憑依対決
壁に大穴を開けて「どうです?」とでも言いたげにドヤ顔をかますユラ。その威力には驚かされたが、更に驚いたのが壁の向こうにも別の部屋があり、2、30人くらいの人間や獣人が居たことだ。
そして今、その全員の視線が俺とユラに集中しており、俺としてもどういう状況なのかと相手の反応を待った。すると、その中の1人であるハゲ上がったオッサンが……
「あーーーっ! テメェ、港街で俺たちをコケにしたガキ共!」
誰だと思えばこのオッサン、タイアー共和国の港街でネージュに絡んだ奴じゃねぇか。
「そう言うアンタは【戦場の棺】とかいう傭兵団だな? コケにしてねぇし、お前らが絡んで来たんだろ」
「るせぇ! テメェらのせいで報酬がパーになるわ仲間がオーガに食われるわで散々だ!」
「へ、ザマァ~♪」
「んの野郎!」
「待ちたまえ」
ヒートアップしつつある俺とオッサンの間に割って入ったのは、インテリっぽいメガネをかけた細身の中年男。タイアー共和国の兵士がそいつを取り巻くようにしていることから、その国の貴族なんだろう。
「私はタイアー共和国のカヤロー。爵位は侯爵である。何やら因縁があるようだが、この階層まで来たということはそれなりに腕が立つのだろう。どうかね、我々の側に付くというのなら報酬は弾むぞ?」
どうしますかという顔でユラが俺へと視線を移す。そんなもん、最初から決まってる。
「答えはノーだ」
「……ほぅ? この手勢を前に誘いを断るというのかね。この劣勢から救い、更には報酬まで出すと言っているのだが、キミには理解できなかったようだ。とても残念だよ」パチン!
ザッ!
カヤローが指を鳴らすと兵士たちが一斉に剣を抜き、ズラリと横に展開した。俺とユラも迎え撃とうとしたが、意外な人物が待ったをかける。因縁のある【戦場の棺】のリーダーだ。
「お待ちくだせぇカヤロー様、コイツの相手は俺たちがしやすぜ!」
「ほぅ、たった3人で大丈夫かね?」
「へへ、本物の戦い方をガキ共に教えてやりまさぁ」
「では任せるとしよう。私には邪神を復活させるという使命があるのでね」
カヤローが勝ち誇った顔で階段を上っていき、その階段の前に傭兵団が立ち塞がる。
「そんじゃ始めるとするかぁ。いくぜ野郎共!」
「「おう!」」
前にいた傭兵2人が威勢よく斬りかかってくる。しかし、そいつらの剣が俺に届くことはなく……
ガシガシッ!
「「んなっ!?」」
「ミスターヒサシの敵対者と認定。ブッ殺させていただきます」
ズダァァァン!
「ゲハァ!」
「グヘェ!」
男二人の手を器用に掴み、その場でグルリと一回転。二人を顔面から地面に叩きつけた。
地面が陥没して血が流れ出てるし、この二人はもう助からないだろう。
「これでアンタだけだな。あ、今さら謝っても遅いぜ? 遺恨を残さないためにも絶対に逃がすつもりはない」
「へへ、そいつぁお手上げだ。残念だが諦めるしかねぇなぁ」
カラン!
剣を捨てて万歳をする最後の1人。しかしこの男からはどこか余裕を感じられる。
それに今の戦い、コイツは最初から戦う気が無かったかのように感じる。いったい何を狙ってやがる?
「へへ、どうした、俺を殺すんじゃなかったのか?」
「それはお前の口を割らせてからだ。勿体ぶってないで話せよ」
「何のことだ?」
「今の戦い、明らかにお前は様子を見るのに徹していた。まるで俺を品定めしてるかのように」
漠然としたものだが、コイツが普通じゃないのは確かだ。男を威圧するように見下ろしていると、やがて観念したのか……
「へっ、さすがに気付くか。なら教えてやるが、テメェらに俺は殺せねぇ。いや、正確には俺の中身までは殺せねぇって感じだな」
「どういう意味だ?」
「へへ、そのままの意味さ。この野郎の身体は単なる依代。そろそろ別の依代にしてもいい頃合いだしなぁ」
「!?」
そうか、コイツには別の何かが取り憑いてやがんのか。
「確かに、この男からもう一つの別の反応を感じられ……ます」
「じゃあ、コイツが死んだら……」
「はい。恐らくはミスターヒサシに取り憑くつもり……でしょう」
「なるほどな、それが狙いか」
「へへ、さぁどうする? 見逃してくれるってんならおとなしく逃げるけどよぉ」
また別のやつに取り憑いて出会すのは御免だ。できればこの場で終わらせたいが。
しかし、やはり万能な我らがメリー。心強い一言をいただくことに。
『コイツに憑依させるつもりはないから安心しなさい』
「ってことは防げるんだな?」
『当然でしょ。ちなみにユラに憑依するのも無理ね。ゴーレムという母体にユラが憑依してるようなものだから』
「それを聞いて安心したぜ」
問題は解消されたとばかりに男に剣を突きつけた。
チャキ!
