棺の行方
あれから何度かタイアー共和国からの横槍はあったが、すべて難なく撃退。つきさっきスペール王国の魔術師たちが到着したところだ。
「マルセル殿、此度の働き実に見事。貴殿の電光石火な動きにより、タイアー共和国を出し抜くことができた。城に帰還した際には国王より直々にお言葉を賜れるであろう」
「こ、国王直々に……ですか?」
「左様。泉の確保は最重要項目であったため、貴殿には新たな爵位を授けるであろう」
「なんと!」
う~んと、マルセルの爵位が男爵だから、子爵に上がるって感じかな? こりゃ報酬も期待できそうだ。
「誠ありがたいことです」
「うむ。後のことはこちらに任せて速やかに帰還を。国王が首を長くしてお待ちなのでな」
「ハッ、では我々はこれで失礼致します」
マルセルに続いて俺たちも下山し始める。泉の効能が気になるところだが、報酬を貰うのが優先だからな。
タケゾウも同じ考えらしく、妙にさっきからマルセルを持ち上げている。
「没落寸前から子爵かい。八割はそのまま潰えるって言われてる貴族社会なのによ、アンタはよくやったぜ」
「そ、そうだろうか?」
「ああ。大変めでてぇこったし、報酬の方もよろしく頼むぜ」
「ハハッ! もちろんだとも」
いつもならそこにメリーが加わって色々と要求するところだが、今日に限っては黙り込んだまま一言も発しない。
すると急にピタリと足を止め……
「うん、やっぱり気になる。レンは気にならない?」
「んん? 何がだメリー、食い過ぎて腹でも痛いのか~?」
「食い意地張ったアンタと一緒にすんな! 私が言いたいのは戦場の棺とオーガの件よ」
「そういやあれっきり来なかったな~」
そうだ。アイツら、オーガをけしかけるって事をゲローニに話したらしいが、結局姿を現さなかったんだっけ。
「引き返して痕跡を探すわよ」
「おいおい嬢ちゃん、報酬はどうすんだ?」
「報酬? アンタにくれてやるわ。私はね、もっと楽しいものを見つけに行くの」
「いやマジか!? 俺としちゃありがたいんだが……」
俺の顔を見て意見を求めるタケゾウ。けどえあなったら聞かないんだよなぁ……。
「いいよ、貰ってくれ。金には困ってないし、メリーのストレスを貯める方がマイナスだからさ」
「へへ、そうかい? なら遠慮なく貰っとくが、後で返せと言われても手元には残らねぇぜ? しばらくはドンチャン騒ぎをするつもりだからな」
コイツ酒ぐせ悪そうだなぁ等と余計なことを思ってみる。
「ならば報酬はタケゾウ殿に渡すとしよう。諸君らもスペール王国に来た際には是非とも我がラスペラン家を訪ねて欲しい。救世主として歓迎させてもらおう。ではサラバだ」
「じゃあな、嬢ちゃんたち」
途中でタケゾウとマルセル一行に別れを告げ、踵を返して登り始める俺たち。
「それで、どうやってあの傭兵共を探すつもりだ?」
「まずはタイアー共和国の方に回ってみるのよ。多分だけど、オーガの痕跡が見つかると思うわ」
「つまり戦場の棺はオーガの返り討ちにあったって言いたいのか?」
「返り討ちっていうより誘導に失敗したんでしょうね。挑発して泉まで連れてくる予定だったんでしょ」
来なかったってことは途中でトラブったのかもしれんし、オーガによって壊滅または団員の多くが死亡して逃げ帰ったとも考えられるな。
「お? あっちに大勢の人がたむろしてるぞ~。何か面白いことでもあったかもな~」
レンの台詞とは裏腹にみんなして真剣な面持ちだし、面白い事ではなさそうだ。話し込んでいた一人が俺たちに気付くと、指をさして怒鳴ってくる。
