最果ての街
「地獄火! ――っかしぃなぁ。もういっちょ――地獄火! う~ん、やっぱり発動しない」
スペール王国を後にした俺たちは砂漠を北へ進んでいる。
で、俺自身は何をしてるのかと言うと、泉の水を飲んで覚醒したはずの俺が覚醒前に戻っちまったんだ。せっかく楽ができると思ったのに、これじゃぬか喜びだぜ。
「さっきも言ったでしょ。覚醒した霊体が邪神との戦闘に満足して成仏したからだって」
「んなこと言ったってよ、なにも即昇天することはないだろう。成仏くるなら事前に告知しろっつ~の」
「な~にキチガイクレーマーみたいなこと言ってんのよ。邪神を倒してレベルが上がったんだから、それで満足しときなさい」
あの邪神――もとい異世界の戦闘兵器は、イグリーシアの兵士や冒険者では太刀打ちできない強さだった。お陰で半人前の冒険者レベルだった俺が、一気にレベル100オーバーという快挙を成し遂げたんだ。
「つっても邪神と互角以上にやり合った時とは雲泥の差があるだろ。今の俺じゃウルにすら勝てねぇよ」
「ガルルル!」カプッ!
「イテテテ! そんなに怒んなっての」
それでもベテラン冒険者の域を超越したのは事実で、現実世界でいうと一般人がボディビルダーになったって感じだ。
けどボディビルダーに魔法が使えるはずはなく、飛んでいく火球とかには憧れるよなぁ。
「ってかさ、暑苦しいから止めろよな~。ただでさえカンカン照りの砂漠なんだからさ~」
「レンの言う通りよ。どうせやるなら夜中に一人でやってなさい」
「へぃへぃ、分かったよ」
砂漠はまだ続くようだし、無駄に体力使うのは避けとくか。
「皆さん、街が見えてきましたよ。あの街より先は数日間は砂漠の中で過ごすことになる――そうタケゾウさんが言っておりました」
「補給も兼ねて寄ってくか」
その街はオアシスを中心に栄えてるらしく、砂漠を縦断面する奴は必ずといっていいほど立ち寄るんだとか。
そうなると当然他の旅人も寄り付くわけだが、ある冒険者たちがすれ違い様に俺らに向かって忠告してきた。
「アンタらも最果ての街に寄るつもりか?」
「最果てって、あの街のことか?」
「ああ。だが悪いことは言わない。止めときな」
「え? でもこの街を逃したらしばらくは補給ができないんだろ? なんでまた」
「あの街を牛耳ってる奴らがいんのさ。どこだかの傭兵団が根城にしたらしくてな、大人数でやりたい放題さ」
詳しく聞くと、最果ての街はどこの国にも属してはなく、それをいいことに住み着いた傭兵団が悪さしてるらしい。
住民たちも迷惑がっちゃいるが、立ち向かった自警団が返り討ちにあったようで、以後すっかり大人しくなってるんだと。
「じゃあ自由に買い物したりとかは……」
「当然不可能だ。逆に有り金巻き上げられて終わりだろうな。場所が場所だけにどっかの国に頼るわけにもいかず、事態は変わらぬまま。しばらくは改善しないだろうなぁ」
「マジかよ……」
「まぁアンタらがテイムしたその狼なら蹴散らせるかもしれんが……。ま、忠告はしたぜ」
それだけ言うと、冒険者たちは足早に去っていった。
普通の冒険者ならハイそうですかと回れ右をしただろうが、俺たちは違う。
「フン。どこのバカだか知らないけれど、メリー様の邪魔をするなら容赦しないわ。逆さ吊りにしてジワジワと痛ぶってやる」
「ボクだって同じだぞ~。血に飢えてるし肉料理にも飢えてるんだからな~」
「肉といえば、この街はイエローウルフの肉が名物だそうですよ。ウルちゃんも楽しみですよね?」
「バウ!」
スペール王国の晩餐会でたらふく食った記憶があるんだがな。コイツらは忘れてるのか?
