横槍
次の日の早朝。マルセル率いる私兵たちと混ざり、木々に囲まれた中央にポツンとある例の泉に到着。辺りはまだ薄暗いが冒険者ギルドの職員らしき姿は見当たらず、すでに引き上げた後なのだと察した。
「うむ、予想通り誰もいない。ではレン殿、よろしく頼むぞ」
「アハッ♪ まっかせて~!」
さっそくレンが魔力を流し込むと、泉全体が薄紫色の光に包まれていく。この状態を1日かけて国が管理している魔力システムとリンクさせるらしい。
「こんなので国有化ができるんですか? 今一中身が理解できないんですが」
「ああそうか、諸君らのような庶民は知らないのだな。我が国には自国専用の術式があってだな、これを魔力が溜まっている場所に施すことでそこを自国のものと認識させるのだ」
「え~と……」
「ハハ、少々難しかったかな? まぁそういうシステムがあるのだと思ってくれたまえ」
これは少し難解だから深くは考えないようにしよう。
「けど待ってるだけじゃ退屈じゃない。レン、さっさと終わらせなさいよ」
「いやいやメリー殿、普通は何人もの魔術師が休憩を挟みつつ実行するものなのだ。早くても半日かかると言われてるのに、たった数分で終わるなんてことはあり得ないよ」
「もうすぐ終わるぞ~」
「ほら、レン殿もこう言って――」
「レ、レン殿、今……何と?」
「だからもうすぐ終わるって。ほ~ら終わった。次は何すればいいんだ?」
「え、あ、いや…………え?」
さすが魔剣。魔力の量がパネェからもう終わっちまった。
「お~い、次はどうすんだ~?」
「あ、ああ。次は本国とのリンクだ。あちらの方角に本国があるから、そこに施してある術式とリンクすれば――」
「オッケ~。――よっと」
グワァン!
おお? 魔方陣が泉に浮かび上がってきて、どこかの国旗らしきものまで浮かんでるぞ。
「ほら、終わったぞ。これでいいんだろ?」
「こ、こんな簡単に……いや、そもそも一人では補いきれない魔力が必要だというのに、それを軽々とクリアーするとは……」
よほど予想外だったようで、マルセルも私兵も呆然と泉を眺めている。
「終わったわね。じゃあ帰りましょ」
「いやいやメリー殿、最後の仕上げがまだだ。今頃は本国の魔術師が泉とのリンク察知し、大慌てでこちらに向かう準備をしていることだろう」
「まだ帰れないってこと?」
「うむ。早くても2日後ではないかな」
「うへぇ、退屈~」
メリーの台詞じゃないが、後2日もここでジッとしてるのは退屈以外のなにものでもない。
そんな時、タケゾウが目付きを鋭くさせ、口の端を吊り上げてニヤリと笑った。
「嬢ちゃんに朗報だぜ。遊び相手のお出ましだ」
小動物でも現れたかと思ったがメリーやレンまでもが不適に笑ったのを見て、招かれざる客が来たんだと理解した。
「タイアー共和国? 邪魔するんなら殺っちゃってもいいわよねぇ、イヒヒヒヒヒ!」
「そうだな~。な~んか張り合いないし、相手してもらおうぜ~」
そんな可哀想な相手の正体だが、木々の向こうから人相の悪い男たちが走って来るのが見え、よく見るとその連中は北大陸に到着して間も無く因縁ができた相手【戦場の棺】だった。
すぐに襲いかかろうとするメリーたちだったが、タケゾウが手で制して連中の前へと躍り出る。
「まさかこうも早く泉を占拠されるとはなぁ。大したもんだと言いたいところだが、泉がそっちのもんになるのは都合が悪いんだ」
「ほぅ、それで? 報酬ははずむから妨害してこいとでも言われたか?」
「まぁな。だが俺たちゃ争い事が好きじゃねぇ。おとなしく引いてくれるってんなら見逃してやるぜぇ?」
「争い事が好きじゃない? ハッ、寧ろ好物なくせによく言うぜ。【戦場の棺】が聞いて呆れるぞ」
「……テメェ、俺たちを知ってて挑発してやがんのか?」
「おぅよ。2日前に鬼ごっこした仲じゃねぇか」
「2日前だと? ――――ああ! テメェらあん時のガキ共!」
俺やネージュの顔を見て思い出したようで、腕まくりをして迫ろうとしたところを他の仲間に止められる。後ろにはマルセルの私兵もいるし、傭兵だけで喧嘩売ったらどうなるかは明白だ。
「チッ! ここは退くが、このままじゃ済まさねぇからな!」
結局捨て台詞を吐いて戦場の棺は引き上げていく。
「フン、つまんないわね。逃げるなら最初から来るなっての」
「確かにな。だがあの様子じゃ今日明日中にはまた来るだろうぜ」
「なんだよオッサン、何か知ってるならボクたちにも教えろよな~」
「なぁに、連中が来たのは偵察が目的だったってことさ。恐らくは他の傭兵や貴族を焚き付けてくるだろうよ」
マルセルの私兵だけでも50人くらいはいる。対して戦場の棺は20人程度だったし、こっちを上回る数で仕掛けるつもりだな。
結局その日は何も起こらず、警戒していた俺たちは拍子抜けに終わる。次の日も襲撃はなかったため、暇潰しにネージュが釣りをし出した以外には何もなし(危うく魔物がマルセルたちを襲ったのがイレグイスキルのせいだとバレるところだった)。
だが次の日の夜、予期せぬ相手が現れた。
「やぁやぁマルセル殿。此度の迅速な動き、実に素晴らしいものだ」
「こ、これは、ゲローニ伯爵……」
なんと、現れたのは味方の伯爵。だが決して喜ばしい事ではない。
敵が来ないのに姿を見せるという事は、単に顔見せに来ただけか横取りにし来たかの二つに一つだ。
「だがこの泉は大変貴重な資源だ。男爵のキミには荷が重いだろう。どうだね、ここは私に任せるというのは。私兵の数だってキミの倍は居るのだし、安心して手を引きたまえ」
「…………」
どうやら後者らしい。さりげなく自分たちの兵力が上だとアピールして諦めさせる気のようだ。
勝ち誇った顔のゲローニとは対照的にマルセルは苦虫を噛み潰しているかのようで、苦し気な顔を俺たちに向けてきた。
「…………」コクリ
「…………」コクッ
手を貸してくれって顔してたから大きく頷いて見せた。するとマルセルはゲローニへと向き直り……
「せっかくですがお断り致します」
「……何?」
「此度の作戦は我が家の家運がかかっています。功績を捨てて逃げ帰るなど、亡き両親に顔向けができません」
「つまり、ここは退かぬと申すか?」
「そのつもりです。例え貴方様のご命令でも、ここは譲れません!」
「フン、ならば仕方ない。せっかく穏便に済ませてやろうとしたのに、断るとはバカな奴め。そっちがその気なら実力で排除してやろう」
ザザッ!