「ああっ!? 貴様はスペール王国に雇われた冒険者! 貴様らのせいでこっちは大損だ、いったいどうしてくれる!?」
「おいおい旦那、落ち着きなよ。今は言い合いしてる場合じゃないだろう?」
「むぐぐぐ……」
ご立腹してるのは商人の男で、宥めた男は傭兵っぽいな。口振りから何か良くない事があったんだろうが、触らぬ神に祟りなしだ。無視して立ち去ろうとしたんだが、傭兵の男が手を合わせて頭を下げてきた。
「すまないがキミたち、恥を忍んで協力をお願いしたい」
「何かあったんですか?」
「この商人の分隊と連絡がつかないんだ。その分隊にも傭兵団がついていたから魔物ごときに壊滅はしないと思いたいが、もしかしたらということもある。俺たちは本体の護衛をしなきゃならないから、代わりに捜索をお願いしたいんだ。多分この辺りにいるはずなんだが……」
寄越してきた地図の1ヶ所を○で囲ってきた。オーガに襲われてる可能性もあるしすぐにでも直行したいところをグッと堪え、分隊についていた傭兵団に思うところがあったので聞いてみた。すると……
「その分隊を護衛していた傭兵団は【戦場の棺】じゃないですか?」
「確かにそうだが、彼らを知っているのか?」
「俺たちの邪魔をするためにオーガを焚き付けようとしたらしいですよ。その後どうなったかは知りませんが」
「オーガを!? なんて無茶な真似を! では今ごろ彼らは……」
ビンゴか。下手すると全滅、よくても命辛々逃げ延びてるくらいだろうな。可哀想だが分隊の商人も同じ末路を辿ってるだろう。
「くそぅ、戦場の棺なんぞに護衛を頼むのではなかった! どうせ分隊は全滅だろうし捜すだけ無駄だろう。さっさと引き上げるぞ」
「い、いいんですかい旦那?」
「フン、分隊の連中よりも掛けた金の方が痛いわぃ」
口の悪い商人はスタスタと歩き始め、傭兵の男たちは俺たちに軽く会釈をして商人の後に続いた。
「さ~てと、貴重な情報が手に入ったし、さっそく行ってみましょ!」
「おっしゃあ、ボクが一番乗りだ~!」
地図を片手に分隊が居たであろう場所へと急ぐ。そして現場が近付くにつれ、やたらとデカイ足跡が目立つようになってきた。いずれも数㎝は沈んでるしかなりの重量だ。
「これ、間違いなくオーガのだよな?」
「少なくとも人間ではないわね。関取でもこうはならないでしょ」
「あ、見てください! あそこに荷物が散らばってます!」
ネージュが見つけたのは分隊のものと思われる物資だった。荷車が荷物ごと放置されてて勿体ないのでメリーの霊蔵庫へとしまい、どこに向かったのかを探る。
「おお、血の跡み~っけ! 足跡もあっちに続いてるぞ~」
「行ってみよう」
戦闘の痕跡も見つけられたが血痕はさほど見当たらない。一方的な展開だったか? ともあれレンが血の跡を追って進んで行くと、絶壁で登れない場所へと出た。
「崖で行き止まり? いや、オーガはここを飛び越えていったのか。メリー、すまんが一人ずつ空へ――」
「その必要はないみたいよ?」
「――え?」
ゴゴゴゴゴ……
俺が間抜けな顔で聞き返したのと、崖の一部が左右に開いたのが同時だった。壁に仕掛けが施されていたらしい。
「この先みたいだぞ~」
オーガのサイズに合わせた洞穴が真っ直ぐに続いていて、所々に大きめな松明が灯されている。松明の大きさからも、ここがオーガの住みかなのは明白だ。
やがて開けた場所に着くと、全長3~5メートルくらいらあるオーガ数体が、巨大なテーブルを囲んで寛いでいる姿が目に入る。
「キョウハ……タイリョウ。メシ……タイリョウ」
「コレモ……リーダーノ……オカゲ」