「肉……ですか。動物性タンパク質の補給は重要……です。ぜひとも口にしたい……ですね」
「ユラもスペール王国でバックバク食ってただろうが。ゴーレムって肉食なのかよってくらいに」
「動力源とタンパク質は別腹……です。ついでにジュースとスイーツも別腹……です」
「便利な構造だなおい。便利ついでに入口でたむろってる傭兵連中をどかしてきてくれ。そうしたら好きなだけ食わせてやる」
「交渉成立です!」
「バウ!」
「あ~~~!? ボクにも食わせろ~!」
やる気スイッチが入ったらしいユラが傭兵に突撃していく。肉食獣のウルと血に飢えたレンも続き、それを見た傭兵団はギョっとした顔で仰け反っている。
「うわぁ、魔物だぁぁぁ!」
「くそっ! 冒険者ギルドの奴らめ、冒険者を雇いやがったな!?(←それは当たり前だろう)」
「テイムされた魔物かよ! グロッソ様に報告だぁ!」
戦いを放棄して傭兵たちは街の中へと逃げ込んでいった。
「任務完了。約束は守ってもらい……ます」
「いや、ユラは何もしてないんじゃ……」
「守ってもらいますよ?」ポキポキ
「こぇ~よ! 分かったから指を鳴らすな」
無事に街へ入れたところで、食事の前に冒険者ギルドへ寄ることにした。ピラミッドでユラの入ってた棺を開けたら報告しろとかいうビラが貼ってたからな。
通行人にもジロジロと見られつつ冒険者ギルドを見つけると、外にウルとネージュを待たせていざ中へ。
ガチャ!
「あ、ぼ、冒険者ギルドに御用ですか?」
「ま、まぁそうなんだけど……」
ギルドに入るなり、職員からジロジロと見られる始末。なんだか余所者って扱い?
「いったいいくら払ったのか知らないが、そんなことをしてまで何故冒険者ギルドに?」
「ちょい待った! 払ったって何を?」
「入口に傭兵団が居たでしょう? 奴らは街を出入りする度に通行料と言って金品を巻き上げてるんです。そんな事をしてまで当ギルドにお越しというのは――」
「バカね。払う必要ないんだから払ってないわよ」
「……へ?」
「なんかグロッソに報告だ~とか言って逃げてったぞ~」
「か、彼らが逃げる!? そんなバカな! 貴方たちはいったい何をしたのですか!?」
「何って……」
面倒なんで職員を入口まで引っ張って、窓の外にいるウルを見せてやった。
「――ほら、これで分かったろ?」
「こ、これは凄い、ランクAのサバイバーウルフじゃないですか!」
ガバッ!
言うや否や職員はその場で土下座をし、ある事を懇願してきた。
「お願いです、どうか傭兵団を追い出すのに協力してください! このままでは商人も寄り付かなくなり、街は孤立してしまいます!」
「いいわよ。邪魔くさくてムカつくし、全員叩き出してやるわ。その代わり報酬はキチンと寄越しなさいよね」
「そこを何とか――――って、いいんですか?」
「そっちが頼んできたんだろ~? ボクたちは血に飢えてるんだから、感謝しろよな~」
「ちょっと意味が分かりかねますが、とりあえずはありがとう御座います!」
そこから正式な依頼としての受理とユラの件を報告し、傭兵団の団長の元へとご挨拶に赴いた。訪ねた相手は団長の1人――ヴァリアンっていう女で、この街で一番豪華な屋敷に住んでる派手派手姉ちゃんらしい。
ちなみに団長の1人っていうのは牛耳ってる傭兵団が二つあるからで、互いに協力関係にあるんだとか。
「おう、テメェら。ここはヴァリアンの姉御が住んでる邸だ。テメェらみてぇな他所もんの来る場所じゃねぇ。とっとと帰んな」
「そうは行かないわ。とっても大事な用件が有るんだもの。本人は居るの?」
「居るのは違いないが、お前らみたいな底辺の冒険者ごときに一々会ったりはしねぇよ。どうしても面会したいなら貢ぎ物を寄越しな!」
えらく横柄な態度だ。さすがの俺もイラっときたぜ。
「そうかそうか、貢ぎ物か。――ユラ、特大なやつをくれてやれ」
「了解……です」
「お、物分かりがいいな。賢いやつは出世するぜ!」
何を勘違いしたのか、見張りの傭兵は手を差し出してきやがった。ユラがその手を素早く取り、華麗に背負い投げを決める。
ズダン!