「へっ、いいのか? なら一思いにやってみなぁ!」
「ああ。せいぜい後悔するといいさ」
ズシャ!
「ギャハァ! ――っくぅぅぅ、やっぱ依代を失う直前ってのは激痛が走るぜぇ……グフッ」
男を斬り倒し絶命させると、黒いモヤのようなものが身体から立ち上がっていく。それはみるみるうちに人の顔へと変化し、不気味に微笑む顔が出来上がった。
「キッシャッシャッシャッ! こうして外に出るのは何年ぶりだろうなぁ。10年か? 210年か? まさか俺様を追い詰める奴が現れるとはなぁ」
「お前は何者だ?」
「俺様か? 俺様の名前はマンジャッカー。人に憑依して好き勝手に生きる魔物さ。この男もなかなかの強者でなぁ、うま~く立ち回って傭兵団を立ち上げたってわけさ。お陰て程よく楽しめたぜ? 稼いだ金で酒を浴びるほど飲みまくって、女も取っ替え引っ替えだったしなぁ。ま、コイツも俺様に憑依されて満足だったろうし、俺様も新たな身体で再出発。上手く出来てるよなぁ世界ってやつはよぉ? キッシャッシャッシャッ!」
他人の人生を滅茶苦茶にしといて逃げ延びる気でいるらしい。こんな奴を野放しには出来ないよな。
「んじゃそろそろ頂戴するぜぇ? 俺様が憑依出来るのは俺様を殺したお前しかいないんでなぁ!」
『――させるかゴミィ!』
ズバッ!
「ゲハァァァァァァ! な、なぜだ、なぜ俺様が干渉される!? どんな生き物だろうと俺様には触れられないはず!」
魔剣であるレンがマンジャッカーを切り裂く。いや、正確には辛うじて顔半分が残っているが、黒いモヤはさっきのより遥かに薄い。
「お前がどれだけ好き勝手してきたのか知らないが、世の中には例外がいるんだよ。お前に干渉できる存在がいたとしても、別に不思議じゃないだろ?」
「るせぇ! 俺様に逆らえる奴なんか居るはずはねぇ! そうだ、さっきのはマグレだ。そうに違いない! だからテメェも黙って従いやがれぇ!」
「断るぜ。寧ろ――」
マンジャッカーをしっかりと見据え、トドメのスキルをお見舞いする。
「テメェが黙って消えやがれ――懺悔夢要!」
「ヒギャァァァァァァ!」
「おい、リーダー」
「う……ん……」
「リーダー!」
「うおっ!?」
仲間の声に驚き、突っ伏した顔を上げて周りを見渡す。
「ここは……酒場か?」
「何を当たり前なこと言ってやがる。まさか墓場にでも見えるってか? 今日にでも団の名前を決めようってんで集まったんじゃねぇか。しっかりしろよおい」
そうか、そうだったな。団員もかなり集まったてきたしで、そろそろ門出にしようぜって話してたんだっけな。今までのは妄想を元にした夢ってところか。
「すまねぇ、ボーッとしてたみたいだ。じゃあ今から団の名前を決めるぜ。各自で候補を上げくれや」
俺の一声で次々と候補を上げてく団員達。酒が入ってることもあってか下品なものも出てくるが、そこはまぁご愛嬌だ。
で、最終的に決まったのが……
「おっし、今日から俺たちは【戦場の棺】を名乗るぜ!」
「「「おぅ!」」」
団の名前は決まった。結局は俺が上げたやつなんだがな。
しっかしまぁ、我ながら戦場の棺とは皮肉が効いてるぜ。コイツらは俺の手足となって動くだけの働き蟻に過ぎないってのによ。
つまり名前の由来はこうだ。戦地で散ったらそれでおしまいの切り捨て要員。戦場がコイツらの墓場ってわけさ。ククク、まぁせいぜい頑張って稼がせてくれよ~。
「あ、そうだ。せっかくだしよ、あの場所で打ち上げでもしようぜ」
「お、いいねいいねぇ!」
「っしゃあ、さっそく移動だ!」
あの場所だと?