「コンヤハ……ドイツヲ……クウカ」
テーブルの更に奥にある檻に入れられた人たちを指し、晩飯の話をしてるようだ。捕らわれてるのは身形からして分隊の商人たちだな。
「つ~か今初めて知ったんだが、オーガで言葉を喋れるんだな」
「いえ、普通は喋れないはずですよ。亜種の集まりなのでは?」
亜種か。知恵が有りそうだし、人質を盾にしてくる可能性もある。正面から挑むのは危険かもしれない。
ゴゴゴゴゴ……
「ん? 今の音は……」
「入口からです。多分、別のオーガが戻ってきたのかと」
結果はネージュの言う通りで、3体のオーガが新たに現れた。内1体は派手な装飾品を着飾っていて、他のオーガよりも偉そうに見える。
慌てて物陰に隠れると、3体は気付かずにテーブルに集まる仲間の元へと合流し、着飾ったオーガが口を開いた。
「留守をご苦労。逃げた傭兵は残らず食い殺してきたぞ」
「サスガ……リーダー」
「オレタチノ……リーダー」
やっぱあの派手な奴がリーダーか。そして逃げた傭兵ってのは戦場の棺だな。
「ねぇ、そろそろいいでしょ? さっさとブッ殺したいんだけど」
「ああ。けど今回メリーはオーガ1体に憑依して戦ってくれ。そうすりゃ人質を盾にする間もなく混乱させれるからな」
「ふ~ん? まぁいいけど。――じゃあ行くわよレン!」
「ガッテンだぞ~!」
メリーが物陰を伝って回り込み、レンが正面から突っ込んでいく。
「いっくぞオーガめ~!」
「ナンダ……コイツ、ドコカラ」
「ナニ、タカガコムスメ……ワレワレノ……テキデハナ――――グゲェ!」
侮った1体をバッサリと斬り落とした。しかし向こうも黙っちゃいない。
「おのれ、まさか後をつけられていたとは。お前たち、コイツは手強い。侮らずに一斉にかかれ!」
「「「グガァ!」」」
仲間を向かわせリーダーは人質のいる檻へと移動。そこで檻を見張っていたオーガにも指示を出す。
「お前も行け」
「グガァ!」
だが甘い。テメェが命令したオーガはすでにメリーの操り人形だ。
ドゴッ!
「ゴベッ!? ――き、貴様、何をす――ゴバァ!?」
リーダーの顔を容赦なく殴りつける憑依オーガ。他のオーガも何が起こってるのか分からずアタフタと慌て始めるが、時すでに遅し。反撃する隙を与えずにひたすら殴り続けた。
一方のレンも負けてはいない。
「アハッ♪ メリーも楽しんでるじゃん。ボクも張り切っちゃうぞ~、そりゃそりゃそりゃ~!」
ズバズバズバズバッ!
「ダ、ダメダ……ウゴキガハヤイ……」
「コンナ……ハズデハ……」
流星のような流れる動きでオーガの手足を斬り落とし、あっという間に全てのオーガを戦闘不能に。その頃にはメリーの方も決着がついたようで……
「はい、リーダーは動かなくなったからアンタは用済みよ」
ズバッ!
「グガァ!?」
最後に残ったオーガの首を草刈り鎌で斬り落として試合終了。その惨状を見て、オーガリーダーは悔しそうに言葉を漏らした。
「ぎ、ぎざまらは……何者だ……。進化じだおでが……ごうも容易ぐ……」
「進化したって部分に興味あるわね。どうやって進化したのよ?」
「ま、まごうせぎだ。おでの……体内に……」
「へぇ、体内にねぇ……」ニヤリ
「うぐっ!?」
メリーの笑みにゾクリとしたオーガリーダー。残念だが、お前の予想通りの結果が待っているだろう。
「なら体内から取り出さなきゃね~、イヒヒヒヒヒヒ!」
「や、やめろ、お前は悪魔か!」
「残念、私は悪霊でした~!」
ズシャ、ジャリ、グチャ!
目を覆いたくなるような光景がそこにあった。モロに見ちまった人質の皆さん、誠に申し訳ない。