「グッホォ!?」
「誰がテメェらみたいなならず者に貢ぐかよバ~カ……です。小一時間そこで悶絶してやがれゴミ……です」
「おいおいユラ、お前ってばそんな台詞を吐く性格じゃないだろ」
「メリーが教えてくれました」
ま~た余計なこと教えやがって……。
「まぁいい。じゃあ行こうぜみんな。これは正式な依頼だから、殺さない限り多少は大目に見てもらえるぞ」
「ま、待ちやが――」
ドゲシッ!
「ゲッハァ!」
「下から覗くな変態め……です」
決して覗こうとしたわけじゃないんだろうが、這いつくばっていた傭兵の男がユラにおもいっきり腹を蹴られていた。
「アンタも覗いたらこうなるんだから覚えておきなさいよね」
「覗かねぇよ!」
「どうだかな~。何せヒサシってばロリコンだからな~」
「だから違うっての!」
「ミスターヒサシ、ユラを仲間に引き入れたのもそれが目的ですか。どうりで幼い女性だけを抱えてるパーティだと思いました。大変失望です」
「誤解だから真に受けるなよ!」
「大丈夫ですよ。わたくしネージュが居るのですから、幼い女性だけではありません」
「「「…………」」」
実年齢はそうなんだろうが、ネージュの場合は見た目でアウト判定が出ちまう。しかしそれを指摘すると半狂乱になるので怖くて言えないが。
「……コホン。先に進むか」
「……そうね」
「???」
首を傾げるネージュはさておき、難なく入口を突破して堂々と庭を横切っていく俺たち。すると庭で寛いでいた傭兵たちがこちらに気付き、武器を手に続々と集まってきた。無駄だと思うけど一応は話してみるか。
「ヴァリアンってやつに用があるんだけど」
「へへ、真っ昼間から堂々と【戦場の道しるべ】の邸に訪れた勇気は褒めてやる」
「せっかく来たんだ。俺たちが遊んでやるぜ~、グヘヘヘヘ!」
見た目で完全に舐めてやがったが、そこへウルが前に出た途端、状況は一変する。
「おい待て、その魔物は何だ! 一度も見たことがねぇ狼だぞ!?」
「チッ、厄介そうな魔物だ。テメェら気をつけやがれ!」
お、一応は気を引き締め直したか? ま、警戒したところで結果は変わらねぇけどな。
「ウル、せっかくだし一暴れしてこい」
「ガルルルル!」
「「「うわぁぁぁ!」」」
俺の一言で本気になったウル。そりゃもう滅茶苦茶強かった。数分もかからない内に腕や足を食いちぎられた野郎たちで庭が埋まっちまうくらいに。
んで、外が騒がしいことに気付いた奴が邸から出てきたんだが、驚いたことに比較的若い女が1人だけだった。
「な~によもぅ。せっかく気持ちよく寝てたのに、さっきからうるさいわねぇ……」
「俺たちはヴァリアンってやつに用があって来たんだ。冒険者ギルドの依頼で撃退しにな」
「ふ~ん、冒険者ギルドがねぇ? ってあららら、外にいた連中も全員やられてるわぁ。私1人じゃ傭兵団名乗れないじゃな~い」
俺たち全員の警戒心が増す。50人くらいは倒れてるはずの庭を見た台詞とは、到底思えないからだ。
恐らくこの女がヴァリアンだろうし、どことなく普通じゃない雰囲気が漂ってくる。
「お前……何者だ? 【戦場の棺】みたいにただの傭兵じゃないな。テメェもマンジャッカーだったりすんのか?」
「ふ~ん、戦場の棺ねぇ。まさかとは思うけど、彼らと連絡が途絶えたのって、ボウヤたちが関係してるのかなぁ?」
「……だとしたら?」
「フッ……」
「じっくりお話を聞かせてもらおうじゃない!」
頭部に角のようなものを生やし、背中に翼が生えたヴァリアン。どうやら本性を現したようだな。