「あいお前ら、いったいどこに行く気だ?」
「ついて来りゃ分かるって」
訳も分からぬままついていくと、やって来たのはちっぽけな教会だ。
「おいおい、冗談キツイぜ。いつから俺たちは神頼みするほど弱くなったんだ? だいたいよ、今さら良い子ちゃんぶったって何にも変わりゃしねぇ。それともアレか、これまでの行いを懺悔しましょうってか? ハハッ、それこそ天地がひっくり返ってもあり得ねぇぜ!」
なぁんて強がってはみたが、俺みたいな悪魔は教会が大の苦手だ。何せここには聖水が保管されてやがるからよ、万一それに触れちまったら火傷どころじゃ済まねぇ。下手すりゃ消滅の危機だ。
そんな訳で肩を竦めて立ち去ろうとするが、仲間が俺をガッチリと押さえて教会の中へと引きずり込もうとする。
ガシッ!
「お、おいお前ら、悪い冗談はよせ」
「冗談? ハッ、冗談なものか。俺たちは全員死んだってのに、お前1人が生き残ってるなんざ納得がいかねぇのさ」
「生き残ってる……だと?」
コイツらはいったい何を――
「ハッ!? ま、まさかお前ら、今までのは全部……」
「ああ。現実に起こったコトダ」
「ヒッ!?」
仲間の顔が変形していき、全員がゾンビやスケルトンへと変貌を遂げた。
「や、やめろお前ら、俺はまだ死ぬつもりはねぇ!」
「ああ、まだ死ねないだろうな。死ぬ前にじっくりと痛みを味わってもらわなきゃなぁ?」
「い、痛みだと? いったい何を……」
「そぉら、シスターがお待ちかねだぜ」
教会の奥にはシスターと言うにはちょいと幼い少女が。しかし、この小娘が振り向いた瞬間、背筋がゾクリと感じたのは気のせいではないだろう。何故なら……
「イッヒッヒッヒッ! よ~く来たわね、何号目かのモルモット。私が特別にブレンドした聖水を飲ませてあげるわ。ほ~ら、口を大きく開けなさ~い」
「バ、バカ、やめ――」
仲間に押さえつけられたまま口内へと注がれる聖水。俺はたまらず大暴れを始めた。
「グァァァ、あぎぃぃぃぃい!」
「ウケケケケケ♪ 良い反応するじゃない。見応えバッチリだし、心霊番組なら最高視聴率をマークするわ」
「ウッ――ゲホッゲホッ! ふざけんなクソガキ! こんな真似してただじゃおか――」
ザッパァ!
「ヒギャァァァァァァ!」
「ブッヒャッヒャッヒャッ! 反応面白すぎぃ!」
このガキ、一気に聖水を頭上からぶっかけてきやがった!
「ダ、ダメだ、本当に止めてくれ、このままじゃ消滅――」
「すればいいじゃない。それそれぇ♪」
「ァァァァァァ……」
ちきしょう、何だってこんな目に。こんなことならおとなしくしとくんだった……。
ジュ……
「対象の消滅を確認。ターゲット、オールクリアー……です」
『は~い、無事消滅~♪』
まさか傭兵団のリーダーが人外だとは思わなかったけどな。
『それにしてもヒサシ、アンタもなかなかやるじゃない。コイツの味もそれなりに美味だったし、ヒサシってば悪霊の素質があるんじゃないの? 死後に備えて私が色々とレクチャーしてあげるわ』
「ぜってぇ断る」
『はぁ? アンタ他人の親切を何だと――』
「そんなことよりタイアー共和国の奴らを追うぞ」
ものの数分で片付けた俺たちは、カヤローとかいう貴族の後を追う。




