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閑話:勇者の孫の1日

 突然だが、ワッチはかの有名な勇者アレクシスの孫リーザであるぞよ。

 人間である祖父アレクシスと魔族の祖母リーガとの間に母が生まれ、後に――――なに、ワッチの生い立ちなどどうでもよいと? むぅ、つれないのぅ。

 まぁよいぞよ。そんなワッチは今、オルロージュ帝国のザッカートという街で生活しておるのだが……



 コンコン!


「失礼します」


 カチャ


「おはよう御座いますリーザ様」

「……ふぁ~~~ぁ――っと。おはようぞよフレネート」


 メイドの声で気持ちの良い朝を迎えた。敬われてる感じがして実に良い気分である。

 とは言ってもこのメイド、実のところワッチが雇った者ではなく、前任者であるヒサシが雇った者ぞよ。

 そのヒサシは数日前に世界旅行へ旅立ったため、その間の留守を任されたワッチが主人ということになるがな。


「朝食のご用意が整っておりますので、冷めないうちに食堂へお越し下さいませ」

「うむ、分かったぞよ」


 メイドの1人――フレネートと共に食堂へ向かうと、子供たち10人とその保護者ナディアが待っておったわ。


「リーザ遅~い!」

「お寝坊さんだ~!」

「こら二人とも、私語は慎みなさい」


 叫ぶ子供たちをナディアが叱る。まるで孤児院のように見えるかもしれんが、実はその通りだったりするぞよ。

 隣街にいた孤児たちと院長であるナディアをこっちの事情に巻き込んでしまい、やむを得ずヒサシが保護して連れ帰ったのだと。

 何ともお人好しだが、そこがヒサシの良いところでもあるとワッチは思うぞよ。


「さて、皆揃ったかの?」

「申し訳ありませんリーザ様。フィルン様がまだ……」

「またあやつか……」


 困った顔で告げてくるメイドのリリアン。フィルンはサザンブリング王国の王女なのだが、国内がキナ臭いため国外に避難させるという名目で共に生活しておるぞよ。

 しかしフィルンには1つだけ特大な欠点があり……


「ゴメンゴメ~ン――じゃなかった! すみませ~ん、只今お連れしました~!」

「zzz」


 メイドの1人――ハルミがフィルンを背負った状態でヨロヨロと入って来た。

 いまだ夢心地のフィルンを見て分かる通りこやつは朝が大の苦手らしくてな、リラックスした環境に置かれると昼まで起きないほどの眠り姫なのだ。何とも困った娘ぞよ。


「フィルンまた寝てる~」

「早く食べよ~よ?」

「ダメよ。フィルンさんがお顔を洗うまで待って――」

「よいではないかナディアよ。フィルンを持っておったら昼になるぞ。――ほれ、た~んと食うがいい」

「「「やった~!」」」


 皿に乗っているパンを口一杯に頬張る子供たち。実に微笑ましい光景ぞよ。


「すみません、リーザさん」

「なぁに、ナディアが謝ることではないぞよ。寧ろフィルンが頭を下げねばならんわぃ」


 程なくして顔を洗ったフィルンが食卓につく頃には子供たちは食べ終わっており、すでに遊びに出た後ぞよ。


「ふぁ~~~ぁ、おはよう御座いまふぅ」

「おはよう御座いますフィルンさん。()()()良い夢を見れたのですか?」

「は、はい~、そうなんですナディアさん! 森に住んでるクマさんと出会って、一緒に筋トレをする夢でした。ジムに入会しないかと誘われたのですが立場上難しいと言って断っちゃいましたけれど。でもこの話には続きがあってですね、入会を断る代わりに――。ところで子供たちはどこでしょう? せっかくお話を聞かせてあげようと思ったのですが」

「とっくに食べ終わって遊びに出たぞよ」

「そんなぁ……」


 この通り、最近は夢で見たことを子供たちに語るのが楽しみらしいぞよ。当の子供たちは殆ど聞き流してるようだがの。


「そんなことよりフィルンよ、食べ終わったら修行するぞよ」

「ええ!? で、ですが環境が変わったばっかりですし、まだ心の準備が……」

「たわけ。環境に影響されるやつがグッスリと眠りこけるわけなかろう」

「はうぅ……」


 まったく、こやつのサボり癖はどうにかならんもんかのぅ。


「あ、そう言えばナディアさん、子供たちのお勉強は進んでいますか?」

「はい。孤児院にいた頃は家事洗濯となかなか教える時間が無かったのですが、ここでは皆さんのご助力があり大変助かっております」


 聞けばナディア1人で孤児院を運営していたらしいからな。さぞ大変だったであろう。その点この邸ならメイドに任せておける分、子供たちとの時間を増やせるし渡りに船だっでのではないかの。

 