ゲローニの私兵が前に出る。そして徐にゲローニが手を上げると……
「かかれぇぇぇ!」
「「「おおおっ!」」」
手を下ろしたのと同時にゲローニの私兵たちが斬り込んでくる。倍の戦力に恐れ戦くかと思っただろう。
だが奴は勘違いをしている。なぜなら、ここには他人をいたぶるのと血を見るのが大好きな二人が居るんだからな!
「ウケケケケケ! 100人近くも殺せるなんて、今日はついてるわ!」
「一人占めはダメだぞメリー、ちゃんと半分ずつだかんな~!」
「そこは三等分にするべきじゃないかい?」
「「絶対ダメ~~~!」」
「へいへい。ここは嬢ちゃんたちに譲っとくぜ」
苦笑いのタケゾウを他所に、狂喜に染まった二人が大暴れする。ゲローニの私兵も最初は侮ったものの、攻撃が効かないメリーと近付いただけで斬り倒してくるレンに対して徐々に顔を青くしていく。
「なんだよコイツら、攻撃が効かな――ウギャア!」
「くそぅ、楽な戦いだって聞い――グヘッ!」
「も、もうダメだ、助けてくれぇぇぇ!」
「ひぃぃぃ、死にたくねぇぇぇ!」
半数以上が死んだところで、ついに私兵が逃亡を始めた。
「おい、待たんかお前たち! 私を見殺しにする気か!?」
「そりゃそうでしょ。負け戦に最後まで付き合おうなんて、普通は思わないもの」
「けど白黒つくまで止めないぞ~? ほら、お前もさっさと剣をとれよ~」
「う、うわぁぁぁぁぁぁ!」
とうとうボッチになったゲローニに対し、レンがジリジリと詰め寄っていく。
が、それに待ったをかける人物が一人。言わずと知れたメリーである。
「待ちなさい。そいつは私の獲物よ」
「なんだよメリー、邪魔する気か~?」
「……やるの?」
「……そっちがその気ならな~」
「「…………」」
「「最初はグー、ジャンケンポン!」」
「へへ~ん、勝ったぞ~!」
「キィィィィィィ! 素直にグーを出しとくべきだった!」
「んじゃそういうわけで――」
ズバッ!
「フンゲハァァァ!? あ、あ、あ、足が斬れだぁぁぁ! 貴様ら、わだじをごろずぎが~~~! スペール王国の伯爵だぞ~~~!」
「なによ~? そもそも襲ってきたのはアンタじゃない」
「ボクたちは契約に従ってマルセルを護っただけだぞ~?」
「そういうこった。お前さんの身分とか俺たちにゃ関係ないのさ」
逃がしてもいいが、殺したとしても罪には問われない。だがこの場合、大半の冒険者は生け捕りにしてから本国に送還するだろう。金と引き換えにできるからな。
しかし捕まった相手が悪かった。レンは三度の飯よりも血を見るのが好きなんだ。
「アハッ♪ この真っ赤な血の色がそそるんだよ~。次は腕を斬っちゃおうか~」
「やややや止めてくれぇぇぇ! 私はただ話を持ちかけられただけなんだ! 手柄を独占されるのが許せなかっただけで、別にマルセルを殺そうとは思ってなかったのだ!」
「話~? いったい何の話だよ~?」
「戦場の棺という傭兵団に誘われたのだ。私が攻撃を仕掛けたら背後から奇襲する手筈だった」
背後から奇襲? その割には傭兵連中は襲ってきてないが……
「でも傭兵なんか来てないぞ~?」
「う、嘘じゃない! オーガを焚き付けてくるとか言っておったから、少々手こずっておるのではないか?」
「オーガぁ?」
多分ここに来る途中で偶然にもオーガを目撃したんだろう。だが来ないという事は……




