならば、どこかに転移するというもの……ですが』
見た目が人じゃなかったしな。でもって【戦場の棺】とも繋がってたとあれば、その可能性は大いにあり得る。
『邸の構造を分析した……ところ、地下にも部屋があることが判明……しました』
『地下ね、すぐ潜るわ!』
『おっしゃあ~!』
『バウバウ!』
罠に掛からないようウルの後をついていくと、地下への入口を発見した。レンとユラも駆けつけ、いざ地下への階段に突撃。
下ってる最中にまたもやメリーから念話が届くが、その内容に思わず足を止めた。
『あ~、これはちょっと刺激が強すぎるわ。ヒサシとネージュは見ない方がいいかもね』
『何を見つけたんだ?』
『小動物の死骸と子供の死体よ』
『え?』
『多分あの女がやったんだろうけど、散々拷問してから殺したって感じね。外見の可愛いやつをいたぶる趣味でもあるんじゃない?』
ドSな上にサイコパスか。うん、メリーといい勝負だな。
『あっ、本人出てきたから直接確認してみるわ』
『おい、メリー?』
本人とはヴァリアンのことだろう。つまり今頃メリーに襲いかかってるってことか。
「マズイぞ、メリーに一人占めされる前にいっそげ~!」
「早くしないとヴァリアンの身が危険です」
「バウ!」
あ、そっち? と思わなくもないが、むしろ当然の反応である。
そして地下室についた時、割と予想通りな光景が待っていた。肩で息をしたヴァリアンとメリーが対峙していたんだ。
「ハァハァ……。な、なんなのよアンタ! こっちの攻撃手段が一切効かないなんて……」
「フフン、文句があるなら当ててみなさいよ。ま、アンタじゃ一生無理でしょうけど」
「くぅぅ、生意気だね! こうなったら全員まとめて串刺しにしてやるわ!」
シュシュシュシュシュ!
広げられた翼から無数の針を飛ばしてきた。とても回避できる量じゃなく、まさに針の雨って感じだ――が、
キキキキキキキン!
「保護シールド展開。すべての飛来物を弾きました」
「そんな……バカな……」
ガックリと膝をつくヴァリアンをユラが手際よく捕縛していく。相手も普通じゃなかったが、こっちも常識を逸してる存在だからな。コイツにとっては相手が悪かったと。
「くそっ、離しやがれ!」
「暴れんじゃないわよ。これから夜まで楽しい時間を過ごすんだから、観念して期待に胸を膨らませなさい」
「ふざけんな、何を期待させるってんだ!」
「アンタの素敵な趣味に付き合ってあげるって言ってんのよ。心の底から喜びなさいよ」
「ひぃぃぃぃぃぃ!?」
あ~、こりゃ朝まで拷問コースだな。散々自分より弱いものをいたぶって来た報いだ。同情する気にもならん。
「お得意の拷問には口出しせんけど冒険者ギルドには報告しなきゃならないんだから、拷問の前に報告しに行くぞ」
「ついでだから冒険者ギルドの訓練室でも借りましょ。観覧希望者がいれば無料で見せたげるわ」
「誰も見ねぇよ! ……多分」
ヴァリアンの邸を後にして冒険者ギルドにトンボ返りをした俺たちは、職員の予想を遥かに上回るスピードにより両手を上げて感謝された。
「ほら、連れてきてやったぞ~」
「ム~、ム~!」
「この女は正に【戦場の道しるべ】の団長! 素早いご対応に感謝します! ――ところで何故彼女は猿ぐつわをされているので?」
「解放しろってうるさいからよ。何なら聞いてみる?」
カチャカチャ!
「ハァハァ……た、頼む、助けてくれ、コイツら普通じゃないんだ! 私を拷問して遊ぼうとしてやがんだよ! なぁアンタ冒険者ギルドの職員だろ? 頼むから何とかしてくれよぉぉぉ!」
「ご、拷問?」
この女、余計なことを!
「勝者の特権だもの、相手を拷問するのなんて当たり前――モゴモゴ」
「おっとぉ! こういう女はいざ捕まると余計な事――じゃなかった、虚言したりするから信用しないでください」
「嘘じゃねぇだろ!? お前らだって止めもせず――モゴモゴ」
「だぁっとぉ! まぁ俺は止めたんですけどね、さっさと降参しろって。でも降参しなかったんだから仕方ないんですよ」
「はぁ……。よく分かりませんが、報酬はお渡ししますよ。少し待っていてください」
職員が奥へと引っ込んでいき、メリーはヴァリアンを引き摺って地下の訓練室へと向かった。
「お待たせしました。こちらが報酬になります」
「サンキュ! ついでに聞くが、地下の――」
戻ってきた職員から報酬を受け取り、訓練室の使用許可を求めようとしたその時だ!
パリィィィン! ――ゴトゴトゴトゴト!
「な、何だ? 窓から石の塊を投げ込まれたぞ?」
「イタズラでしょうか? それにしては悪質な感じが――」
「ネージュ、触ってはいけません。――保護シールド展開」
ドォン! ドドォォォン! ドドドドォォォォォォン!
石だと思ってたものが爆発を起こし、辺りが煙で包まれる。やがて収まると壁やテーブルがメラメラと燃え始めている光景が飛び込んできて、爆発の恐怖が後から襲ってきた。
ユラがバリアーを使わなかったらネージュや職員は危なかっただろう。この場に俺たち以外が居なかったのが不幸中の幸いだ。
「こ、これはまさか、傭兵団の報復!」
「報復って、【戦場の道しるべ】は全員戦闘不能にしてやったはずだぞ? 団長だって捕まえたんだし」
「いえ、恐らくはもう一つの傭兵団――【戦場の遠吠え】でしょう。団長のグロッソは大変狡猾な男で、女子供でも容赦はしなく、使えるものは何だって利用してきます。皆様が【戦場の道しるべ】を壊滅に追いやったと聞き、冒険者ギルドごと一網打尽にすべく行動に出たのでしょう」
さっきの爆発は全身が吹き飛んでもおかしくない威力だったからな。後は焼け跡から死体を探すだけの簡単なお仕事ってか?
けど残念ながら仕事が定時で終わるとは限らないんだぜ? これ、日本社会なら常識な。
「まずは火を消し止めます」
シュゴーーーーーーッ!
ユラの両手から火炎放射のような放水が行われ、瞬く間に火の勢いが衰えていく。完全に消し去るのに然したる時間は掛からなく、実際に1分も掛かっちゃいないだろう。
「よっしゃ、反撃開始だ~!」
「バウ!」
レンとウルが先陣を切って飛び出すと、俺とユラも後に続く。ネージュと職員はメリーの近くに避難させ、もう一つの傭兵団――【戦場の遠吠え】を壊滅させてやるぜ。