「それは良かったです。では今日あたり私が教える側に――」

「――なる必要はないぞよ? フィルンはワッチとの修行を優先せんとな。――ほれ、食べ終わったなら早く行くぞぃ」

「ちょちょちょちょ、逃げませんので髪を引っ張らないでぇ……」


 まったく。隙あらばサボろうとする癖はなかなか直らんぞよ。フィルンの兄であるグレンモーゼは勤勉な男であったが、いったい誰に似たのやら。



◆◆◆◆◆



「へくちっ!」

「どうしたネージュ。風邪でも引いたか?」

「いえ、少し鼻がムズムズして――あ、もしかしたら風邪かもしれません。すみませんが先に休んで――」

「ウソつけネージュ、生まれてから一度も風邪なんか引いてないって言ってただろ~!」

「それに風邪引く奴は潜在的バカとも言ってたわよね?」

「バウ!」



「……コホン。レンとメリーはこう言ってるが?」

「え、え~と……あは、あははは! ――木の実の採取を続けます……」



◆◆◆◆◆



 まぁ誰に似ようがどうでもいいわぃ。


「ほれ、早う上がって来んか」

「あ、あの~、屋根の上で修行というのは少々危険ではないかと……」

「心配いらん。落ちそうになったらすぐに助けるでな。上から使い魔も見ておるし、安全対策は万全ぞよ」

「わ、分かりました」


 フィルンを匿っている間は護身術を教えてやってほしいとグレンモーゼから頼まれてるしの。今後のことも考えると手を抜くわけにもいかん。


「さて。まずは復習からぞよ。精神を集中させ詠唱を始めるぞよ」

「はい!」



★★★★★



「リーザ様、フィルン様、昼食のご用意ができましたよ」

「おお、もう昼か」

「リーザ様、早く参りましょう!」

「こ、これ、待たんか」


 フィルンの奴め、これ幸いと逃げよって。


「まったく、困った小娘だわい」

「フフフ、リーザ様もあまりお変わりないご年齢だと思いますよ」

「…………」


 リリアンめ、ワッチとフィルンが同じ歳だと思っとるのか。


「念のため言っておくが、ワッチは100年以上生きとるぞよ。自己紹介の際に伝えたであろうに」

「フフ、そういう事にしておきますから、早く食堂に向かいましょ」

「だから違うと言――って、もういなくなっとるわぃ」

 

 まさかとは思うが、他の者にも聞いてみるとしよう。



「え? リーザ様ってここの子たちと同じくらいの歳だよね? ――じゃなかった、お歳ですよね?」

「…………」


 ハルミもリリアンと同じか。


「リリアンにも言ったのだが、ワッチは100年以上生きておるのだ。子供扱いするでないぞ」

「え…………ああ! はいはい、了解しましたよ~。リーザ様偉い偉い」お~ヨシヨシ

「こ、これ、頭を撫でるでないぞよ!」


 何故か子供扱いされてる気がするが、ハルミには言い聞かせたぞ。次に参ろう。



「またその話ですか?」

「リリアンよ、お主が理解するまで何度でも話すぞよ」

「何度でも…………あ! はい、分かりました。リーザ様は年長者なのですね!」

「分かってくれたか」

「はい。しっかりと覚えましたよ~。では私はお洗濯に戻りますので。(挨拶の時に聞いてたけど、この設定まだ続いてたのね)」

「うむ。忘れるでないぞよ」


 よし、次じゃ。



「勇者様の孫でしたものね。100年以上生きておられても不思議とは思いませんよ」

「おお、分かってくれるか!」


 さすがフレネート。メイド3人の中で最年長だけあって、しっかり認識しとったぞよ。


「お主に比べてリリアンとハルミには困ったものだのぅ」

「あの娘たちはまだメイドとしての経験が浅いですからね。自然に(話を)合わせるまでは至らないの及ばないのでしょう。(素でお答えしてしまい)申し訳御座いません」

「なぁに、フレネートが謝ることではないぞよ」


 キチンと理解しておるではないか。やはりリリアンとハルミが理解してなかっただけなのだな。よし、この調子で次に行くぞ。



「はい、存じてますよ。リーザ様はご年長者ですものね」

「さすがナディア、言うまでもなく即答であったな」

「ヒサシさんから(リーザを怒らせると面倒なので、テキトーに合わせといてくれと)言われてましたので」

「うむうむ。結構結構」


 何だかんだ言ってヒサシもキチンと話しておるのだな。帰ったら甘えさせてやるとしよう。

 さて、最後は子供たちだな。



「リーザは100年以上生きてるって~?」

「嘘つくなよ~。どう見たって子供だろ~」


 ぐぬぬぬ、子供に子供と言われるのは少々頭にくるのぅ。だがこの場で言い聞かせてやれば良いだけの話ぞよ。


「よいか? よく聞け子供たちよ。ワッチには魔族である母の血が流れておる。魔族は数百年は生きられるのでな、お主らのような人間や獣人と違い、見た目と年齢が合わんことはよくあるのだ。これからはワッチを敬うように!」


 キッチリ言い聞かせてやったぞよ。これで今後は――



「でも昨日、ニンジン嫌いだとか言って駄々こねてなかった?」

「むぐっ!?」

「その前にもスープが熱いとか言って、フレネートにフーフーさせてたろ?」

「むぐぐぐっ!」

「それだけじゃないわ、ヒサシ兄ちゃんが買ってきたケーキを年長者だからって大きめに切って貰ってたでしょ? 普通年長者なら子供に譲るじゃない」

「むが~~~っ!」


 お、おのれぇ、子供のくせに生意気な!


「そこに直れお前たち! そのねじ曲がった根性を叩き直してくれるわ!」

「わ~い! リーザが鬼だ、にっげろ~!」

「キャハハハハ!」

「お~にさんこ~ちら~♪」


 ええぃ、すばしっこい奴らめ!


「あの~、リーザ様。修行の続きは……」

「見れば分かるだろうに。今はそれどころではない。ワッチの沽券に関わるぞよ!」

「は、はぁ……」

「待てーーーぃ! 今日こそ全員捕まえてやるぞよ~~~!」


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